相続財産の調査方法について解説!
もれなく調査するには

相続財産の調査方法について解説!<br>もれなく調査するには

相続手続きを行うときには、相続財産をすべて把握しなければなりません。もし後になって財産が出てきた場合、遺産分割協議のやり直しや相続税の修正申告が必要になることもあります。
本記事では、相続財産の調査方法について解説します。相続財産をもれなく把握する方法を知っておきましょう。

1.預貯金・有価証券の調査方法

被相続人名義の預貯金や有価証券がある場合、内容を明らかにしたうえで、遺産分割協議で相続する人を決めなければなりません。相続する人が決まったら、金融機関で払い戻しや名義変更の手続きをする必要があります。

1-1.預貯金の調べ方

被相続人が預貯金口座を保有している金融機関及び支店を調べます。

● 通帳やキャッシュカードを確認

自宅に残されている通帳やキャッシュカード、ATMの利用明細、郵便物などを調べてみましょう。取引していた金融機関がわかれば、口座がある支店の窓口で残高証明書を請求します。残高証明書の発行は、相続人の1人からでも依頼できます。

● 支店がわからない場合

同じ銀行であれば他の支店にも照会をかけてもらえます。金融機関がわかるけれど支店がわからない場合には、最寄りの支店に相談してみましょう。

● ネット銀行の場合

ネット銀行では通帳が発行されていません。キャッシュカードは発行されていることが多いので、キャッシュカードがないか探してみましょう。通帳、キャッシュカードともに発行されていないケースもあります。口座開設時に届いている郵便物やメールなども探してみましょう。

1-2.有価証券の調べ方

被相続人が株式や投資信託などの有価証券を保有している場合、主に証券会社を調べることになります。

● 証券会社からの郵便物を探す

証券会社からの郵便物や株主総会の招集通知などを探してみましょう。ネット証券を利用している場合には、スマホにアプリがインストールされていることもあります。証券会社がわかれば、残高証明書の発行を依頼します。

● 上場株式保有の有無を照会することも可能

上場株式保有の有無については、「証券保管振替機構(ほふり)」で調べられます。相続人からほふりに対し情報開示請求をすれば、被相続人の保有している株式や証券会社を開示してもらえます。

● 非上場株式の場合

被相続人が、親族や知人が経営している会社の非上場株式を持っているケースもあります。この場合には、保有している株式数などの詳細をその会社に直接問い合わせてみましょう。

1-3.預貯金の仮払い制度とは

被相続人が亡くなったら、相続手続きが終わるまでの間、預貯金口座は凍結されてしまいます。葬儀費用などすぐに必要なお金を引き出せるよう、預貯金の仮払い制度が設けられています。

● 仮払いを受けられる金額

仮払いしてもらえる金額には限度額があります。各相続人が各口座につき払い戻しが受けられるのは、次の金額です。

払い戻し可能な額=相続開始時の預貯金額×1/3×法定相続分
※ただし、同一の金融機関からの払い戻し額の上限は150万円

なお、仮払いを受けた金額は、遺産分割の際に精算します。

● 遺言があれば仮払いしてもらえない

預貯金仮払いは、遺産分割を前提とした制度です。遺言により預貯金を相続させる人が指定されている場合には、預貯金の仮払いは受けられません。

2.不動産の調査方法

被相続人が不動産(土地、建物)を持っている場合、遺産分割協議で不動産を相続する人を決め、名義変更をする必要があります。不動産の名義変更は、法務局での相続登記により行います。

2-1.「権利証」「登記識別情報」「固定資産税納税通知書」を探す

被相続人の自宅などで、不動産について確認できる書類を探しましょう。権利証や登記識別情報、固定資産税納税通知書などがあれば、不動産の詳細を確認できます。

● 権利証とは?

権利証は登記済証とも呼ばれるもので、不動産の所有者であることを証明する書類です。古くに登記された不動産は権利証が発行されており、「登記済権利証」等の表紙がついているケースが多くなっています。

● 登記識別情報とは?

不動産登記法の改正により、2005年(平成17年)頃からは、権利証に代わって登記識別情報が発行されるようになりました。登記識別情報は12ケタの英数字で、用紙に印字されています。

● 固定資産税納税通知書とは?

不動産を所有していれば、通常、固定資産税が課税されています。固定資産税が課税されている場合、毎年4月頃、固定資産税納税通知書が市町村役場から届いているはずです。

2-2.名寄帳を確認

被相続人が所有している不動産の正確な場所がわからない場合、役所で名寄帳を取得すれば確認できます。

● 名寄帳とは

市町村が作成している固定資産課税台帳を所有者ごとに一覧表にしたものです。相続人は役所で写しを請求することにより、名寄帳の内容を確認できます。

2-3.別荘や共有私道に注意

被相続人が別荘を所有している場合、自宅前の私道に共有名義がある場合にも、相続手続きが必要になります。

● 別荘の調べ方

固定資産税が課税されていれば納税通知書が届いているはずですが、価値が下がっていて課税されていないケースもあります。別荘を持っている可能性がある場合、被相続人の自宅に契約書等が残っていないか探してみましょう。

