相続の限定承認をご存じですか?
押さえておきたい手続きの基本とデメリット

相続の限定承認をご存じですか?<br>押さえておきたい手続きの基本とデメリット

亡くなった人に多額の債務があっても、限定承認(民法第922条以下)でマイナス分の承継を回避できます。引き換えに相続財産は原則として全て弁済に充てられますが、一定の条件下で取り戻すことも可能です。
ただし、手続き上どうしても無視できない欠点があることは否めません。相続放棄との違いにも触れつつ、手続きの基本と「必ず意識したい注意点」について解説します。

限定承認とは

限定承認とは、相続財産である預貯金や不動産等(=プラスの遺産)につき、同じく承継予定の債務(=マイナスの遺産)を弁済してから受け取るための裁判手続です。手続きでは、まず把握していない債権者に名乗り出るよう促し、続いてプラスの遺産を換価して代金を配当に充てます。
プラスの遺産を使った負債の清算は、返済すべき額がゼロになるまで続けられます。そして、遺産に余り(=残余財産)が出た場合に限り、これを相続人の経済的利益として扱えます。

債務が超過していた場合はどうなる?

「限定承認」の意味は、相続財産の価額に「限定」して債務を「承認」することです。つまり、プラスの財産を使い果たした時点で返済義務はなくなります
例として、評価額5千万円の土地建物の他に、住宅ローンその他の事業で負った債務が7千万円に及んでいた場合を考えてみましょう。単純承認(※)の場合、超過分である2千万円は相続人固有の収入や貯蓄で弁済しなければなりません。限定承認を選択すれば、土地建物の売却代金を債権者に引き渡した時点で、弁済すべき額はゼロになります。

※ 被相続人に属する財産を制限なく取得することは、実務上「単純承認」と呼びます。

限定承認で認められる「先買権」のメリット

プラスの遺産の換価は、抵当権実行等の一般的な債権・債務関連の手続きと同じく、競売で実施されます。限定承認ならではの競売の特徴は、債務者側である相続人に「優先して買い受ける権利」(=先買権/民法第932条)が認められる点です。
もちろん、代金は相続人の固有財産で支払わなくてはなりません。分かりやすく言えば、買い受けの原資は「自身の収入で形成した貯蓄」に限られます。実際には、対象の資産を必要とする他の家族と協力し、めいめい出せるだけの金額を拠出しても構いません。

相続放棄との違い【遺産を取得できる余地がある】

同じように債務の引き継ぎを免れるための選択肢として、相続放棄(民法第915条・第939条)もあります。ただし、以下の点で根本的に異なります。

▼ 限定承認の特徴
「遺産全体から負債を控除した部分」がプラスであれば取得できる
= 債務はゼロになり、いくらか経済的利益を得られる余地も残される
▼ 相続放棄の特徴
「遺産全体」(被相続人に属する一切の権利義務)を失う
= 債務も経済的利益もゼロになる

限定承認が適しているケース

生前の債務を家族に持ち越さないようにするのが目的ならば、相続放棄を選択しても同じです。限定承認が敢えて選ばれるのは、余裕しだいで特定の財産を換価せずにそのまま取得できるからです。
以上から、ここで挙げる例のように「経済的に多少厳しくなったとしても特定の財産を残したい状況」だと、いったんは限定承認を検討してみるべきだと言えます。

  • どうしても家業だけは続けたい(事業用不動産や自社の株は残したい)
  • 債務を解消したいが、居住中のため持ち家は手放せない
  • 価値上昇を見込める資産があり、いま手放すのは勿体ない
  • 思い出の品があり、弁済に役立つとしても他人に譲りたくはない

限定承認の手続きの基本│申立期限・必要書類・費用の目安

実際に限定承認を進める場合、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所での申立てが必要です。この時、所定の書類と共に各種費用を納めなくてはなりません。
以降、手続きの基本事項として、申述(※)の期限・提出する書類・各種費用の目安の3点を紹介します。

※ 裁判手続の申請は「申立て」と呼ぶのが一般的ですが、限定承認は実務上「申述する」と表現します。

家事審判の申立は3か月以内に行う

限定承認の申述で最も注意したいのは、手続きできる期間が「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」に限られている点です(民法第915条)
実務では「熟慮期間」と呼ばれており、単純承認すべきか否か判断する期間とされています。つまり、限定承認にしろ、相続放棄にしろ、債務があると分かった際は3か月以内には何らかの手続きに進めるよう判断しなければなりません。先立って相続財産調査が不可欠になる点を考えると、スケジュールのゆとりはそれほどないのです。

なお、熟慮期間中に遺産の取扱いを決められそうにない場合は、家庭裁判所に事情説明することで期間伸長に対応してもらえます。必要な調査が終わらない、あるいは共同相続人に連絡が付かないといった事態になった時は、伸長の申立てを検討しましょう。

【参考】裁判所:相続の承認又は放棄の期間の伸長
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_25/index.html

