相続税の計算方法を分かりやすく解説

相続税の計算方法を分かりやすく解説

将来、家族が遺産を相続した場合、相続税がかかりますが、どのくらいの税金がかかるのか不安な方もいらっしゃるでしょう。
相続税の計算は分かりにくいと思われがちですが、実は、そこまで難しくはありません。
ここでは、相続税の計算方法を分かりやすく解説します。
相続税の計算方法がわかると、相続税対策にもつなげることができます。
将来のことを考え、残された家族に少しでも多くの財産を残したいと考えている人や、相続税がどれくらいかかってくるかあらかじめ知っておきたい人は、ぜひ最後までご覧ください。

① 相続税を算出するために必要な情報

相続税を算出するためには、相続財産がいくらあるのかを知っておく必要があります。
相続税は、土地やお金などの遺産に対してかかる税金です。
相続遺産がどれくらいあるのかによって相続税の額が決まってきます。
相続財産の代表として、預貯金や有価証券、不動産や車などがありますが、財産として含まれないものもあります。
財産として含まれないものは次の通りです。

  • 墓地や仏壇など
  • 生命保険金や死亡退職金の非課税枠
  • 相続税の申告期限までに国や公共団体へ寄付したお金

墓地や仏壇、仏具などの神を祭る道具は、日常礼拝しているものとして扱われるので、相続税の非課税財産として扱われます。
ただし、骨董品など投資の対象になるようなものは非課税として扱われないので注意しましょう。
また、生命保険金や死亡退職金は、遺族への生活資金の観点から一定額は非課税として税金がかかりません。
これを「みなし相続財産」といいます。
みなし相続財産の非課税枠は、法定相続人の数によって金額が変わり、一人あたり500万円が控除として計算されます。
例えば、法定相続人が3人いた場合、500万円 × 3人 = 1500万円まで非課税財産として控除できます。
この他にも相続税の申告期限までに国や公共団体に寄付したお金も非課税となります。

1)相続財産は負債も含まれる

相続財産には負債も含まれます。
被相続人が生前に残した借金は、相続人へ相続されます。
負債とされるものとして、金融機関などの借入金や税金、連帯債務などがあります。
被相続人の借金は、マイナスの相続財産として扱われ、相続人が借金を受け継ぐことになります。

2)相続財産の調べ方

相続財産の対象はお金だけではなく、土地や有価証券など対象とされるものが多くあります。
また財産は、その時の価値によって価格や評価額が変わってくるため、相続税も変わってくるのです。
そこで、相続財産がいくらの価値があるのかを調べる必要があります。
各財産の調べ先は次を参考にしてみてください。

  • 金融関係→銀行
  • 株式や有価証券→証券会社
  • 不動産→市役所などの地方自治体から送られてくる固定資産税課税明細書

3)相続財産の中で評価額がわかりにくい不動産

相続財産の中で評価の計算がわかりにくいのが不動産です。
不動産の相続税評価額の計算は、複雑になっており、土地と建物とで分けて計算されます。
ここでは、一般的な評価の算出方法を解説します。

3-1)建物の相続税評価方法

建物は、地方自治体から送られてくる固定資産税課税明細書に載っている固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。
納税通知書は、毎年5〜6月に送られてくるので確認してみましょう。
もし、納税通知書がお手元にない場合は、不動産がある地方自治体に問い合わせて取り寄せることもできます。

3-2)土地の相続税評価方法

土地に関する相続税評価の調べ方は、少し複雑です。
相続税評価方法を調べるにあたって、いくつかのステップを踏むことになります。
評価方法のステップは次の通りです。

  1. 1.土地と建物の評価を計算する
  2. 2.減額できるかの確認をする
  3. 3.賃貸されているかを確認する
  4. 4.小規模宅地等の特例に該当するかを確認する

最初に、土地の評価を計算します。
土地の相続税評価方法は、次の2種類の方法で計算されます。

  1. 路線価方式
  2. 倍率方式

まず最初に、この2つの方法を使って評価を計算します。
それぞれの計算方法は次の通りです。

倍率方式:評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率

路線価方式:評価額 = 相続税路線価 × 調整率 × 土地の面積(㎡)

路線価方式とは、路線価を基準として計算する方法です。
路線価とは、路線に面した道路につけられる1㎡辺りの価格です。
例えば、路線価が1㎡15万円で、土地の面積100㎡の場合、土地の相続税評価額は1,500万円となります。
路線価は、国税庁のホームページに掲載されており、対象の土地が路線価に該当するか確認してみましょう。
しかし路線価は、全ての土地に適用されているわけではないので注意しましょう。