● 私道の調べ方

住宅前面の私道は近隣で共有しており、共有持分があるケースが多くなっています。私道には固定資産税が課税されておらず、納税通知書に記載されていないことがあります。ただし、非課税の不動産でも名寄帳には記載されているため、名寄帳を確認してみましょう。

2-4.登記事項証明書を請求

被相続人が所有していた不動産がわかったら、法務局で登記事項証明書を請求します。登記事項証明書を見れば、現在の権利義務関係がわかります。被相続人が不動産を既に他人に譲渡していたり、借金の担保にしていたりするケースもあるので、必ず登記事項証明書を確認しましょう。

3.債務の調査方法

マイナスの財産である債務も、相続の対象です。債務が多い場合、相続放棄を検討しなければならないため、早めに調べましょう。

3-1.契約書等の書類を確認

借金している場合、金銭消費貸借契約書や借用書が残っているかもしれません。金融機関でローンを組んでいる場合には、ローン明細書や返済計画表が見つかる可能性があります。被相続人の自宅を探してみましょう。
金融機関からの借入については、残高証明書を発行してもらえます。借入している金融機関に残高証明書を請求しましょう。

3-2.信用情報機関に借入情報を照会

被相続人が金融機関から借入している場合、信用情報機関に借入情報が登録されています。信用情報機関に情報開示請求をすれば、借入の有無や残高を知ることができます。

● 信用情報機関とは

金融機関が利用者の信用情報共有のため設立している組織です。信用情報機関には、個人のローンやクレジットの利用履歴が登録されています。
現在、信用情報機関には次の3つがあります。

株式会社シー・アイ・シー(CIC) https://www.cic.co.jp/

株式会社日本信用情報機構(JICC) https://www.jicc.co.jp/

全国銀行個人信用情報センター https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/

● 信用情報開示請求とは

相続人は被相続人の信用情報の開示請求ができます。金融機関は少なくともどれか1つの信用情報機関には加入しているため、3つの信用情報機関すべてに開示請求をすれば、被相続人の借入状況を調べられます。

● 信用情報開示請求の方法

開示請求の方法については、各信用情報機関のホームページに掲載されています。必要書類として、請求者の本人確認書類や、相続人であることを証明する戸籍謄本、手数料(500円~1500円程度)が求められます。

● ローンやクレジット以外の債務にも注意

信用情報機関で調べられるのは、ローンやクレジットなどの債務です。それ以外にも個人間の貸し借りや家賃滞納、公共料金の未払い分などの債務が残っている可能性もあります。契約書や督促状、請求書、手帳の記録がないかを調べてみましょう。通帳の入出金記録からわかることもあります。

● 被相続人が保証人になっている可能性も

被相続人が誰かの債務の保証人になっている場合、相続人が保証債務を引き継いでしまいます。保証債務の場合、主債務者が支払いを怠らない限り、保証人に連絡が来ません。そのため、すぐには気が付かないことがあります。
被相続人が事業を行っていた場合には、事業関連の債務の連帯保証人になっているケースが多くなっています。事業関係の書類や入出金履歴のチェックなどもしておきましょう。

3-3.相続放棄する場合

借金などのマイナスの財産が多い場合、相続放棄をすれば債務を引き継がずにすみます。ただし、相続放棄をすれば財産も相続できないので注意しましょう。
プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ限定承認という方法もあります。相続放棄は個人でできますが、限定承認は相続人全員で手続きしなければなりません。

● 3か月の熟慮期間中に手続きが必要

相続放棄または限定承認をする場合には、相続開始を知ったときから3か月の熟慮期間内に家庭裁判所で申述手続きを行う必要があります。
3か月の期限が到来する前であれば、熟慮期間延長の申請も可能です。負債がある可能性があり、すぐに調査が終わりそうにない場合には、期間延長の申請をしておきましょう。

4.財産目録の作成

相続財産が判明したら、遺産分割協議に備えて財産目録を作成します。財産目録は必ず作らなければならないものではありません。しかし、作っておくと財産の状況が一目でわかり、遺産分割協議がスムーズに進みます。

● 財産目録の書き方

財産目録に特に決まった書式はありません。預貯金や有価証券は、項目別にまとめ、残高証明書の金額を記入します。
不動産は所在や地番、家屋番号などを登記事項証明書のとおり正確に記載し、評価額も書いておきましょう。負債についても、債権者ごとに残高を記載しておきます。

5.まとめ

相続手続きの前提として、相続財産調査は避けて通れません。相続手続きの中には、期限があるものもあります。相続放棄する場合には相続開始を知ったときから3か月以内に、相続税の申告は相続開始を知ったときから10か月以内に手続きが必要です。財産の調べ方を知っておき、速やかに財産状況を把握するようにしましょう。

森本 由紀

森本 由紀(行政書士、ファイナンシャルプランナー)

行政書士ゆらこ事務所代表。大学卒業後、複数の法律事務所に勤務してパラリーガルの経験を積んだ後、2012年に行政書士として独立。離婚や相続など身近に起こる問題をサポート。各種サイトでの法律記事・マネー記事の執筆や監修も担当。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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