申立時の必要書類

家庭裁判所に限定承認を申し立てるには、家裁が指定する記入済の申述書一式を準備し、相続関係を証する書類を添付しなくてはなりません。その内訳は下記の通りです。

▼限定承認の申述書の構成
  • 家事審判申立書(申立の概要を記入)
  • 当事者目録(相続関係を記入)
  • 遺産目録(相続財産についてカテゴリー別に記入)
▼限定承認の申述書に添付する書類
  • 被相続人の出生から死亡時までの全ての戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票、または戸籍附票
  • 相続人全員分の現在の戸籍謄本
  • 先に死亡した相続人の子の戸籍謄本(代襲相続※の確認に必要)

【参考】裁判所:相続の限定承認の申述書
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_14/index.html

※ 代襲相続とは
被相続人の死亡前に被相続人の子や兄弟姉妹が亡くなっていた場合において、孫や甥姪が相続人となる相続のことをいいます。

限定承認の申立費用【実費と弁護士報酬の目安】

家事審判申立書等の書類を提出する際は、所定の費用と返送料に加え、弁済にかかる経費も負担しなくてはなりません。通常は弁護士に依頼して手続きするため、別途士業報酬も必要です。

限定承認の費用内訳 金額 備考
添付書類の収集費用 300円~750円/1通 戸籍謄本等の交付手数料
裁判手続の手数料 800円 収入印紙で納付
返信用郵便切手 1,500円~3,000円 金額は管轄裁判所により異なる
官報の掲載料 4万円前後 金額は文字数と行数で変動
士業報酬 30万円程度 ケースの難易度で変動

限定承認の流れ│申立書の受理から準確定申告まで

限定承認の申立から一通りの処理が終わるまで、概ね1年前後の時間を要します。清算手続きに取りこぼしがないよう、下記のように慎重な運用が行われているからです。

▼ 限定承認の流れ(裁判手続の一般的な運用)
  1. ① 申述受理の審判
  2. ② 債権者への催告+公告(①から5日以内かつ2か月以上)
  3. ③ 相続財産の換価
  4. ④ 債権者・受遺者への分配
  5. ⑤ 残余財産の処理(申出の遅れた債権者への分配+遺産分割)

限定承認者自身でやるべきこと

民法第927条では、債権者および遺言で贈与された人(=受遺者)に対し、官報で請求の申出を呼びかけるよう義務付けられています。義務を負うのは限定承認の申立人であり、申立後5日以内には「公告」、つまり官報掲載を行わなくてはなりません。
なお、この後解説する「相続財産管理人」が選ばれる場合には、申立後5日以内とされる期限が選任後10日以内へと延長されます。

相続財産管理人の必要性

限定承認の対象となる遺産は、相続人自身で蓄えた貯金等と同一の注意をもって管理する義務を負います(民法第926条)。この点に関連し、相続人が2人以上いるケースに限り、申立ての受理後にいずれか1人が「相続財産管理人」として選任されます(民法第936条)

なお、相続財産管理人に選ばれた人は、官報公告、弁済、遺産の換価等の対応を代表して行わなくてはなりません。選任権は家裁側にありますが、家族会議で候補者を決めて申立書で指名しておけば、希望は原則として汲んでもらえます。

先買権を行使する場合の手続き【鑑定人選任の申立て】

先買権を行使する時に支払う代金は、申し出に応じて家裁に選任された「鑑定人」の見立て以上の金額と定められています。そこで必要なのが、買い受けたい資産ごとに知見のある人物を選び、候補者として指名する手続きです。
例えば土地建物を買い受けるなら、地域の市場に詳しい不動産鑑定士を探さなくてはなりません。経営中の非上場企業につき株式を確保したいのであれば、決算情報等から株価を算定できる税理士が必要です。

配当の順序【優先権があると先買権行使は不可能】

個別に限定承認の結果をイメージするために、簡単に理解しておきたい知識があります。それは、配当を得る権利がある人とその優先順位です(下記参照)

配当の優先順位 対象者
第1位 優先権のある債権者
※ 抵当権者、未払いの税金がある自治体等
第2位 事前に把握済みの債権者、官報掲載中に申し出た債権者
第3位 事前に把握済みの受遺者、官報掲載中に申し出た受遺者
第4位 上記以外(官報掲載後に申し出てきた債権者等)

参考:民法第929条、第931条、第935条

手続きの障壁になるのは、買い受けたい財産につき債権者側に優先権がある場合です。
抵当権等の該当する権利は、相続人側の先買権より優先されます。つまり、買受代金の代わりに債務額を負担できる程度の経済力がなければ、債権者側でお構いなしに競売にかけられ、財産を取得するチャンスがなくなってしまうのです。

準確定申告の必要性【含み益等には譲渡所得税がかかる】

限定承認で得た残余財産は、単純承認と同じく相続税の賦課対象です。ただし、得た財産のうち含み益や賃料収入にあたる部分は、別に「みなし譲渡所得」として準確定申告しなければなりません

▼ 所得税法上の限定承認の扱い
限定承認で得た財産のうち「取得時に比べて値上がりした部分」については、被相続人から相続人へ譲渡した時に生じた利益と考えます(所得税法第59条)

