遺言が無効になる事由について
無効を主張する方法についても解説

遺言が無効になる事由について<br>無効を主張する方法についても解説

遺言が残されている場合、遺言に従って相続が行われます。しかし、遺言には法律上のルールがあり、ルールに従っていない遺言は無効になってしまいます。遺言が無効である場合には、相続人は遺言に従う必要はありません。
本記事では、遺言が無効になる主な事由について説明します。遺言が無効と考える場合に必要な手続きについても理解しておきましょう。

1.遺言が無効になる事由

遺言では主に亡くなった後の財産の処分方法(相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈など)を定めることができます。ただし、遺言を書いても、内容によっては効力が発生しないことがあります。

1-1.遺言の効力が生じない主なケース

遺言が無効になったり、取り消しにより効力がなくなったりするのは、以下のようなケースです。

● 意思能力がない人が書いた遺言

遺言を書くには、遺言能力が必要です。遺言能力とは、遺言の内容を理解すると同時に、遺言の結果起こることを理解する能力を意味します。遺言能力がない人が書いた遺言は無効です。
15歳以上であれば、原則的に遺言能力はあります。しかし、認知症などで判断能力が低下している場合には、遺言能力があるとは言えません。たとえ公正証書遺言を作成していたとしても、作成時点で認知症だったことが疑われる場合には、遺言が無効になる可能性があります。

● 詐欺や強迫によって書かれた遺言

詐欺や強迫によって書かれた遺言は、当然に無効ではなく、取り消し可能です。遺言者が亡くなった後、その遺言が詐欺や強迫によって作成されたことがわかった場合、相続人はその遺言を取り消すことができます。
なお、遺言者が亡くなっている場合に、相続人が詐欺や強迫があったことを立証するのは非常に困難です。詐欺・強迫によって遺言が取り消されるケースは、現実には少ないでしょう。

● 公序良俗に反する内容の遺言

公序良俗に違反する内容の遺言は無効です。公序良俗とは、公の秩序や常識的・道徳的な観念を意味します。地裁の判決には、不倫相手に全財産を遺贈する内容の遺言が公序良俗違反とされたものがあります。

● 後日書かれた遺言と抵触する記載がある遺言

遺言は1通でないといけないわけではなく、複数書くこともできます。ただし、遺言の内容が矛盾している場合、日付の古い方は取り消された扱いになり、日付の新しい遺言が有効となります。
たとえば、令和2年1月1日付の遺言には「自宅を長男に相続させる」とあり、令和3年1月1日付の遺言には「自宅を長女に相続させる」とある場合、「自宅を長男に相続させる」という遺言は無効になります。なお、令和2年の遺言についてはすべてが無効になるわけではなく、令和3年の遺言と抵触する部分のみ効力が生じません。

● 特定の相続人にのみ債務を負担させる遺言

借金を特定の相続人にのみ負担させる遺言は、それ自体無効ではありませんが、実質的に強制力がありません。遺言の内容に関係なく、債権者は各法定相続人に対し、法定相続分に応じた支払いを請求できるからです。
たとえば、相続人が長男、次男、三男の3人で、たとえ遺言書に「私の借金900万円はすべて長男が返済するものとする」と記載してあっても、債権者は各相続人に300万ずつ請求できます。なお、この場合も遺言のすべてが無効となるのではなく、債務に関する部分のみ効力が生じません。

1-2.遺留分を侵害する遺言の有効性

遺言で注意しておかなければならないのが遺留分です。遺言と遺留分の関係を理解しておきましょう。

● 遺留分とは?

遺言が残されている場合、法定相続よりも遺言が優先されます。もし本来の相続人が財産を全く相続できなければ、生活に困窮してしまうことも考えられるでしょう。こうしたことから、相続人の生活保障のため、遺留分が設けられています。
遺留分とは、相続人に認められた最低限の遺産の取り分です。兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分が認められています。

● 遺留分を侵害する遺言も有効

遺言が遺留分を侵害する内容だったとしても、直ちに無効になるわけではありません。
たとえば、被相続人の長男、次男の2人が相続人であるにもかかわらず、「長男に全財産を相続させる」という遺言が残されていたとします。この遺言では次男の遺留分が侵害されていますが、遺言自体は有効です。次男が遺留分を請求しなければ、遺言どおり長男が全財産を相続します。

● 遺留分を確保するには遺留分侵害額請求が必要

遺言により遺留分を相続できなくなった人は、遺留分を侵害している人に対して、遺留分侵害額請求ができます。遺留分侵害額請求とは、遺留分相当の金銭の支払いを請求する手続きです。遺留分侵害額請求をするかどうかは、あくまで任意です。
上記の事例では、次男は長男に対し、遺留分侵害額請求ができます。次男が遺留分侵害額請求をすれば、長男は全財産を相続できなくなります。

● 遺留分侵害額請求の時効

遺留分侵害額請求は、相続開始と遺留分侵害を知ったときから1年以内に行わなければなりません。何も知らなくても、相続開始から10年経過すれば、遺留分侵害額請求はできなくなります。遺留分侵害額請求の時効が成立している場合には、遺言どおりの相続が行われます。

2.自筆証書遺言が無効になる事由

自筆証書遺言とは、自分で手書きして作る遺言です。自筆証書遺言なら費用をかけず手軽に作成できます。ただし、自筆証書遺言は、民法に定められている方式どおりに作成しなければなりません。1つでも要件をみたしていなければ、全体が無効になってしまいます。

2-1.どのような場合に無効になる?

