相続放棄ができなくなる?法定単純承認とは

相続放棄ができなくなる?法定単純承認とは

相続が発生すると、金銭や不動産などのプラスの財産はもちろんのこと、借金などのマイナスの財産も相続人に引き継がれます。つまり、相続人には被相続人の借金を弁済する義務があるということですが、相続放棄をすることによってこの債務から逃れることができます。ただし、相続人の行為によっては相続放棄ができなくなってしまう場合があります。本記事では法定単純承認の概要とそれが成立してしまう行為について解説します。

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法定単純承認とは

法定単純承認の説明の前に、まずは相続の種類について簡単に説明します。

相続が発生すると相続人は亡くなった方(被相続人)の遺産を相続するかどうか(相続を承認するか放棄するか)を選ぶことができます。その選択には単純承認と限定承認、そして相続放棄があります。単純承認は被相続人の負債も含めてすべての財産を相続することです。債務も相続するので、相続人は被相続人の債務を返済する義務を負います。
限定承認は手続きが非常に複雑で利用者が少ないのが現状ですが、簡単に説明すると、相続で得た財産を限度として被相続人の借金を弁済する相続方法です。
相続放棄は被相続人の財産に対する相続権を全て放棄することです。相続放棄をした相続人は初めから相続人ではなかったとみなされます。

なお、このように聞くと限定承認は単純承認と相続放棄の良いとこ取りの制度だと思う方もいるかと思います。ただし、限定承認にはデメリットも多く、話はそう単純ではないので注意が必要です。

限定承認に関する詳細はこちら

さて、これらの選択は原則的に「自己のために相続があったことを知った時」から3か月以内(この期間を熟考期間と言います)に決断し、限定承認や相続放棄をする際にはその旨を家庭裁判所に申述する必要があります。ただし、熟考期間前であっても相続人の行為によって単純承認をしたとみなされることがあり、それが法定単純承認といいます。法定単純承認が成立すると、熟考期間内であっても相続人は限定承認や相続放棄を行うことはできなくなります。

法定単純承認に該当する行為は民法921条に定められています。その中で典型的なものは「相続財産の全部又は一部を処分したとき」です。これは被相続人の預貯金を引き出して、自己の銀行口座に移し替える(または自分のために消費する)、被相続人の所有不動産について相続登記をおこなうなどの行為が該当します。
つまり、被相続人に預貯金や不動産などの相続財産があるが借金などの負債もある場合、相続人が預貯金等を自分の名義にした後、負債から逃れるために相続放棄をするといったことはできないのです。
また、熟考期間中に限定承認や相続放棄の申述を行わなかった場合も法定単純承認が成立します。他にも、相続放棄後でも被相続人の財産を隠し持っていた場合などは法定単純承認が成立し、相続放棄が取り消されることになります。

法定単純承認が成立する行為

このように相続人が遺産を自分のものにしたり、自己のために消費したりすれば法定単純承認が成立し、相続放棄を行うことができなくなります。では、遺産を消費したもののそれが自己のためではなかったらどうでしょうか。法定単純承認には成立するかどうかの判断が難しい行為もあり、実際に裁判になったケースもあります。
次は相続が発生した後の一連の流れに沿って、単純承認が成立する行為についてみていきます。

死後手続き

身内が亡くなったら、まずは葬儀や埋葬の手配を行うことになります。もちろん、その際には葬儀費用や埋葬費用、また墓石・仏壇等の購入などの費用が発生します。ではこれらの費用を被相続人の遺産から支払うと法定単純承認は成立するでしょうか。この場合、原則的に法定単純承認は成立しません(大阪高等裁判所平成14年7月3日決定)。ただし、それを利用し、あまりに豪華な葬儀をあげたり、豪華すぎる墓石や仏壇を購入したりすると法定単純承認が成立する可能性があります。

なお、香典については、参列者から相続人や喪主に対する贈与と考えられており、相続財産ではないため、受領しても法定単純承認の問題は生じません。また、贈与といっても社会通念上相当と認められる金額の香典については贈与税や所得税は課税されません。

被相続人が病院で亡くなった場合、被相続人の最後の入院費については注意が必要です。
そもそも、相続放棄をする相続人には被相続人の入院費を支払う義務はありません。ただし、相続人が入院費の保証人になっている場合は、たとえ相続放棄を行うにしても、入院費を支払う必要があります。また、相続人が配偶者である場合、夫婦の日常家事債務(医療費など)は連帯債務とされているため、原則入院費を支払う必要があります(民法第761条)

