2021年5月13日
認知症を正しく理解しよう もの忘れとの違いは?
- 目次
- 認知症は早期発見がカギ
- 認知症とは
- 認知症と加齢によるもの忘れの自覚の違い
- 主な認知症の種類
- アルツハイマー型認知症が疑われる症状
- 軽度認知障害(MCI)とは
- 治る認知症もある
- 認知症を取り巻く状況
- 認知症やもの忘れを予防するために
- まとめ
認知症は早期発見がカギ
人は、年を取ってくると若い時と比べて記憶力が低下し、もの覚えやもの忘れがひどいと自覚することはよくあることです。しかし、加齢による単なるもの忘れと病気である認知症では日常生活への影響に違いがあり、認知症は早期発見が重要です。なぜなら、認知症は早期発見することで症状の進行を遅らせたり、症状を改善させることが期待できるからです。
もの忘れを単なる年のせいで済ませるのではなく、認知症ともの忘れの違いを正しく理解しておきましょう。
認知症とは
加齢により記憶力の低下が起こると、日常生活の中で人の名前が思い出せないことや買い物に行って必要なものを買い忘れるなどのもの忘れはよくあることです。これらは、病気ではなく加齢による生理的な機能低下であり誰にでもみられます。
一方で、認知症は脳の細胞がダメージを受けることによって、記憶や判断力の障害が起こる病気です。認知症は、脳へのダメージを与える原因によっていくつかの種類があり、認知症の進行の仕方や症状の特徴に違いがありますが、いずれの場合も日常生活や社会生活、対人関係への支障をきたすようになります。
認知症と加齢によるもの忘れの自覚の違い
認知症と加齢による物忘れは、似ているようでも注意深く観察すると大きく違うところがあります。たとえば、朝に何を食べたか思い出すのに時間がかかるのが加齢によるもの忘れです。
加齢による認知症は朝ごはんを食べたことは覚えているので、ヒントがあれば思い出すことも可能で、何を食べたのかを教えてもらうと「ああ、そうだった」というような反応があります。ところが、認知症による物忘れでは食事をした行為自体を忘れてしまっているため、答えを言われても腑に落ちません。
また、加齢による物忘れでは「最近物忘れがひどい」などと自覚がありますが、認知症では自分に物忘れがあるということを自覚できないことが多く、そのことを指摘すると否定したり怒りだしたりすることがあります。このようなことから、認知症は本人よりも周囲の人が注意をしてあげないと早期発見が難しい疾患であると言えます。
主な認知症の種類
認知症のうち最も多いものは、「アルツハイマー型認知症」です。アルツハイマー型認知症は脳に異常なタンパク質が蓄積することによって起こり、主な症状は記憶障害です。そのほか、段取りが上手く立てられないため料理に時間がかかる、電化製品が使えなくなる、気候に見合った服が選べなくなるなどの症状が見られます。これらの症状は、数年をかけて徐々に進行し、広範囲の症状を呈するのが特徴です。
次に多く見られる認知症は「脳血管性認知症」と呼ばれるものです。これは、脳梗塞や脳出血などの脳血管性疾患によって、脳の細胞に酸素や栄養を送ることができなくなり、その結果脳神経に障害を来すことで認知症の症状が出現します。記憶障害のほか、言語障害、歩行障害などの運動障害が出現しやすいのが特徴で、これらの症状はアルツハイマー型認知症に比べると急激に出現します。また、脳血管性認知症は脳血管障害を起こすたびに、段階的に症状の悪化が見られ、認知症の症状は脳の障害部位によってまだらに出現するのが特徴的です。
レビー小体型認知症は、通常は見えないものが見える幻視や妄想、うつ症状、睡眠時に異常な行動をするなど精神症状が出現します。そのほか、筋肉のこわばり、運動障害などパーキンソン症状を呈するなど、もの忘れ以外に特徴的な症状が出現します。
ほかにも、自分勝手な行動や同じ行動を繰り返すなどの性格変化や社会性の欠如が現れる前頭側頭型認知症など、認知症といってもその原因によってさまざまな種類があります。
アルツハイマー型認知症が疑われる症状
認知症のうち約68%を占めるアルツハイマー型認知症の初期症状は、記憶障害の悪化や、他の認知能力に明らかな変化が見られることです。
- 自宅の近所やいつも行っている馴染みのあるところで迷子になる
- 料理の味付けが変わる
- 家事や日常的な作業に時間がかかるようになる
- 物をなくすことが増える
- 通常片付けるような場所ではないところに物をしまい込む
- 性格や人格が変わる
認知症の初期の段階では、何らかの認知症の症状を有していても、自立した日常生活を送ることが可能であり、当事者本人がそれほど不自由に感じていないことが多く、認知症の発見が遅れることがあります。このようなことが見られれば、年のせいだろうと軽視せず、アルツハイマー型認知症を疑いかかりつけ医や専門医の診断を受けることをおすすめします。
軽度認知障害(MCI)とは
アルツハイマー型認知症は長い時間をかけで徐々に進行し、その前段階として軽度認知症(MCI)と呼ばれる状態があります。軽度認知障害(MCI)は正常な状態と認知症になる中間の状態とされており、物忘れは見られるものの、日常生活への支障はなく自立した生活が送れている状態です。