一方で、倍率方式は路線価が定められていない土地に利用します。
倍率方式は、固定資産評価額に一定の倍率をかけて計算する方法です。
固定資産評価額は、毎年4月〜6月に送られてくる固定資産税課税明細書や納税通知書で確認ができます。
倍率は土地によって違いがあるため、国税庁のホームページで調べることができます。
例えば、固定資産評価額が1,500万円で、倍率が1.1の場合で考えてみましょう。

1,500万円 × 1.1 = 1,650万円

この場合の固定資産評価額は1,650万円です。

次に、評価が減額できるかどうかを確認します。
土地は地形や立地条件などによって評価が減額できるケースがあります。
例えば、土地が長方形や正方形でなく、歪んでいる場合や、道路に面していない土地など状況によって価値が下がる場合もあります。
また、市街化調整区域などで価値が下がることもあります。
市街化調整区域とは、市街化を抑制するために定められた区域のことです。
相続対象の土地が市街化調整区域に該当すると価値が下がってしまいます。
このように、専門的な用語や知識が関連してくるため、減額できるかどうかの判断を自分で行うのは難しい点があります。
相続される土地にどれくらいの価値があるかを調べるには、不動産会社もしくは相続税に詳しい税理士などの専門家に相談するのが良いでしょう。

小規模宅地の特例については、後ほど詳しく解説します。

② 基礎控除額の算出方法

相続財産の情報が揃ったら、次は基礎控除額を算出しましょう。
基礎控除額とは、相続財産からある一定額の金額を控除できる額をいいます。
基礎控除額の計算は次の通りです。

3,000万円 × 600万円 × 相続人の人数 = 基礎控除額

例をあげて解説します。

<相続人の人数>

配偶者・子3人の計4名

相続財産の総額:7,000万円

基礎控除額の計算:3,000万円 × 600万円 × 4名 = 5,400万円

相続税の課税対象額:7,000万円 - 5,400万円 = 1,600万円

この結果から、相続税がかかる課税対象額は1,600万円です。

1)相続人が相続放棄をした場合の計算

相続人が相続を放棄した場合、相続税がどうなるか気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
相続放棄した人がいる場合、民法上は、相続人としては扱われませんが、基礎控除の計算は相続人と含めて計算されます。
つまり、基礎控除の算定は、相続放棄してる人がいてもいなくても相続人として人数に含められるのです。

③ 基礎控除以外の控除

相続税の控除には、基礎控除以外にも特別な控除があります。
ここでは、主な特別控除をご紹介します。

1)配偶者控除

配偶者控除とは、配偶者が相続した財産のうち課税対象となるものが1億6千万円までなら相続税がかからない制度です。
配偶者控除が受けられるためには、次の要件を満たす必要があります。

  • 戸籍上の配偶者であること
  • 相続税申告期限までに遺産分割が完了していること
  • 相続税の申告書を税務署に提出していること

配偶者控除を受けるためには、戸籍上で相続人の配偶者であることが大前提です。
内縁関係である場合、この控除は受けられないので注意しましょう。
また、相続税の申告期限までに相続人全員で遺産分割が終えていなければ配偶者控除を受けることができません。
相続税の申告期限は被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内です。
それまでに相続人全員との話し合いをして財産分割を終えておくようにしましょう。
配偶者控除を受けるためには、もう一つ大切なことがあります。
それは、相続税の申告書を税務署に提出する点です。
例え、相続税が0円であっても、配偶者控除を受けるためには申告書を提出しなければなりません。

2)小規模宅地等の特例控除

相続税の基礎控除以外に、小規模宅地の特例控除があります。
小規模宅地の特例控除とは、配偶者など残された遺族に生活の基盤となるであろう住んでいる家に住み続けることができるよう作られたルールです。
小規模宅地等の特例控除の対象となる宅地は大きく4つに分けて計算されます。
分類ごとで減額割合が変わりますが、最大で80%まで評価額を下げることができ、相続税の負担を軽減できます。

3)一般的な不動産控除

先に紹介した不動産の評価から立地や土地の条件によって控除額が算出されます。
他にも、相続される不動産が賃貸されているかどうかによっても評価額の計算が変わってくるので注意しましょう。

