遺言書を見つけたらどうする?
生前の意思に沿った相続手続きの進め方

遺言書を見つけたらどうする?<br>生前の意思に沿った相続手続きの進め方

亡くなった家族の遺品から遺言書が見つかった時は、ひとまず「家裁に持っていくまで開封しない」と覚えておきましょう。開封後は遺言執行者の指定その他の内容を確認し、他の相続人と協力しながら遺志の実現を進めます。

遺された家族が行う手続きには多数のプロセスがあり、全体の見通しがないと所定の各期限に間に合いません。本記事を読めば、先々必要な対応にあたりがつくでしょう。

遺言書が見つかったらやること

遺言書を見つけたら、まずは家族に一言だけでも連絡しておかなくてはなりません。書面の有無で今後の進め方に違いが出てくる点、現状の共有が出来ていなければ、各相続人のスケジュールにも影響が出てくるからです。
その上で、発見した書面は以下のように取り扱いましょう。

未開封のまま遺言書の種類を見分ける

封筒に入っている遺言書は、必ず未開封のまま種類を確かめます。
表題や署名、封筒に添えられた注意書き等をよく確認して、以下のどの形式で作成されたものか見極めましょう。

自筆証書遺言 表題は「遺言書」等、署名は被相続人1名分
※ 中身は全文手書きで作成されている
秘密証書遺言 表題は「遺言書」等、署名は公証人を入れて計4名分
※ 中身は手書きorワープロで作成されている
公正証書遺言 表題は「遺言公正証書」等、公証役場名が入っていることも
※ 中身は公証人が作成

家庭裁判所に提出する(遺言書の検認)

自筆証書遺言書もしくは秘密証書遺言書だった場合、やはり未開封の状態で、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。法律上「遺言書の検認(民法第1004条各項)と呼ばれる、開封して現状を証明してもらうための手続きです。
検認の手続きでは、遺言書にいくつか添えるべきものがあります(下記参照)

  • 検認申立書(各裁判所Webサイトや窓口に書式あり)
  • 被相続人(=遺言書の作成者)の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本
  • 収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手(※)

※ 郵送で提出する場合のみ、家裁からの返信を受け取るために必要です。切手代は管轄により異なるため、詳しくは各窓口に問い合わせましょう。

検認当日は、申立人とその他の相続人全員で開封に立ち会わなければなりません。とはいえ、実際には、代理人として士業のみ立ち会うのが一般的です。

【参考】裁判所

遺言書の検認 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html

公正証書遺言は検認不要

見つかった書面が公正証書遺言である場合、検認せずそのまま遺言執行(=遺言の実現)に移っても構いません。所定の作成手順によって遺言事項(=遺言として効力を持つ記載事項)が公的に証明されており、原本も公証役場にて保管されている以上、遺言の現状を改めて確認するまでもないと考えられるためです。

【参考】自筆証書遺言保管制度について

令和2年7月10日以降に作成された自筆証書遺言は、同日始まった制度法務省:自筆証書遺言書保管制度 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.htmlにより、法務局で保管されている場合があります。該当する遺言書は、公正証書遺言と同様に公的な証明があるため、法律で検認不要と定められています。

遺言書を勝手に開封するとどうなる?

繰り返し説明したように、見つけた遺言書を焦って開封しないよう注意しましょう。
検認が必要な形式のものを勝手に開封した場合、その人は5万円以下の過料に処されるとの規定があります(民法第1005条)
より問題なのは、遺言書の効力に疑義が生じてしまう点です。

自筆証書遺言の場合【相続トラブルに発展する可能性】

自筆証書遺言は本体の書き方によって効力を持つもので、封を切った時点で即座に無効となるわけではありません。ただし、共同相続人が無断開封を咎める場合は別です。
考えられるのは、同居家族が開封してしまい、これについて「無断で書き換えたのではないか」「死後偽造されたものではないか」等と親族から疑われてしまう可能性です。疑いが晴れないと遺言無効確認訴訟に発展し、その結果として遺言の効力が失われる場合があり得るのです。

【参考】遺言に手を加えた人は相続できない

遺言書の偽造・変造・改ざん等の行為は、相続人の欠格事由(民法第891条5号)に該当します。これらの理由で無効になった場合、後に開かれる遺産分割協議に参加できず、相続財産を受け取る機会すらなくなるのです。

秘密証書遺言の場合【原則として無効になる】

秘密証書遺言の効力は、封印と開封が正しい手順で行われることで生じます。つまり、原則上、検認を経ず開封してしまった時点で無効です。
もっとも、本体が自筆証書遺言の形式で作成されているのなら、例外的に効力が生じるとする規定があります(民法第971条)。とはいえ、先で紹介したように、偽造・改ざん等の疑いは免れられません。

遺言執行者が指定されていた場合

遺言書には、相続手続きが円滑に進むようとの想いから「遺言執行者(民法第1006条以下)が指定されているものがあります。もし記載があれば、遺言書の検認を経た後の必要な手続きにつき、その大半を指名された人物に行ってもらえます。

