2023年1月23日

認知症と行方不明 原因や対策について解説!

認知症と行方不明 原因や対策について解説!

高齢社会の現在、80歳代の4人に1人が認知症と言われています。認知症と言えば、どのような症状を思い浮かべますか。物忘れ、徘徊、言葉が出なくなった、怒りやすくなった、など様々な症状が頭に浮かぶかもしれません。
この記事では、認知症の中でも徘徊や、それに伴う行方不明について解説します。

1. 認知症による行方不明

① 年間約1万8千人!認知症による行方不明者

警察庁の報告によると2021年の行方不明者は79218人、その中で認知症やその疑いによる行方不明者は17636人でした(※1)。行方不明者の全体数は2018年をピークにやや減少傾向ですが、認知症やその疑いによる行方不明者の割合は増加傾向です。

② 発見されるまでの時間やその状態

行方不明になってから発見されるまでの時間やその状態についても気になることでしょう。

2016年の桜美林大学老年学総合研究所の報告(※2)によると、徘徊高齢者の発見までにかかった時間で最も多かったのは「3~6時間未満」(約25%)、次いで「6~9時間未満」(約15%)と、半数近くが9時間以内に発見されるようです。

警察への届け出から発見までの時間 約半分が届け出から9時間で発見

表1 警察への届け出から発見までの時間(文献※2を参考に作成)

また、発見される場所は普段移動できる範囲が約40%で、かなり遠くでの発見例はおよそ45%に上っていました。
徘徊をする年齢層で最も多いのが70歳代で約50%を占めている点、発見時の主な移動手段の約75%が徒歩である点を考慮すると、年齢が若いほど身体能力が高いため、徘徊していても気づかれにくい可能性も考えられます。

行方不明高齢者の年齢層 約半分が70歳代

表2 行方不明高齢者の年齢層(文献※2を参考に作成)

さらに、無事の状態で発見されることもあれば、夏は熱中症、冬は低体温状態などの危険な状態で発見されることも少なくありません。また、発見までに時間がかかるほど生存率は下がり、当日で約60%、3~4日で20%、5日以降で0%と言われています。

実際に、2018年のデータによると認知症関連の行方不明者の届出は16927人で、発見された人は 16227人(96.2%)と多数である一方で、死亡確認をされた人は508人(3.0%)と決して少なくない割合を占めています。

このため、認知症高齢者の徘徊を防ぐためには、徘徊してしまう原因とその対策について知る必要があるでしょう。

2. 認知症で徘徊が起きる理由

徘徊は認知症でよくみられる行動にも関わらず、そうなってしまうリスク因子は不明と言われています(※3)

先ほどの桜美林大学の報告では、アルツハイマー型認知症が約26%、血管性認知症やレビー小体型認知症がそれぞれ1%程度、前頭側頭型認知症が0.3%、原因不明が70%を占めていました。原因不明の中では、診断のされていないケースも多いようです。

認知症関連の行方不明者の原因疾患 原因がわかる中で、最多はアルツハイマー型認知症/行方不明者の原因疾患は不明もしくは未診断

表3 認知症関連の行方不明者の原因疾患(文献※2を参考に作成)

海外の論文ではアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の方が他の認知症のタイプより徘徊する傾向が強いと報告されています(※4)。ここではアルツハイマー型認知症において徘徊が起きる原因について説明します。

アルツハイマー型認知症では、進行に伴い見当識障害や頭頂葉症状がみられます。

見当識障害とは、時間、場所、人物など現在の状況に関する項目を忘れてしまうことです。
また、頭頂葉症状とは視空間認知障害や構成障害のことで、道順障害や街並失認を生じてしまいます。一度に見渡すことができない空間内で2地点間の方角がわからなくなる、目に見える建物が何なのかわからなくなる症状がみられます。
言葉を変えると、「極度の方向音痴の状態かつ道しるべのマークを見失った状態」と言えます。

これは、自宅にいても起こり得ます。自宅で家族と一緒にいても、「見知らぬ場所で知らない人に囲まれている」ため、「自宅にいる家族に会いに行く」ために外出しようとするのです。しかし、近所の景色すら見知らぬ風景に見えてしまい、方向音痴のまま歩き続け、そのうち何のために歩いているのかも忘れてしまい、徘徊してしまうのです。

アルツハイマー型認知症では、初期は数時間、数日単位の最近の出来事が思い出せない、新しいことを学習できないなどの「近時記憶障害」で発症することが多いです。
また、場合わせや取り繕いも多くみられます。もちろん年齢を重ねれば相応に忘れやすさは目立つようになりますが、気になるようであれば今日の日付や今朝の食事の内容などを訊いてみるのもいいかもしれません。取り繕ったり、周りの家族の顔色をみながら返事をしたりするような場合は注意が必要です。

すでにアルツハイマー型認知症と診断されている場合の対処法は、否定したり怒ったりせずに受け止め、できれば話をそらすことです。
例えば、「家に帰る」ために外出しようとしても「そうね、でもその前にお茶を飲んでからにしませんか。」などと言って話をそらしているうちに、外出しようとした目的を忘れてしまうでしょう。

また、アルツハイマー型認知症やそれ以外の認知症でも、抗精神薬治療中、うつ、それ以外の精神疾患、暴言を吐いたり喧嘩しやすかったりなどの症状がある場合は徘徊傾向がある(※3)ため、注意が必要でしょう。

3. 行方不明を防ぐ方法

それでは、大切なご家族が行方不明にならないようにするにはどうしたら良いのでしょうか。自宅から出ないように施錠をするのはもちろんのこと、出ていってしまった場合にすぐに見つける手段を知っておくと便利でしょう。