限定承認の注意点

実のところ、限定承認はあまり選ばれていません。平成27年の司法統計によれば、相続放棄が約19万件受理されているのに対し、限定承認はわずか759件です。
背景にあるのは、必要な労力に対して期待できる経済的利益が少ない実情でしょう。以降紹介する特性を考えると、何となく「もらえるものは極力もらっておきたい」だけの人にはおすすめできない手続きです。
申立てを検討する時は、自己判断を避け、必ず士業や査定業者に状況診断してもらうべきです。

相続人全員の協力が必須

限定承認でまず注意すべき点は、相続人全員で共同して申述しなければならない点です。何らかの理由で連絡がとれない人、あるいは手続きに反対する人が1人でもいれば、その時点で断念せざるを得ません。
弁護士等の専門家に依頼しても、相続人調査で居住地等の連絡先が分かるだけです。上記のような問題は解決できず、各自で手続きできる相続放棄に切り替えていくことになるでしょう。

単純に手間がかかる

相続財産管理人の必要性として触れた通り、限定承認のプロセスは「最初に申立書類を出して終わり」ではありません。官報に掲載する文書を考える、鑑定人を立てる、弁済を実行する……とのように、裁判所ではなく相続人もしくはその代理人でやらなければならない対応が多くあります。
相続放棄が「事務的な郵送物のやり取りを2回~3回こなすだけ」であることを考えると、多額の債務を解決する手段としては手間がかかりすぎます。

必要経費が高額化する

経費の面でも、官報公告費用(4万円前後)や士業報酬(30万円~)の部分が限定承認のコスト総額を押し上げています。相続放棄なら公告費用はかからず、士業報酬もせいぜい5万円~15万円程度です。
限定承認の性質上、費用をかけてわざわざ選択したからと言って、必ず相応の経済的利益があるとはとても言えません。遺産の状況をしっかりと精査して、本当に得になるのかよく考える必要があります。

税額軽減に繋がる制度が利用不可になる

次に注意したいのが、取得できた残余財産にかかる課税関係です。限定承認の税制上の扱いが原因で、通常使えるはずの節税策の一部は諦めなくてはなりません。
特に注意したいのは、不動産を取得した場合です。相続税評価額の減額に繋がる「小規模宅地等の特例」を適用したいところですが、譲渡扱いになることで保有継続要件が満たせません。譲渡所得税についても、3,000万円の特別控除が使えるところ「親族間売買」として扱われるせいで適用対象外になります。

債務の相続対策│家業を円滑に承継するために

相続開始時に多額の債務が問題になるのは、ほとんどの場合、賃貸経営その他の家業を引き継ぐケースです。相続開始前に弁済の目途を立てておかないと、限定承認でごく最低限の資産を残すことが最善の選択肢になり、事実上廃業に追い込まれてしまいます。
最後に紹介するのは、事業で債務がある場合に最低限とっておきたい対策です。

資産状況を整理しておく

最も重要なのは、資産・負債ともに状況整理しておくことです。
特に資産に関しては、現状の査定価格を調べ、将来の価値変動を見込んでおきましょう。価値低下が見込まれるものは必要に応じて売却・改修等の対応をとっておくことで、間接的に債務の負担を軽減できます。

死亡保険金でキャッシュを確保する

手堅い債務対策として考えられるのは、親世代でのキャッシュ確保です。それも預貯金としてではなく、生命保険の掛金として蓄えるのが良いでしょう。
死亡保険金(共済金)のメリットは、法定相続人1人につき500万円の非課税枠がある点です。同様に、預貯金で相続した場合の課税額をそのまま弁済に充てられる分、債務の負担が軽くなります。

▼ 限定承認する場合の死亡保険金の扱い
死亡保険金は相続人の固有資産です。つまり、仮に限定承認を選択するとしても、債務の弁済に充てられることなく全額取得できます。

おわりに│限定承認が向いている状況はごく限られている

限定承認には、多額の債務を相続財産の範囲に圧縮し、余力しだいで希望する財産を取り戻す効果があります。これだけだと「借入金を引き継ぐ時の最善の選択肢」であるかのように見えますが、実際には家業を継ぐ強い意志がある等の特定の状況にしか適しません。下記のように、複数の欠点を抱えているからです。

  • 相続人全員の協力が必須
  • 相続放棄と比べて手間がかかる
  • 官報掲載等が必要になるため、経費も高額化する
  • 抵当権者がいる場合、目的の財産の買い受けに失敗する可能性大
  • 単純承認と比べて課税面で不利になる

亡くなった人に多額の債務があると判明した時は、ひとまず弁護士や司法書士等の専門家に相談しましょう。自己判断で手続きを進めるのはNGです。
また、賃貸物件その他の事業と共に債務を遺す予定がある場合は、状況整理とキャッシュ確保が何よりの優先課題です。任意後見契約や家族信託で段階的な承継を行い、次の世代が主体となって中長期的な返済計画を立てられるようにするのも良いでしょう。

遠藤 秋乃

遠藤 秋乃(司法書士、行政書士)

大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年~2016年にかけて、司法書士試験・行政書士試験に合格。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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