家族信託とは

家族信託とは財産管理の一つの手法です。詳しくは後述しますが、信託という仕組みを使って、信頼できる家族に財産の管理や処分を任せる仕組みで、信託銀行や信託会社が営利を目的として行う「商事信託(営業信託)」に対して、一般的な定義として営利を目的としない「民事信託」と呼ばれるものの一つとなります。

ここでは家族信託に関する疑問について、順を追って解説していきます。

目次
なぜ、家族信託が注目されるようになったのか?
そもそも信託とは?
家族信託の仕組が知りたい
他の制度と何が違うの?
不動産継承対策なら家族信託?
どんな時に利用するべき?
家族信託のメリット・デメリットを簡潔に知りたい
家族信託にかかる費用感は?
家族信託で課税される税金を知りたい
家族信託の始め方は?
まとめ

なぜ、家族信託が注目されるようになったのか?

最近、テレビや雑誌でも特集が組まれるほどに家族信託は注目されるようになってきました。その背景には超高齢社会があります。高寿命化、すなわち長生きする方が増えたということ自体は大変喜ばしいことだと思います。ただ、平均寿命と健康寿命(健康上の問題が無く元気に自立して過ごせる期間)との間に、男性では約9年、女性に至っては約12.5年ものギャップがあり、元気に天寿を全うすることが難しいというのが現状です。健康でない状態(介護が必要な状態)になってしまう大きな要因の一つに「認知症」があります。内閣府「令和2年版高齢社会白書」では、2025年には、65歳以上の5人に1人が認知症になると見込まれています。つまり、誰もが認知症になるリスクを抱えているということです。

また、不動産所有者が認知症によって意思能力を喪失した場合には、売却はもちろん賃貸借契約や大規模修繕工事といった契約行為はできなくなります(家族が代わりに契約行為を行うこともできません)。「認知症の高齢者が所有する住宅は2021年時点で221万戸に上る」という試算も出ている(第一生命経済研究所 2021年7月16日発表推計)状況の中、高齢者の新しい財産管理手法の必要性が叫ばれ、「家族信託」は今後ますます注目されていくでしょう。

そもそも信託とは?

「信託」は「信託法」を根拠とする法律用語です。法律用語と聞くと難しいのではないかと思われるかもしれませんが、仕組み自体は単純で、大切なポイントは次の2点です。

財産の所有者(委託者)が財産を信頼できる人(受託者)に託して、
その人が財産の管理・処分をする

財産の管理・処分は一定の目的(信託目的)に沿って、
特定の人(受益者)のために行われる

また、この「信託」は受託者が信託報酬を得るため(営利目的)に行うものかどうか(商事信託と民事信託)によって分類されます(これらの信託の呼称は法律用語ではなく、一般的な定義です)。ちなみに家族信託は「民事信託」の一つと言えます。
皆様の中には信託と聞くと「信託銀行」が思い浮かぶ方もいると思いますが、信託銀行が行う信託は受託者である信託銀行が信託報酬を得るために行う「商事信託」であり、「民事信託」である家族信託とは一線を画すものです。なお、信託銀行による信託業務では、金銭が信託財産となることがほとんどで、不動産の取扱いは限られています。

家族信託の仕組が知りたい

家族信託では主要な人物として次の3人が登場します。

信託する財産の所有者が委託者(財産を託す)

財産を託されて管理や処分を行う人が受託者(財産を託される)

財産から生じた利益を受け取る人が受益者(利益を受け取る)

一般的な家族信託では委託者は親、受託者は子が想定されています。
また、これらとは別に信託財産の管理・運用が適切に行われているかを監督する信託監督人を任意で置くことができます。

なお、委託者と受託者を同じにして、自分の財産を自分に信託することも可能です(自己信託と言います)。また、一般的な家族信託では委託者と受益者を同じにする「自益信託」という形をとります。ただし、受託者と受益者を同じにすることは避けるべきです。その状態が1年間継続すると、家族信託自体が終了することが信託法に定められているためです。

注意点として家族信託は信託契約を締結することにより始まるため(遺言信託・自己信託を除く)、契約当事者となる親と子に信託契約の概要を理解できる能力が必要です。
もしも信託契約締結時に認知症が進み、意思能力を喪失している場合は家族信託を始めることはできません

他の制度と何が違うの?

家族信託は財産管理の手法の一つです。また、資産承継の手法の一つでもあります。
財産管理の手法には他に委任契約や後見制度が、資産承継の手法には他に遺言があります。これらと家族信託を比較してみましょう。

委任契約とは一定の法律行為をすることを相手方に委任する契約ですが、子を受託者として財産管理を託す家族信託契約を締結することでこれらの効果を代用することができます。また、不動産の売却の際には、売却について意思確認がされます。委任契約の場合は所有者本人(親)への意思確認が必要となりますが、家族信託では子への意思確認で足りるという違いがあります。

