2024年5月21日

要介護状態になるのは、実は低栄養が原因?!

要介護状態になるのは、実は低栄養が原因?!

今まさに家族が介護を必要な状態になりそうで困っている、また自分自身が要介護状態になるリスクを考えて不安になっている、そんな悩みを抱えていませんか。
要介護状態に影響を及ぼすものは何でしょうか。老衰?認知症や脳卒中などの脳の異常や骨折?それらはもちろん要介護の直接的な原因となります。では、前もって気を付けられることはないのでしょうか。日常生活のなかでの病気などの予防としては、食事の内容や運動などが思い浮かぶかもしれません。

そう、食事の内容、特に低栄養と要介護状態は密接に関係しています。

この記事では低栄養について知りつつ、要介護状態にならないようにするための工夫の仕方をご紹介します。

1.そもそも低栄養って?

「低栄養」というと何を思い浮かべますか?食料不足の地域、拒食症など食事を摂っていない状況を連想するかもしれません。
しかし、「低栄養」とは身体に必要な栄養素を十分に摂取出来ていない状態を指すため、十分なカロリーを摂っていても低栄養に陥ることはあります。

身体のエネルギー源の中心である「炭水化物」、筋肉や皮膚そして消化酵素やホルモンをつくる「タンパク質」や「脂質」、身体のバランスを整える「電解質」や「ビタミン」を五大栄養素と言います。これらの一部が不足した状態を低栄養といいます。

このため、特定のビタミンやミネラルが不足している場合に、一見大きな体格の人でも低栄養の状態に陥っているということも決して珍しくはありません。
ビタミンA不足による夜盲症や、カルシウムとビタミンDやK不足による骨粗しょう症などの関係なら耳にしたことがあるかもしれませんね。これらも低栄養の一つといえます。

このように、低栄養に陥る可能性は身近に潜んでいます。

2.低栄養から要介護状態への負のスパイラル

それでは、低栄養が要介護状態に及ぼす影響をご紹介します。
要介護状態に至るまでには「ロコモティブシンドローム(運動器症候群、以下ロコモ)」、「サルコペニア」、「フレイル(虚弱)」などの要因が関係しています。

年齢を重ねるにしたがって運動機能は徐々に低下します。加齢による運動機能の低下や、足腰などの運動機能関連の病気により移動能力が低下した状態を「ロコモ」といいます。

また、低栄養の状態が続くとエネルギー不足による倦怠感や意識がぼんやりする、体重減少などの症状がみられます。そして、筋力が低下し関節を傷めやすくなり、歩くスピードが低下します。最終的には身体的な活動量が減ってしまいます。この状態を「サルコペニア」といいます。

他にも、高齢者は身体的、精神・心理的、社会的な側面などの様々な要因から受けるダメージへの回復力が若年時に比べると低下し、要介護に陥りやすい性質を持っています。要介護状態に陥る前段階を「フレイル」といいます。
「フレイル」に至るまでの重要な要素が「サルコペニア」であり(※1)、また身体的側面でのフレイルがロコモと深く関係しています。(※2)

これらをまとめると、低栄養がキッカケで起きる「サルコペニア」や、加齢に伴う「ロコモ」によって、高齢者は要介護状態の前段階である「フレイル」へと陥る可能性が高いといえます。

実際に、令和4年国民生活基礎調査(※3)では、介護保険制度上で要介護の前段階である「要支援」の主な原因は「関節疾患(19.3%)」、「高齢による衰弱(17.4%)」と報告されています。

また、「フレイル」の状態が続き日常の活動度が低下すると、その影響でさらに食事全体の摂取量が減少し、さらに低栄養になりサルコペニアの状態が悪化し…といった負のスパイラルを引き起こしてしまうこともあります。

このように、低栄養は要介護状態へ陥るリスクの一つであり、悪循環を加速させる因子でもあると言えます。

3.もしかしたら低栄養かも?低栄養チェック

では、低栄養を回避するにはどうしたら良いのでしょう?
今すぐにできるセルフチェックの方法や、健康診断などでチェックしたい項目をご案内します。

まずはセルフチェックの項目です。

立ちくらみがしないか、味の変化がわかりにくくなっていないか、偏食傾向かつ軽い物忘れがないか、などはご自身でも判断がつけやすいかもしれません。
これらは血管内で脱水が起きやすい状況になっていないか、亜鉛などの微量元素が不足していないか、特定のビタミンが不足していないかなどの目安になります。

他には、食事をきちんと3食摂っているか、半年で2~3㎏の体重減少がないか、以前に比べて歩くスピードが遅くなっていないか、などの簡単なチェック項目が厚生労働省のパンフレット「食べて元気にフレイル予防」というパンフレット(※4)にあるのでそちらを参考にしても良いでしょう。

筋肉量の違いもあるので一概には言えませんが、身長と体重を比較したBMI(Body Mass Index=体重/身長²[kg/m²])も低栄養の一つの指標と言えます。BMI22が標準体重で、20未満を低栄養傾向とされています。低栄養傾向だと、標準体重に比べると病気からの回復力が弱い傾向がみられます。

また、血液検査ではナトリウムやカルシウムなどの電解質、ビタミンや鉄分の含有量や、総タンパク質や血中のアルブミン値などでタンパク質の栄養状態を調べてみても良いかもしれません。