徘徊がみられるようになってしまった場合、一般的に取り組まれている対策として鍵の工夫、玄関センサー、GPS、住所や連絡先がわかる名札の携行などが挙げられます。

海外においては、徘徊に対しては基本的に身体拘束、薬剤調整、ドアの施錠などで対策しているようです。健常者と比較して認知症患者の環境刺激への反応の違いを利用して、目に見える障壁(ドアを布で覆ったり、出口までの通路に鏡を増やしたりなど)を工夫して徘徊を予防しようとした試みも報告されていますが、ほとんど効果はありませんでした。むしろ、目に見える環境の変化によって不穏になってしまう危険性もあったようです(※5)

① 各家庭で取り組める方法

まずは、同居している介護者がいる場合の対策を考えましょう。

● 薬を服用する

認知症を診療している、脳神経内科や精神科の外来に相談すると、症状に合わせた内服薬の処方を受けることができます。怒りやすい症状や不眠を和らげることができ、本人や介護者にとって過ごしやすくなるはずです。

● 鍵を増やす

両面がシリンダー錠になっていて内側から開けられないセーフティーロック、デジタルロック、クレセント錠などがよくある玄関の施錠の工夫です。
また、住戸にもよりますが、玄関以外の勝手口や掃き出し窓からの外出も考え、窓ガードなどを使用してもよいかもしれません。

● センサーを設置する

ベッドから離れたときに知らせるもの、玄関のドアなどを通った時に知らせるものなどがあります。音が鳴るだけのタイプ、送信・受信機が必要なタイプ、アラーム時に映像が確認できるタイプなど、予算に合わせて選ぶと良いでしょう。

● 名札を付ける

服や杖などの持ち物に名札や住所、電話番号のわかるものをつけておくのも身近な対策方法の1つと言えます。

● GPSをつける

自宅から離れてしまった場合もGPSがあれば見つけやすいはずです。
持ち物や服、靴に装着させるなど、設置には工夫が必要です。また、自治体によっては購入補助を行っています。一部の機種は介護保険の適応となっている場合もあるので、導入の際は調べた方が良いでしょう。

② 各自治体での取り組み

次に、一人暮らしでご家族が遠方に暮らしている場合の人や身寄りのない人にはどのような対策方法があるのでしょうか。

認知症があっても可能な限り、自宅での生活を続けていくために、厚生労働省が2014年に各自治体に対策強化をするように通達を出しました。

それに伴い、「わんわんパトロール隊」を設置している自治体もあります。大分県の国東市や静岡県の菊川市、岩手県の矢巾町などがその一例です。「認知症サポーター養成講座」を受講した市民が、愛犬との散歩を通して「地域の見守り活動」を実践してもらうものになります。

他にも、「見守りキーホルダー」を利用して、地域包括支援センターが核となって高齢者を支え合うネットワークもあります。この「見守りキーホルダー」には本人の登録番号と地域包括支援センターの番号が記載されていて、事前登録が必要ではあるものの個人情報の保護などに配慮がなされています。これは東京都大田区の取り組みで、2017年の厚生労働省の報告では、大田区の高齢者の5人に1人が見守りキーホルダーを利用しているそうです。

このように、同居の介護者がいない認知症高齢者に対して、地域全体でサポートする体制が作られつつあります。

4. 行方不明になった場合の対処法

それでは、実際行方不明になってしまった場合はどのように対処したらよいのでしょう。

① 警察に届け出る

まずは警察に届け出るようにしましょう。この際、本人の特徴がわかりやすい写真などがあると良いです。警視庁の報告によると、行方不明から届け出までが平均7.6時間、届け出が受理されてから発見までが平均6.6時間と言われています。ケースによっては自宅敷地内で見つかることもありますが、『1. 認知症による行方不明』の通り、発見までの時間が過ぎるほど生存率が下がってしまうため、可能な限り早い届け出が望ましいと言えるでしょう。

② 地域包括支援センターへ連絡する

『3. 行方不明を防ぐ方法-②』の通り、自治体によっては、警察署や地域住民らが独自のネットワークを持っていることもあります。早期発見につながる一手なので、是非活用しましょう。

5. まとめ

認知症と徘徊、行方不明について、原因や対策方法をお話しました。
自宅や施設入所、いずれの場合でも徘徊やその対策についての理解が広がることで、ご本人や介護者であるご家族への負担が少しでも減ると良いですね。

参考文献

※1 警察庁生活安全局人身安全・少年課.令和3年における行方不明者の状況,2022年6月

※2 鈴木隆雄. 認知症高齢者の徘徊・行方不明・死亡に関する研究, 日本セーフティプロモーション学会誌, 2017 ;Vol10(1) 6-13

※3 Adesh KA, et al. Approach to Management of Wandering in Dementia: Ethical and Legal Issue. Indian Journal of Psychological Medicine, 2021; 43(55) 535-595

※4 Knuffmann J, et al. Differentiating between Lewy body dementia and Alzheimer’s disease: A retrospective brain bank study. J Am Med Dir Assoc, 2001 ; 2 146-148.

※5 Price JD, et al. Subjective barriers to prevent wandering of cognitively impaired people (Review). Cochrane Database of Systematic Reviews.2000

西村天

西村天(神経内科医)

医師歴10年目の神経内科専門医、内科医、抗加齢医学専門医。専門は脳神経内科で、日常的に認知症の診療や脳卒中、パーキンソン病などを診療。近年は高齢者の就労支援事業にも携わる。近畿大学卒業後、大阪や東京都内の大学病院や地域中核病院に勤務。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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