➃ 相続税の計算方法

ここからは、いよいよ相続税の計算方法について解説します。
主な流れは次の通りです。

  1. 1.相続財産の総額を算出する
  2. 2.基礎控除を引いて課税価格を算出する
  3. 3.一度法定相続分で各々の税額を算出する
  4. 4.各々の税額を合算する
  5. 5.遺産分割協議に基づいた割合で再度按分する
  6. 6.相続時精算課税ですでに納税していた場合、相殺する

今回は、配偶者とその子ども3人が相続人として財産相続する場合を例に挙げて解説します。

<相続人>

配偶者と子3名

<財産>

正味の財産額:1億7,400万円

1)相続財産の総額を算出する

最初に相続財産がいくらあるのかを算出します。
相続財産は、プラスの財産もマイナスの財産も含まれます。
プラスの財産とマイナスの財産を相殺し、総額いくらかを出しましょう。
預金や株式、土地、建物などのプラス財産から借入金、葬儀費用などのマイナスの財産を引いたものが財産総額になります。

2)基礎控除を引いて課税価格を算出する

続いて、基礎控除を引いて課税価格を算出します。

基礎控除は、3,000万 + 600万 × 法定相続人の人数です。

例を参考に計算します。

3,000万+600万 × 4名 = 5,400万円

具体例の場合、正味の財産額が1億円となるので、課税遺産総額は次の通りになります。

課税遺産総額 = 1億7,400万円 - 5,400万円 = 1億2,000万円

3)一度法定相続分で各々の税額を算出する

次に課税価格を法定相続分の割合で税額を算出します。
まず、課税価格を法定相続人で分けます。

配偶者:1億2,000万円 × 1 / 2 = 6,000万円

子一人につき:1億2,000万円 × 1 / 6 = 2,000万円

相続税の税額(速算表)
法定相続分に応じた取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% -
1,000万円超 3,000万円以下 15% 50万円
3,000万円超 5,000万円以下 20% 200万円
5,000万円超 1億円以下 30% 700万円
1億円超 2億円以下 40% 1,700万円
2億円超 3億円以下 45% 2,700万円
3億円超 6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

<配偶者>

6,000万円 × 30%(税率) - 700万円(控除額) = 1,100万円

<子一人につき>

2,000万円 × 15%(税率) - 50万円(控除額) = 250万円

4)各々の税額を合算する

法定相続分の税額計算ができたら、一度それぞれの税額を合算します。
具体例の場合を計算してみましょう。

1,100万円(配偶者の税額) + 250万円(子) × 3人 = 1,850万円

5)遺産分割協議に基づいた割合で再度按分する

次に遺産分割協議で決まった割合で相続税額を按分します。
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方を話し合うことです。
例えば、次のような割合で決まっていたとします。

配偶者の割合:40%

子一人:20%

相続税の総額が1,850万円ですので、割合を按分します。

配偶者:1,850万円 × 40% = 740万円

子一人あたり:1,850万円 × 20% = 370万円

6)相続時精算課税ですでに納税していた場合の相殺

それぞれの相続税の計算によって納税額が決まりますが、相続時精算課税制度を行っている場合は、すでに納めている税額を相殺できます。
相続時精算課税とは、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫に財産を贈与した場合に適用できる制度です。
この制度では、2,500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けることができますが、2,500万円を超えた場合は、20%の税金を納めることになります。
もし、相続時精算課税制度を使って税金を納めている場合は、相続税額から控除できます。

⑤ 申告及び納付

最後に相続税の申告期限について解説します。
相続税は、被相続人が亡くなった翌日から10ヶ月以内に申告する必要があります。
また、申告した税金を納めるのも10ヶ月以内です。
申告期限が遅れてしまうと、加算税や延滞税などの余分な税金がかかってしまうので気をつけましょう。

⑥ まとめ

今回は、相続税について基本的な計算方法を解説しました。
相続が発生したら、相続財産がいくらあるのかを調べるところから始まります。
相続税の計算は比較的簡単ではあるものの、相続財産の評価を算出するまでは専門的な知識が必要です。
相続税がどれくらいかかるのか、申告方法がわからないなど詳しい内容を知りたい方は、相続税に詳しい税理士など専門家に相談することをお勧めします。

岩﨑 英美

岩﨑 英美

過去に経験した金融トラブルをきっかけにお金のこと、税務のことに興味を持つようになり、会計の道を志す。現役で会計事務所に勤める傍ら、知識を活かし、ライターとしても活躍中。ライター歴は6年。金融関係の記事を得意とし、読者に丁寧でわかりやすい記事を心がけている。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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