4.低栄養になってしまう原因

低栄養に関して、とても気になる調査結果が厚生労働省の統計で見られました。その内容を示しつつ、低栄養になる原因について説明していきます。

20歳以上の成人の各年代において、一番カロリーを摂取しているのはどの年齢層でしょうか。食欲旺盛な20歳代前半…ではなく、実は60歳代です。
厚生労働省の統計では、エネルギー及びたんぱく質摂取量は、男女とも60歳代で最も高い(※5)と報告されています。
また、フレイルや要介護の比率が高い80歳代以上においても、摂取カロリー量自体は炭水化物、タンパク質、脂質ともに他の年代に比較し10%程度しか減少していませんでした。
しかし、BMI値は男女ともに70歳代を機に指定範囲を下回る傾向がみられます。

十分なカロリーをとっているはずなのに、高齢者はなぜ低栄養になってしまうのでしょうか?

加齢とともに、人の身体の中では様々な炎症が起こりやすくなります。炎症とは、通常の身体の中の代謝の過程や日焼けなどの外的なストレスの修復の過程に異常が起きて、望ましい反応が得られないことを指します。
40代、50代と年齢を重ねるほど慢性的な炎症がみられ、身体に変化をきたします。もっともわかりやすい例がシミやシワでしょう。

炎症は、ミネラルなどの微量元素の働きや酵素の働きに影響を及ぼします。その結果、血漿中の鉄や亜鉛などの貯蔵量が減少することが知られています。
これらの栄養素が低下することで貧血や味覚低下などの症状が起きてしまいます。

他にも、加齢によって腸管吸収の変化、咀嚼・嚥下に関する問題、内服薬との相互作用、代謝プロセスの障害(※6)なども起こります。
これらによって栄養素が身体にうまく取り込めなくなってしまいます。

このように、食事で十分に栄養を摂っていても加齢に伴う様々な変化によって低栄養になってしまうのです。

5.低栄養のケア・予防

では、低栄養にならないためにはどうしたら良いのでしょうか。

まずは十分なカロリーでバランスの良い食事を摂ることです。

家庭内でバランスの良い献立を考えるのが難しい場合もあります。

そのような場合は宅食サービスを依頼してみるのも良いでしょう。多くの宅食サービスが管理栄養士監修で、高齢者にも優しい食事メニューになっています。
温かい食事を届けるサービスの他、いつでも自宅で加熱できて長期間の保存が可能な冷凍タイプの宅食もあります。

また、高血圧食や糖尿病食、腎臓食などの制限食への対応をしている宅食サービスもあります。身体に負担をかけずにバランスの良い食事を用意しやすい環境が、年々整えられてきています。

宅食以外でも、補助栄養食品で栄養を補う方法もあります。実際に医療機関で使用されているものも、現在はECサイトで購入できるものも多くあるのでサイト上で検索してみるのも良いでしょう。

先の説明の通り、十分なカロリーやバランスの良い食事を得られても、低栄養になることはあります。
電解質やビタミンなども含めた細かい内容での低栄養を防ぐためには、まずは個人個人の体質を知ることです。
胃の手術をした後の方であればビタミンB12欠乏症が起こりやすいのでその補充が必要です。そのほかにも、基礎疾患で特定の栄養素が吸収されにくい体質があるので、基礎疾患がある場合はチェックをするようにしましょう。また、高齢者の多くは何らかの内服薬を使用していることが多いです。その副作用次第では食事療法の強化やサプリメントの併用をするのが良いでしょう。

また、低栄養の予防には基礎代謝の改善や、筋肉量を増やすことももちろん大切です。高齢者では、有酸素運動・筋力トレーニングに、バランス運動も加えたマルチコンポーネント運動も大切だと言われています。厚生労働省より「高齢者を対象にした運動プログラム」(※7)の案内があるので、そちらもぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。


低栄養と要介護状態について、その原因や予防の方法までをご紹介しました。
高齢者が陥りやすい低栄養についてよく知り、対策を重ねていくことで、介護いらずの健康な身体を保てるようになるといいですね!

<参考文献>

※1 アンチエイジング医学の基礎と臨床 第3版Ⅳ④サルコペニアp426

※2 日本整形外科学会 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト より(https://locomo-joa.jp/locomo)

※3 厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査 Ⅳ介護の状況」より(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/05.pdf)

※4 厚生労働省「食べて元気にフレイル予防」(https://www.mhlw.go.jp/content/000620854.pdf)

※5 厚生労働省「平成29年「国民健康・栄養調査」の結果」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177189_00001.html)

※6 Kristina Norman et.al. Malnutrition in Older Adults—Recent Advances and Remaining Challenges. Nutrients 2021, 13, 2764.(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8399049/pdf/nutrients-13-02764.pdf)

※7 厚生労働省「高齢者を対象とした運動プログラム」(https://www.mhlw.go.jp/content/000656460.pdf)

西村天

西村天(神経内科医)

医師歴10年目の神経内科専門医、内科医、抗加齢医学専門医。専門は脳神経内科で、日常的に認知症の診療や脳卒中、パーキンソン病などを診療。近年は高齢者の就労支援事業にも携わる。近畿大学卒業後、大阪や東京都内の大学病院や地域中核病院に勤務。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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