不動産承継対策として
有効な家族信託
信託財産に入れることができる財産は、財産的価値を有するものであれば、法律上は特段の制限はありませんが、実務上は、金融機関の実務対応等の問題もあることから、「現金」「不動産」「未上場株式」の3つが主に活用されています。この中でメインとなるのは、やはり「不動産」です。最近は、家族信託に関するニーズの高まりを受け、上場株式等の有価証券を受け入れるための「信託口口座」の開設が可能な証券会社も出てくるなど、利便性の向上が期待されています。
認知症等になった場合の「資産の凍結」に備え、自身の財産を安全に管理し続けるための対策を考えるとき、「現金」の場合は、生活費等を適切なタイミングで預金から引き出せることさえ担保できれば大抵は事足ります。しかし、中でも特に「収益不動産」の場合は検討すべき事柄が多岐にわたります。アパート・マンションオーナーのように賃貸経営を行っている場合は、日常的な管理、管理会社や様々な業者との交渉や契約、入居者との契約、大規模修繕工事、リノベーション、売却、新規の相続税対策のためのアパート建築など、煩雑な業務や高度な意思決定が必要な場面が少なくないため、認知症等により意思能力が低下していくと大変な負担になるばかりでなく、悪徳業者にだまされる危険性なども高まります。さらに、意思能力が無い状態となってしまった場合には、契約行為自体を行うことができなくなり、不動産経営は行き詰ってしまうでしょう。
このような様々なリスクを回避するために、本人が元気なうちに本人の意思に従って財産を家族に託し、管理や処分を託すことができる家族信託が効果的であることは言うまでもありません。
親であるアパートオーナーが、元気なうちから子に賃貸経営を任せ、経営のイロハについて教えていくこともできる家族信託は、不動産承継対策として非常に有効な手段の一つと言えるでしょう。
家族信託によって、老後における賃貸物件の管理・大規模修繕・建替え・売却・承継などを「信託目的」とした場合、
- 1)親(賃貸オーナー)が元気なうちから権限を子に移譲することで、子が学びながら賃貸経営を実践でき、
- 2)親(賃貸オーナー)が認知症になった後は、子が引き続き親の代わりに賃貸経営を行うことができ、
- 3)親(賃貸オーナー)が亡くなった後の承継(相続)までスムーズに進めることが可能となります。
もう少し具体的に見ていきましょう。家族信託契約において不動産を信託財産に入れた場合、管理を担う受託者(子)の名前を不動産登記簿に記載する手続き(信託登記)をすることが必要で、これにより、誰がどんな権限を持ってその不動産を管理するのかが明確になります。登記簿上は、甲区の所有者欄に「受託者」という肩書付きで名前が記載され、形式的な所有者となります。(実質的な所有者が親のままであることに変わりはありません)その効果として、以後、アパートの賃貸借契約の新規契約・更新・解除に関する書面には親の代わりに子が「受託者〇〇〇」と署名捺印し、大規模修繕の際は「受託者〇〇〇」が施主になります。また、アパートを売却する場合は、「受託者〇〇〇」が売主として各種手続きを行い、登記手続きの際の本人確認手続きも受託者に対してなされます。