2024年2月28日

こんなケースは気を付けて!
家族信託における留意点7選

こんなケースは気を付けて!<br>家族信託における留意点7選

家族信託は、認知症対策としての財産管理や遺言の代わりとして相続をスムーズに行う際に有効な手段ですが、実際の運用にはいくつかの留意点があります。

本記事では、家族信託を行う際に注意すべき7つのポイントを詳しく解説します。家族信託をより効果的に活用するためにも、ぜひ参考にしてください。

家族会議の行われない家族信託

家族会議の行われない家族信託は、多くのリスクがあることに注意が必要です。

そもそも、家族会議は信託の設定に関する意向や条件を家族間で共有する重要な場です。

もし、家族会議が行われない場合、以下の問題が生じるリスクがあります。

相続における遺留分の問題

家族信託による資産の移動は、相続時に法定相続人の遺留分を侵害するリスクがあります。

遺留分とは、法定相続人に認められた最低限相続できる割合です。

家族会議を通じて、相続人全員の理解と合意を得ることで、遺留分に関するトラブルを未然に防げます。透明性が欠けると、後に相続争いへと発展する恐れがあるため注意しましょう。

情報の非共有による問題

家族信託の内容や運用に関する情報が家族全員に共有されない場合、不信感や誤解が生じるリスクがあります。特に多くの受益者や関係者がいる場合、情報の非共有は大きな問題です。この問題に対処するには、家族信託の設定前に家族全員と十分なコミュニケーションを図り、信託の目的、運用方針、受益者の権利や義務について理解を求めることが重要です。

信託の目的の不一致による問題

家族会議が行われないと、信託の目的が家族内で見解の不一致が生じることがあります。

この不一致は、将来的に信託の運用方針における対立を引き起こす可能性があり、注意が必要です。こうした問題を引き起こさないためにも、弁護士や税理士といった専門家を介入させ、家族間の調整をサポートしてもらうことも視野に入れましょう。

定期的な情報共有と家族会議の重要性

家族信託が設定された後も、定期的な情報共有や家族会議を行うことは、透明性を保ち、家族間の不信感を避けるために不可欠です。家族会議の実施は家族信託の成功に欠かせず、適切なコミュニケーションと情報共有を継続することが大切です。

全財産を信託財産に指定する家族信託

家族信託において全財産を信託財産に指定する場合、運用や相続計画において多くのメリットをもたらしてくれます。しかし、同時にいくつかのリスクと検討事項を無視することはできません。以下では、全財産を家族信託に指定する際に考慮すべき主なリスクと、対処法について詳しく見ていきます。

財産管理の柔軟性の喪失における対策

全財産を家族信託に指定すると、緊急時の資金確保が難しくなります。

たとえば、医療費や生活費、急な出費に迅速に対応するのが困難になる恐れがあるため注意が必要です。信託財産というのは、特定の目的で管理されるため、自由な引き出しや利用に制限がかかってしまうのです。よって、全財産ではなく一部の資産のみを信託することを検討し、必要な現金や緊急時の資金確保を検討した上で家族信託を利用しましょう。

相続計画の複雑化への検討

全財産を信託してしまうと、相続計画が複雑になり、相続人や受益者間による誤解やトラブルが生じるリスクがあります。特に、相続人が信託の存在や内容を十分理解していない場合、意図しないトラブルを招く危険があるのです。こうしたトラブルを防ぐには、家族や推定相続人に対して、信託の内容について十分に説明し、理解を得ることが重要です。

税務上の問題とその対応

全財産を信託にすると、税務上の問題も生じる可能性があります。

信託財産は、子どもや孫への教育資金などのために設定する場合、贈与税が一定金額まで非課税になるといった税制優遇を受けられます。しかし、信託の解除に伴う税金の発生も考慮しなければなりません。

また、信託財産から生じる利益には、通常の所得税が適用されるため税金対策についても検討すべきです。たとえば、信託財産が賃貸マンションの場合、賃貸収入に対して所得税が課税されます。場合によっては、公認会計士や税理士といった専門家からのアドバイスを求め、信託による税務上の問題と対策を講じなければなりません。