自筆証書遺言が形式的に無効になるのは、次のような場合です。

● 自筆されていない

自筆証書遺言は、全文を自筆で書く必要があります。パソコンで作成したものや他人が代筆したものは無効です。レコーダーやビデオに録音・録画された音声や映像も、遺言としての効力はありません。
なお、2019年1月以降、自筆証書遺言に添付する財産目録に限り、パソコンでの作成が認められるようになりました。財産目録として、不動産登記事項証明書や通帳のコピーを添付することも可能です。

● 署名・押印がない

自筆証書遺言には、手書きで署名し、押印する必要があります。署名がない遺言や、他人の署名がされている遺言は無効です。押印は実印でなく認印でもかまいません。
なお、パソコン等手書き以外の方法で財産目録を作成した場合には、財産目録の各頁にも署名押印が必要です。

● 日付がない

作成日が記載されていない自筆証書遺言は、効力が生じません。日付は具体的に特定しなければならず、「8月吉日」など特定できない日付の記載は無効です。日付は手書きしなければならず、スタンプ印による日付の記載は認められません。

● 遺言者が連名で書かれている

民法では、「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない」(975条)と定められています。たとえ夫婦であっても、連名の遺言は無効です。

2-2.訂正方法が間違っていても無効

自筆証書遺言を書き間違えた場合、修正ペン等は使えず、民法に定められた厳格な方法で訂正しなければなりません。訂正方法が間違っている場合には、遺言は無効となります。

● 自筆証書遺言の訂正方法

自筆証書遺言を書き間違えた場合、次のようにして訂正する必要があります。

  1. ① 削除する箇所に線を引き、正しい文言を記載
  2. ② ①の訂正箇所に訂正印を押す
  3. ③ 遺言書の末尾か訂正箇所の近くの余白に訂正箇所と文字数(例 〇字削除〇字追加)を記載
  4. ④ ③の後に署名
法務省:遺言書の訂正の方法に関する参考資料

【出典】法務省:遺言書の訂正の方法に関する参考資料 https://www.moj.go.jp/content/001279214.pdf

2-3.自筆証書遺言書保管制度を利用した場合

2020年7月より、自分で作成した自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる「自筆証書遺言書保管制度」がスタートしました。この制度を利用した自筆証書遺言は、保管申請時に形式チェックが行われているため、形式的に無効になるリスクがありません。ただし、作成時に認知症だった場合などには、無効になる可能性があります。

3.無効を主張する方法

遺言が無効と考えられる場合でも、何もせず放っておいたら、遺言に従って相続手続きが進んでしまうことがあります。遺言の無効を主張したい場合には、次のような方法をとりましょう。

3-1.話し合い

たとえ遺言が残されていても、相続人全員が合意すれば、遺言と異なる遺産分割も可能とされています。遺言が無効であることを相続人全員が認めれば、遺言がなかった場合と同様、遺産分割協議をしてかまいません。まずは話し合いで解決できないか試みてみましょう。

3-2.家庭裁判所の調停

遺言の有効性について話し合いが困難な場合には、家庭裁判所の調停を利用する方法があります。この場合、遺産分割調停を申し立て、遺産分割調停の中で遺言の無効を主張します。他の相続人も遺言の無効を認めれば、そのまま遺産分割を行います。
なお、遺言の有効性で意見が分かれた場合、家庭裁判所では遺言が有効か無効かを判断してはくれません。遺言が無効であると認めてもらうには、地方裁判所に遺言無効確認訴訟を提起する必要があります。

3-3.遺言無効確認訴訟

遺言無効確認訴訟を起こした場合、遺言が無効であることを証明する資料を提出し、裁判で審理してもらいます。

● 認知症の人の遺言を無効にするには?

認知症の人が書いた遺言を無効にしたい場合には、病院のカルテや介護施設での介護記録、介護保険の認定調査票などを提出します。裁判所で被相続人が認知症だったと判断されると、遺言無効の判決が出ます。

● 遺言の無効が確定したら?

遺言無効の判決が出たら、遺言はなかった扱いになります。この場合には、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分け方を決める必要があります。

4.まとめ

遺言にはさまざまな要件が設けられています。たとえ亡くなった人が遺言を残していても、要件をみたしていなければ、その遺言は無効です。
遺言が無効と考えられる場合、無効を主張するための手続きが必要になります。遺言の有効性に疑問がある場合には、早めに弁護士等に相談するのがおすすめです。

森本 由紀

森本 由紀(行政書士、ファイナンシャルプランナー)

行政書士ゆらこ事務所代表。大学卒業後、複数の法律事務所に勤務してパラリーガルの経験を積んだ後、2012年に行政書士として独立。離婚や相続など身近に起こる問題をサポート。各種サイトでの法律記事・マネー記事の執筆や監修も担当。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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