遺言執行者の任務【何をやってくれるのか】

遺言執行者には、相続財産の管理その他の「遺言の執行に必要な一切の行為」をするための権利義務が与えられます(民法第1012条)。また、相続権を有さない人に遺産をもらい受けさせる「遺贈」に関しては、遺言執行者があれば該当者しか実行できません(同条第2項)
以上その他の規定により、本来は相続人が自分たちで行う下記のような手続きにつき、本人らに変わって執り行ってくれます。

  • 全相続人への遺言内容の通知(民法第1007条2項)
  • 相続財産の目録交付(民法第1011条各項)
  • 遺言事項の実現(=遺産の名義変更等/民法第1012条第1項)
  • 任務完了の報告(民法第1012条3項・民法645条)

遺言執行者にしか出来ないこと

遺言事項の中には、遺言執行者がいないと実現できないものもあります。普通はその遺言で遺言執行者の指定もあるものですが、指定がない場合は、相続人等の利害関係者より家裁へ選任申立(民法第1010条)をしなければなりません。

  • 子の認知(戸籍法第64条)
  • 相続人の廃除(=相続権の剥奪/民法第893条)
  • 遺言による一般社団法人の設立(一般社団・財団法人法第152条2項)

遺言執行者の指定が委託されている場合の対応方法

遺言では、遺言執行者を指定せず「遺言者の子○○に指定を委託する」とのような文言に留めておくこともできます。もし委託された場合、遅滞なく指定を済ませ、それを他の相続人に通知しなければなりません(民法第1006条第2項)
それでは、いったい誰とするのが良いのでしょうか。

まず、未成年者や破産手続中の人は、法律で候補者から除外されます(遺言執行者の欠格事由/民法第1009条)。高齢者その他の健康状態に不安がある人も、その後体調しだいで法律行為が出来なくなる可能性があるため、ふさわしくありません。
そこで「健康で若い近親者」が候補に挙がりますが、実務上は弁護士や司法書士と言った士業を指定するのがセオリーです。内々に相続手続きを終わらせたいとの希望が取り立ててない限り、手続きに関する知識や責任感・中立性の面で、最も信頼できる相手になるからです。

遺言執行者は辞退できる?

「同居する長男・長女に任せたい」との生前の希望から、特定の相続人が遺言執行者に指定されるのは、実によくあることです。この場合、自信がなければ辞退しても構いません。ただ、家裁への選任申立は速やかに行う必要があります。

実のところ、遺言執行者の職務はとても簡単とは言えません。共同相続人がやるべき手続きを一挙に引き受けるだけでなく、ミスがあると善管注意義務(民法第644条)に違反したとして損害賠償責任を負う立場だからです。

遺言執行のやり方│遺産の名義変更の進め方

それでは、検認を経た遺言書の内容を自分たちで実現しようとする場合、どういった手続きになるのでしょうか。
結論を言えば、預貯金なら銀行へ・土地建物なら登記所へ……とのように、財産ごとに遺言に沿って所有者を変更する手続きが必要です。遺産分割の指定以外にも、遺言にある事柄は共同相続人で協力し合って実現しなければなりません。

預貯金の名義変更【口座解約&残高の払戻し】

遺言に沿った預貯金の名義変更は、事前問い合わせの上で書類を提出すれば済みます。詳しくは担当者に案内してもらえますが、事前に以下一式を揃えておくとスムーズです。

  • 遺言書本体
  • 所定の申請書(払戻先口座の情報等を記入したもの)
  • 家裁から交付された検認済証明書(検認調書)(※)
  • 被相続人の死亡が確認できるもの(除籍謄本等)

※ 公正証書遺言の場合は不要です。

ややこしいのは、取引先金融機関により提出物のボリュームが大幅に増える点です。一部の銀行では、相続関係の証明が必要であるとして、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本に加え、各相続人の現在の戸籍謄本を求めています。
戸籍謄本一式は、相続手続き全体を通して度々必要になります。現時点で不要だとしても、遺言執行の早い段階で揃えておくと良いでしょう。

不動産の名義変更【相続登記】

相続不動産にかかる遺言執行は、登記申請によって完了します。手続きは「相続登記」と呼ばれ、大まかに以下3種類の書類が必要です。

① 登記申請書

所定の書式を用意し、登記の目的・登記原因(相続または遺贈)・登記簿にある不動産の表示等の情報を記入します。申請手数料にあたる登録免許税(固定資産税評価額×0.4%)も自分たちで計算し、記入しなければなりません。

② 登記原因証明情報

遺言執行の場合は、遺言書本体と検認済証明書(※公正証書遺言の場合は不要)に加え、死亡と相続関係を証明する戸籍謄本一式が必要となります。

③ その他の書類

遺言執行によって新たな不動産の所有者となる人については、納税地を特定するため住民票が必要です。また、登録免許税の計算は登記官側でも行うため、固定資産評価証明書も添付しなければなりません。