後見制度とは物事を判断する能力が十分ではなくなった方(成年被後見人)の財産管理等をサポートする人(成年後見人)を家庭裁判所が選任する制度です。家族信託においても、親の判断能力が低下・喪失しても、引き続き受託者が財産管理を行えるため、「成年後見制度による財産管理」の機能を有すると言えます。また、後見制度は成年被後見人の保護・支援するためにつくられた制度なので、相続税対策や資産の積極運用は想定されていません。それに対して、家族信託はそのような制約はなく、比較的柔軟な財産管理が可能となっています

遺言とは故人の最後の意思表示であり、財産の承継先の指定などができます。家族信託においても、信託契約の中で信託財産の相続発生後の承継者を指定できるため、「遺言」の機能を持たせることができます。
また、家族信託は数世代先までの財産承継先の指定や、財産の受渡方法(時期・回数など)の自由な設計など、遺言では実現できない財産の承継方法も可能となっています。

不動産継承対策なら家族信託?

実務上、家族信託においては「不動産」「現金」「未上場株式」の3つが主に活用されています。なかでも、不動産、さらに言えば「収益不動産」を信託財産とすることは不動産承継対策として非常に有効な手段の一つと言えます。

例えば、アパートオーナーである親が子を受託者として家族信託を始めた場合、

  1. (賃貸オーナー)が元気なうちから権限を子に移譲することで、子が学びながら賃貸経営を実践でき、
  2. (賃貸オーナー)が認知症になった後は、子が引き続き親の代わりに賃貸経営を行うことができ、
  3. (賃貸オーナー)が亡くなった後の承継(相続)までスムーズに進めることが可能となります。

また、日常的な管理、管理会社や様々な業者との交渉や契約、入居者との契約、大規模修繕工事、リノベーション、売却、新規の相続税対策のためのアパート建築など、煩雑な業務や高度な意思決定が必要なアパートオーナーにとって、認知症による資産凍結対策は重要であり、その意味でも家族信託が有効な手法の一つであることは間違いありません。

どんな時に利用するべき?

不動産所有者にとって家族信託が効果的に利用できるケースを4つ紹介いたします。

一つ目は認知症による資産凍結対策です。
信託契約の締結により、信託財産は受託者が管理することになります。不動産は所有権移転登記により名義が受託者に変更され、受託者が形式的な所有者となります。そのため、委託者が認知症となってしまっても、管理権限・売却権限は受託者がもっているため、適切なタイミングで適切な対応を行うことができます。

二つ目は不動産の共有対策です。
不動産が共有名義になっている時、そのうちの一人でも認知症になってしまうと、売却を含めた重要な決定ができなくなってしまうおそれがあります。また、認知症にならずとも、各共有者に相続が発生したことにより円満な共有関係が崩れ、賃貸経営や不動産の管理・売却等に支障が出るおそれもあります。家族信託により、管理権限・売却権限を受託者に集中させることによりこのような事態を防ぐことが可能です。

三つ目は将来的な不動産の共有回避です。
不動産が共有名義だった時のリスクは前述のとおりですが、相続人の一人に不動産を単独相続させると、他の相続人にはそれに見合う代償財産がなく、不公平な相続になってしまうという場合もあります。この場合、家族信託により受託者を不動産の相続をさせたい相続人とし、受益権を相続人で平等に共有させれば、共有名義のリスクを回避しつつ、平等な相続を実現させることができます。

四つ目は一族以外への資産流出の回避です。
例えば、先祖代々受け継いできた大切な不動産を長男に相続させたいが、長男には子供がいないためその次は次男の子である孫に相続させたいと考えているとします。しかし、遺言では財産の承継先を一代限りしか指定できません。民法には「所有権絶対の原則」があるため、相続や贈与で受け取った(所有した)財産については、受け取った本人しか次の承継先を指定できず、元の所有者(被相続人や贈与者)の意思を法的に反映させることはできないからです。一方、家族信託においては「信託受益権」という債権を承継させることになります。そのため「所有権絶対の原則」が適用されず、数世代先まで承継先の指定が可能となります。

家族信託のメリット・デメリットを簡潔に知りたい

これまで挙げてきた家族信託のメリットを簡単にまとめると、

  1. 委任契約、成年後見制度、遺言の各機能を1つの信託契約の中で実現できる
  2. ニーズに即した自由な財産管理・資産承継方法の設計が可能
  3. 不動産の財産管理・資産承継対策として有効な手法である。

逆にデメリットを挙げると、

  1. ① 受託者へ権限が集中することによる不公平感
  2. ② 受託者の負担
  3. ③ 身上保護権がないなどが指摘されることがあります。

しかし、①に関しては、家族信託は十分な家族会議を経て、信託契約の当事者のみならず家族全員が納得してから始めることを前提としているため、不公平感が生ずるということはあまり考えられません。②に関しては確かに受託者には負担はありますがそれは家族信託に限ったことではありません。③に関しては後見制度との併用により対応可能です。

家族信託にかかる費用感は?