さて、このように被相続人の入院費を支払う必要がある場合、または支払う義務はなくてもお世話になった病院等に入院費を支払いたいと考えた場合には、その入院費を誰の財産から支払うかが問題となります。相続人個人の財産や受け取った生命保険金から入院費を支払うのであれば、法定単純承認が成立することはありません。問題は相続財産から支払った場合で、これは相続財産の処分とみなされると法定単純承認が成立する可能性があります。入院費を支払う際には相続人個人の財産から支払った方が安全であるといえます。

形見分け

葬儀や埋葬後には遺品整理を行うことになります。その時に遺品を形見分けとして受け取ると法定単純承認が成立するのでしょうか。被相続人が生前愛用していた身の回りの物など、相続人には思い入れがあっても金銭的価値の少ないものや僅少な金銭については、形見分けを行っても法定単純承認は成立しません。ただし、形見分けなら必ずしも法定単純承認が成立しないというわけではなく、被相続人の金銭的価値がある遺品のほとんど全てを形見分けとして持ち帰ったケースでは法定単純承認が成立するとされました(東京地方裁判所平成12年3月21日判決)

不動産について

次に不動産と法定単純承認の関係について見ていきます。
まず、前述のとおり被相続人名義となっている不動産について相続登記を行えば、法定単純承認が成立します。ただし、相続前に死因贈与を原因とする所有権移転登記の仮登記がある場合、相続後に本登記をしたとしても、法定単純承認は成立しません。これは贈与と相続放棄の間には関連性がなく、相続人が被相続人から贈与を受け取っていたとしても相続放棄を行うことが可能だからです。

また、相続財産である建物を修理することは保存行為のため、法定単純承認は成立しませんが、取り壊しを行うことは相続財産の処分であるため、法定単純承認が成立します
他にも相続財産がアパートなどの賃貸不動産の場合、賃料を受け取るための口座を相続人の名義に変更すると、相続財産を引き継ぐ意思があるとみなされるため法定単純承認は成立します(東京地方裁判所平成10年4月24日判決)

被相続人の債務

最後は被相続人の債務についてです。相続放棄をすれば相続人は被相続人の債務を弁済する義務から逃れることができます。ただし、注意すべきケースもあります。

特に注意が必要なのは、被相続人と債権者が代物予約弁済契約を締結していた場合です。
代物弁済予約とは借金などが返せない場合には、不動産や車などの物で弁済すると予め約束しておくことです。この場合、債権者は相続人に対して契約書をもってきて、代物の引き渡しを請求すると考えられます。多くの方が「そういう約束なら」と代物を渡してしまうのではないでしょうか。自身が相続する気がないのであればなおさらです。ただし、相続人が代物を引き渡す、つまり代物により債務を返済すると法定単純承認が成立してしまいます(大判昭和12年1月30日)。相続放棄を検討している場合にはこのような請求には応えるべきではないのです。

他にも債権者から「せめて借金の一部だけでも被相続人の遺産から弁済してほしい」などと言われた場合にも注意が必要です

相続放棄をする相続人自体は相続財産を受け取るわけではないため、債務を弁済しても損得はありません。また、債務を踏み倒されてしまった債権者を気の毒に思い「せめてもの足しに」と弁済してしまうかもしれません。しかし、その弁済が相続財産の処分とみなされたり、相続財産を管理する意思表示だとみなされたりすると法定単純承認が成立してしまいます。被相続人の債務を弁済する場合には被相続人の入院費と同様に相続人自身の財産や受け取った生命保険金から行うようにしましょう。

繰り返しになりますが、被相続人の債務を弁済する義務は、相続放棄をする相続人には一切ありません。そのため、債権者の請求に応じる必要はありません。万が一、債権者が執拗に弁済を請求し、身の危険を感じるようであれば迷わず警察等に相談しましょう。

なお、被相続人の債務について相続人が保証人になっていた場合は相続放棄をしても弁済の義務から逃れることはできません。また、被相続人の債務のために相続人所有の不動産に担保権を設定していた場合も同様で、相続放棄をしても抵当権者である債権者によって当該不動産は競売にかけられてしまう場合があります。

他にも被相続人の債務について過払いがあったときでも過払い金返還請求を行うと法定単純承認が成立するので注意が必要です。

まとめ

以上が法定単純承認についての説明でした。相続人がこれらの行為により法定単純承認が成立することを知らなかったとしても、法定単純承認は成立してしまいます。「知らなかった」は通用しないのです。
また、被相続人の入院費の支払いや被相続人の債務の返済などを行う場合は、疑義が生じないように相続人自身の財産などから行うこと、そしてその証拠を残しておくことが重要です。

少しの手違いにより相続放棄が認めらなくなると、相続人は多額の負債を抱えてしまうおそれがあります。少しでも不安のある場合は素人判断せずに法律専門家に相談すべきでしょう

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『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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