その他の遺産分割に必要な手続き

遺言執行では、資産状況や遺言事項によって手続きが全く異なります。他にも、以下のような難しい対応が必要になるかもしれません。

  • 債権回収(督促や差押え等)
  • 不法占有者の排除(土地明渡請求等)
  • 受遺者への財産引き渡し(連絡し、名義変更の協力を仰ぐ)
  • 抵当権抹消登記(相続不動産を担保に事業性融資等が組まれていた場合)
  • 遺産分割のための売却手続き(土地建物につき換価分割が指定されている場合等)

債権回収等の法律トラブルが絡む手続きは、知識が必要になる他、相続人同士で密に連携をとる必要があります。よくある土地建物に関する手続きでは、司法書士と不動産会社の両方の力が必要になるでしょう。
あまり無理をせず、少しでも戸惑うことがあれば、専門家に繋がる窓口に相談してみるべきです。

遺言による信託が指定されている場合

遺言では、被相続人から篤い信頼を得ていた人が「受託者」に指名され、別の受益者のため資産管理するようお願いされることがあります。受益者になることが多いのは、高齢者・障がい者・病人等といった生活力に不安がある相続人です。
管理すると言っても、信託財産を受託者の所有にしても良いわけではありません。分別管理義務(信託法第34条)に沿いつつ、信託されたと第三者にも分かるよう、通常遺産をもらう時とは異なる下記のような手続きが必要です。

【一例】信託開始時の手続き
  • 預貯金:信託口口座の開設+残高移動
  • 不動産:信託登記及び所有権移転登記の申請
  • 自社株:株式名簿の書換

遺言による信託の条件は実にさまざまで、生前の打ち合わせがない場合は書面から読み解く必要があります。なお、信託が引き受けられない場合は、裁判所に申し立てて別の受託者を選任してもらっても構いません(信託法第6条)
いずれにしても、信託は一般に知られていない高度な法律行為です。被相続人の指定と相続人がやるべき手続きに関しては、士業に判断してもらうのが無難です。

遺言の実現と同時並行で進める手続き

家族が亡くなった時の手続きは、何も遺言に関するものだけではありません。以下のように、細々とした事務や生前対策に関する処理も必要です。それぞれ期限があるため、効率よく進めましょう。

死後事務【行政への届出等】

亡くなった直後の1か月~3か月の間は、遺言書の検認・遺言執行等と合わせて「死後事務」も執り行います。具体的には、死亡届の提出、お葬式の手配、そして遺品整理やデジタル機器の処分といったものです。
相続人同士助け合って進めるにしても、自力だとどこかで手間取ってしまうでしょう。

家族信託関連【地位承継or信託終了に伴う手続き】

生前から「家族信託」を進めていた家庭では、その契約内容に沿った処理も発生します。
被相続人の死亡が信託の終了事由なら、各種清算を行い、管理の対象となっていた財産を指定の相手へ引き渡す手続きが必要です。信託が継続する場合でも、亡くなった人が信託の当事者であれば、以下の法律解釈に沿って処理します。

① 委託者が死亡した場合

信託で特段定めがなければ、その地位は相続人が承継します。

② 受託者が死亡した場合

信託で定めがなく、さらに委託者と合意できる候補者もいなければ、裁判所への申立で選任してもらえます。万一にも受託者が決まらないまま1年が経過すると、残りの契約期間に関わらず信託終了となります。

③ 受益者が死亡した場合

信託契約にも遺言にも定めがないようなら、その権利は相続で受け継がれます。この時、遺産分割協議で各人の取得分を決めなくてはなりません。

相続税申告

遺言書を見つけて執行を終えたなら、締めくくりに相続税申告を行います。対象になるのは遺産が基礎控除(3千万円+6百万円×法定相続人の数※)を超えるケースです。
申告・納付の手続きは、特に事情がない限り相続開始後10か月以内に実施しなければなりません。つまり、期限内でなるべく早く遺言書関連の手続きを終え、必要とあれば土地を一部売却する等の納税資金確保も済ませておかなくてはなりません。

※ 平成27年1月1日以降の相続または遺贈に適用される金額です。

まとめ

見つけた遺言書を勝手に開封すると、過料に処されるだけでなく、生前の希望に沿って遺産をもらい受けることすら難しくなります。公正証書遺言でないものは、家族に発見を伝えた上で封書のまま「検認」に持ち込みましょう。

戸惑いがちなのは、遺産の名義変更その他の遺言執行にかかる手続きです。
もっとも、士業が遺言執行者になる場合は、あまり心配しなくても良いでしょう。自分たちでやる場合は、必ずしも銀行と法務局にそれぞれ申請すれば済むものではなく、財産を売って分けるための買主探し等の手間を負う場合があります。債権回収や信託契約が絡んでくると、さらに難しくなると言わざるを得ません。
少しでも迷うことがあれば、専門家に相談して法律・取引等の案内を受けましょう。

遠藤 秋乃

遠藤 秋乃(司法書士、行政書士)

大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年~2016年にかけて、司法書士試験・行政書士試験に合格。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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