流動性の問題と定期的な見直し

全財産を信託に入れた場合、資産の流動性が低下する可能性があります。特に、不動産や特定の有価証券など、すぐに現金化できない資産が信託財産に含まれる場合、必要な時に資金を確保するのが難しくなります。この問題に対処するには、信託設定後も定期的に信託財産の状況を見直し、必要に応じて調整を行うことが大切です。こうした調整によって、変化する家族状況や経済環境に柔軟な対応ができるようになります。

信託予定財産が担保になっている家族信託

家族信託では、信託予定の財産がすでに担保になっている場合、銀行とのやり取りに注意が必要です。信託契約自体に問題がなくても、銀行の承諾がなければ信託口座の開設や既存ローンの信託へ移行はできません。

銀行との問題点

信託予定財産が担保になっている場合、財産を管理するための信託口座を銀行で開設する必要があります。しかし、すべての銀行が家族信託(家族間で行う民事信託)に対応しているわけではないため、対応している銀行や証券会社に信託口口座の開設を依頼しましょう。

また、 信託予定財産が担保となっている既存のローンを、そのまま信託に移行するには、担保権者である銀行の承諾が必要です。銀行がこの変更に同意しなければ、ローンの条件変更や新たなローンの契約が必要になることもあります。

具体的な対策

信託口口座の開設や既存ローンの信託をスムーズに進めるには、銀行との事前の相談が不可欠です。信託の目的や構造を銀行に明確に説明し、必要な書類を準備しましょう。

また、弁護士や税理士といった専門家の協力を得て、銀行との交渉を行うのも良い方法の1つです。専門家は、信託契約の内容を正確に伝え、銀行側の疑問点に答えることができます。

もし、銀行からの承諾が得られない場合は、他の銀行に相談する、既存ローンの条件を見直すなど、代替案を検討しましょう。

節税対策にはならない家族信託

家族信託を提案する際に重要な点の一つが、「損益通算禁止」です。

特に不動産所得がある場合、節税対策にならない可能性に留意しなければなりません。

不動産以外の事業所得や給与所得、年金所得があるケースでも、これらの所得と不動産所得の赤字相殺の可否が重要な論点になります。

損益通算とは

損益通算は、不動産所得などで赤字が出た場合に他の所得の黒字と相殺できる仕組みです。

同一年における赤字の所得をほかの黒字の所得から差し引くことができます。たとえば、不動産所得が400万円と赤字であっても、事業所得や給与所得などが1000万円の黒字である場合には差し引きした600万円が所得となります。不動産所得のみならず、事業所得、不動産所得、譲渡所得の赤字と他所得の黒字を差し引き計算できます。

信託不動産から生じる所得は確定申告の対象

一方で、信託不動産から所得が発生した場合、不動産所得として受益者の確定申告が必要になります。信託不動産で赤字が出た場合、その損失はなかったものとみなされ、他の所得と通算することができません。また、損失の繰り越し控除もできないため、税務上のデメリットが生じ、結果として節税対策にならないケースが存在します。

赤字が見込まれる信託不動産に対しては、大規模修繕の早期実施、黒字不動産とまとめて信託、当初は信託せず追加信託、任意後見の活用などの方法があります。これらの対策を通じることでて、損益通算の問題を緩和可能となるので参考にしてください。

信託契約が無効になるリスクが考慮されていない家族信託

家族信託においては、信託契約自体が無効になる恐れのある以下のリスクについては、信託契約時に必ず考慮すべきです。

受託者の不在や委託者の判断能力

受託者が亡くなったり、高齢になったり、または何らかの理由で職務を果たせなくなる場合、信託契約はその効力を失う恐れがあります。信託契約には通常、対応するための条項が含まれていますが、これが不十分であれば信託は無効になる可能性があります。