しかし、軽度認知障害(MCI)はそのまま何もしなければ年間10~30%の人が認知症に移行するとされており、注意が必要な状態です。その一方で認知症を発症せず正常なレベルに回復する人もおり、5年後に38.5%が正常化したとされる報告もあります。
アルツハイマー型認知症になってしまうと治療をすることは困難ですが、軽度認知障害(MCI)では回復することも期待できるため、軽度認知障害(MCI)の状態にいち早く気付き、認知症への移行を予防する対策を実施することが重要となります。そのためには、本人だけでなく家族や周囲の人が異変に気付けるように、普段からいろいろな人と接する機会を持っておくようにすることは大事なことです。
治る認知症もある
認知症は脳に異常を来すことで起こる病気で、脳に異常なタンパク質が蓄積することで起こるアルツハイマー型認知症は、現在は有効な治療法がありません。しかし、中には認知症の症状の出現の原因となっているものと病気を治療することで治る認知症もあります。
たとえば、正常圧水頭症は脳に髄液が貯留することで脳を圧迫し、認知症の症状を呈することあります。また、転倒などで頭をぶつけたりすると慢性硬膜下血腫と呼ばれる、頭蓋骨と脳の隙間にある硬膜下という部位に血液が貯留する状態になることがあります。これらの病気では、脳が圧迫され認知症の症状を呈しますが、脳を圧迫している原因を取り除くことで認知症の症状も改善します。
そのほか、脳腫瘍や、甲状腺機能低下症、栄養障害、薬物やアルコールが原因の認知症でも原因となっているものを治療や改善することで、認知症の症状を焼失させることができます。したがって、認知症かもと思うような症状に気が付いた時には放置せず、すぐに受診するようにしましょう。
認知症を取り巻く状況
「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 九州大学 二宮教授) によると65歳以上の高齢者のうち、認知症高齢者は2025年には約700万人となり、65歳以上の人口の5人に1人は認知症高齢者となると推計されています。つまり、認知症は決して他人事ではなく自分の家族や自分自身も認知症になるリスクが高いということです。そのため、認知症の予防に努めるだけでなく、認知症になった場合には早期発見し適切に対処していく必要があるのです。
認知症やもの忘れを予防するために
治療法のない認知症は予防していくことが重要です。糖尿病や高脂血症などの生活習慣病と認知症の発症を関連づける研究はたくさん報告されており、生活習慣病の予防が認知症予防の第一歩となります。
日頃より、適度な運動を行う習慣をつけましょう。認知症の予防には週に3回以上、1日30分以上の運動を行うようにします。運動は有酸素運動が効果的であり、ウォーキングやストレッチ、スイミング、ヨガなど自分が興味のあるものを選び継続できるようにします。
また、食生活では体内の塩分の排出を促し、高血圧を防ぐ食事療法としてアメリカで成果を上げている「DASH食」の摂取が推奨されます。すなわち、緑黄色野菜や果物、低脂肪の乳製品、魚、大豆製品、海藻などを多く摂取し、逆に肉類や脂肪分の摂取を減らすようにします。
脳の血流量を増加させるためには、2つの動作を同時に行うデュアルタスクと呼ばれる動作が効果的です。たとえば、歩きながら歌を歌う、テレビを見ながら話している内容を要約してメモを取るなどは簡単に行うことが可能なデュアルタスクとなります。このほか、人と会って会話をすることやボランティアや趣味活動をすることを通じて他人と積極的にコミュニケーションを取ることも認知症の予防に効果的です。
まとめ
認知症と加齢によるもの忘れはどちらも記憶障害をきたすという特徴がありますが、日常生活における影響は大きく違ってきます。特に、認知症でのもの忘れは出来事自体を忘れてしまうことや、当事者にもの忘れの自覚がないことが特徴的です。そのため、周囲の人が注意深く観察をしていないと認知症であることに気が付かれず時間が経過し、気付いた時にはかなり進行していたということにもなりかねません。
認知症になると根本的な治療方法は確立されておらず、認知症にならないように予防をすることが大事で、日頃から運動や食生活などに留意することや、アルツハイマー型認知症の前段階とも言える軽度認知症(MCI)の段階を早期発見できるようにして、認知症に移行しないように予防に取り組み認知症を発症しないようにしていくことが重要です。
認知症を決して他人事と思わず、自分も認知症になるかもしれないと考え、楽しみながら認知症予防となることを見つけて実行していきましょう。
参考:
認知症の人の将来推計について
https://www.mhlw.go.jp/content/000524702.pdf厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000519620.pdfアルツハイマー病情報サイト
http://adinfo.tri-kobe.org/worldwide-alzheimers-information/symptoms.html認知症ねっと
https://info.ninchisho.net/archives/6912相談e-65.net
https://sodan.e-65.net/basic/ninchisho/