家族信託を始めるにはイニシャルコストが必要となります。具体的には、信託設計に関するコンサルティング報酬、信託契約書を公正証書にするための費用(専門家への報酬や公証人手数料)、登記手続きに関する費用などです。しかし、成年後見制度と比較すると、家族信託の導入コストと成年後見制度のコストを単純比較することは難しいのですが、仮に成年後見制度を利用することとなり、家族以外の後見人が選任された場合、財産の額によっては、年間数十万円、生涯に数百万円の後見報酬が発生することもあり、また、柔軟な財産の管理や処分、活用が難しいという点も考慮すれば、家族信託のイニシャルコストは相応のコストであると考えられます。

家族信託で課税される税金を知りたい

家族信託によってかかる税金は複数あります。どんな税金が誰にいくらくらいかかるのか。また、課税関係において、どんな点に注意すればよいのか。家族信託を検討する際にこれらのことが分からないと不安だと思います。家族信託の課税関係を①開始時②契約中③終了時にわけてみていきましょう。

① 開始時の税務関係

まずは家族信託開始時の税務関係です。家族信託を始めると、委託者から受託者への財産の移転が行われます。財産の移転と聞くと「贈与税がかかるのではないか」とお考えの方もいるかと思いますが、税法においては、実質的に財産の移転が生じているかによって課税の有無が判断されます。そのため、必ずしも贈与税が発生するわけではありません。

また、「印紙税」や「登録免許税」などの信託契約の際に必要となる税金や、これとは別に弁護士や司法書士または税理士などの専門家へのコンサルティング報酬や信託契約書を公正証書で作成する手数料などの税金以外のコストもかかるので、それらについても検討をしておく必要があるといえるでしょう。

さらに、「受益者連続信託」という当初の受益者が亡くなった場合に他の者が新たな受益者となる定めがある信託があります。この「受益者連続信託」では「相続税」や「遺留分」に関しても注意が必要となります

② 契約中の課税関係

次は契約中の課税関係です。契約中の課税関係は「受託者の責務」と「受益者の責務」に大別されます。

信託の目的のために信託財産の管理・処分の権限が与えられている「受託者」には様々な責務があります。その中で税務に関するものは「調書の提出」と「信託の計算書の提出」の2つとなります。それぞれ、提出する時期や条件が異なりますので、しっかりと把握しておかなければいけません。

また、税務上においては、「受益者」が信託財産の所有者と判断されます。そのため、受益者は信託財産から得られる収益について、確定申告をすることになります。その際には、損益通算ができない場合があるなどの注意すべきポイントがあります。

この他にも、信託財産である不動産を売却するなど、受託者が、信託期間中に、信託財産の全部または一部を譲渡した場合には、譲渡税が課税されることがありますので、事前に把握してく必要があります。

③ 終了時の課税関係

最後は終了時の課税関係です。家族信託は信託法に定められた事由や信託契約で定めた事由によって終了します。信託が終了すると清算受託者による清算手続きが行われ、その後に残っていた信託財産(残余財産)が、信託契約で指定された者(残余財産受益者または帰属権利者)に給付されます。それらの者に財産が移転する際には、相続税や贈与税がかかる場合があります。その際、相続税や贈与税にはそれぞれ減額や控除などの特例があるので、それらを考慮して税額を算出します。

また、信託が終了する際には、財産の移転手続きを行います。その際にも「登録免許税」や「不動産取得税」がかかります。これらの税金は誰が権利帰属者になるかによって、税額に変動があるので、注意が必要です。この他、司法書士等の手続費用などの負担もあります。

家族信託の始め方は?

家族信託を始めるにあたっては

  1. ① 親の希望や想いを整理すること
  2. ② 家族と十分に話し合うこと
  3. ③知識・経験のある専門家(司法書士等)のもとで、実効性のある適法な信託契約を締結することが大切です。

それを怠り、限られた親子間だけで話し合い、不慣れな専門家に依頼したりすると、無用の家族間トラブルにもなりかねません。家族信託は、家族の世代を超えて財産管理・資産承継に拘束力を持つという重大な契約です。家族信託について家族全員が十分に理解して取り組むことが大切です。

まとめ

ここまで家族信託の効果やメリットを謳ってきました。資産凍結を回避させるなど、家族の負担や心配を軽減させる効果は十分に期待できますが、100%万能というわけではありません。例えば、家族信託では介護施設への入居手続きなどの身上保護はできませんので、後見制度を併用したりするケースもあります。様々な制度と組み合わせて利用することでより良い財産管理、資産承継の道筋が見えてくるでしょう。

また、家族信託に取り組む意義の一つが、家族信託を始める前の家族会議にあるということも重要なポイントです。家族信託は十分な家族会議を経て、信託契約の当事者のみならず家族全員が納得してから始めることを前提としています。家族が一堂に会して、親が自身の希望や想いをしっかり子に伝える。子はそれを受け取り、将来に向けた建設的な話し合いをする。
家族信託をきっかけにして、普段なかなか家族で話し合うことがない相続のこと、資産承継のことなどをじっくりと話し合ってみる。そんな機会が作れることも大きなメリットの一つと言えるでしょう。

家族信託を通して、皆様の希望や想いが実現することを私共「家族信託の相談窓口」は切に願っています。

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