また、信託契約締結時点で、委託者の判断能力がない場合も、信託契約は無効です。信託前は、委託者の判断能力が正常かどうかについても気を配らなければなりません。

法的要件の不備

信託契約が法的要件を満たしていない場合も無効のリスクがあります。

契約内容の不明瞭さや、必要な書類の不備、あいまいな設定、不法な目的での設定などが、法律上の問題を引き起こし、契約の無効化を招くことがあります。

具体的な対策方法

元の受託者が判断能力の低下などで信託事務を正常に行えない場合について、あらかじめ後継受託者を定める規定を設けることが重要です。受託者の存在しない状態が1年続くと信託は強制終了してしまうため注意が必要です。

また、信託契約が法的要件を満たしているかについては、弁護士や司法書士といった専門家の助言を得て、あらかじめ確認することが推奨されます。

その後も、信託契約は定期的に見直し、現行の法律や家族の状況に合わせて更新しましょう。

これにより、契約内容が常に適切であることを保証し、無効化のリスクを抑えます。

私文書契約での家族信託

家族信託における私文書契約は法律的には有効ですが、いくつかのリスクと留意点が伴います。これらを適切に理解し対処することが、信託の成功には不可欠です。

信憑性の問題

家族信託が私文書契約の場合、公正証書に比べて信憑性に劣ります。

私文書とは一般の方が作成した文書のことで、公正証書とは公証人の立ち合いのもと作成する公文書のことです。このため、信憑性の問題が生じる恐れがあります。

というのも私文書契約は、公正証書と比較して信憑性が低いと見なされがちです。

特に、銀行などの金融機関で口座を開設する際に障害となり得ます。一方で、公正証書は法的な強制力が高く、信託の設定や条件が明確にされています。

信託契約を行う際には、公正証書の利用が推奨されます。

相続における遺留分問題への配慮

家族信託の設定に際しては、遺留分問題にも注意を払う必要があります。

私文書契約の場合、相続時に遺留分の侵害を主張されるケースも考えられます。家族間での紛争を避けるためにも、信託の目的と内容について家族全員の理解と合意を得ることが重要です。さらに、信託契約の内容を十分に理解していない場合、農地の取り扱いにも注意が必要です。農地は、そのままでは信託財産に含められない場合が多く、農地法などの特別な法的規定に従って適切な手続きを踏む必要があります。

月々ランニングコストがかかる家族信託

家族信託を利用する際、初期の手続き費用に加えて、継続的に発生するランニングコストにも留意しましょう。ランニングコストについては、信託の運用や管理に関わる費用のことで、長期的な視点で計画することが重要です。

受益者代理人への報酬

家族信託において、受益者の判断能力が低下した場合の対策として、「受益者代理人」を設定していた場合、月額報酬が発生することになります。

一般的に、受益者代理人への報酬は、月額1万円程度が相場とされています。また、信託財産の規模によっては、より低いコストでのサービス提供も可能です。ただし、強い権限を持つ受益者代理人の選任は、トラブルに配慮した上、親族間で慎重に判断しましょう。

信託監督人への報酬

信託監督人は、受託者が信託事務を適切に行っているか監督する役割を担います。

特に受益者の判断能力が低下・喪失した場合には、信託監督人の出番となります。

ただし、信託監督人への報酬も受益者代理人と同様、月額1万円程度が相場です。

まとめ

家族信託は、認知症対策などに有効な手段ですが、それだけではありません。自分の財産を合法的に、かつ健康なうちに家族に託すことで、将来のトラブルを防ぐことができます。

しかし、そのためには正しい理解と慎重な設計が必要です。今回紹介した7つのポイントを踏まえて家族信託を検討し、より安全で効果的な資産管理を実現しましょう。

永瀬優

永瀬優

大学卒業後、地域を代表する法律事務所にパラリーガルとして入所。弁護士の下で債務整理・相続・離婚など、さまざまな法律実務に10年間携わった後に退所。法律実務で身に着けた知識や経験を活かして、法律ライターへと転身し、現在に至る。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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