2024年6月17日

高齢者の見守り事情
高齢の親と離れて暮らす

高齢者の見守り事情<br> 高齢の親と離れて暮らす

1.高齢者の見守りとは

高齢者の見守りとは、離れて暮らす親や独居の高齢者が安全に生活するために、公的サービスや民間サービスを用いて生活をサポートする手段です。高齢者の見守りが必要になった社会的背景として、超高齢社会の到来が挙げられます。

超高齢社会の日本では一人暮らしの高齢者が増加

総人口に占める65歳以上の割合が21%を超えた状態が超高齢社会です。日本は2010年頃に超高齢社会に突入しました。現在も高齢化は進行しており、2022年の高齢化率は29.0%で、およそ3人に1人が高齢者です。高齢化の進行とともに、一人暮らしの高齢者も増加傾向です。65歳以上の高齢者における独居の割合は、2020年には男性15.0%、女性22.1%で、今後も増加すると見込まれています。

出典:

内閣府「令和5年版高齢社会白書(概要版) 第1章 第1節 高齢化の状況」
(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/gaiyou/s1_1.html)

内閣府「令和4年版高齢社会白書(全体版) 第1章 第1節 高齢化の状況(3)
(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/html/zenbun/s1_1_3.html)

一人暮らしの高齢者が抱える課題

一人暮らしの高齢者が病気を発症するケースや、思わぬ事故・事件に巻き込まれるケースは、少なくありません。65歳以上の要介護者について、介護が必要になった理由は「認知症」「脳血管疾患」「骨折・転倒」が多くの割合を占めます。

65歳以上の要介護者等の介護が必要となった主な原因(2022)
認知症 脳血管疾患 骨折・転倒 高齢による衰弱 関節疾患 心疾患 その他・不明・不詳
16.6% 16.1% 13.9% 13.2% 10.2% 5.1% 25.0%
要介護者等の介護が必要になった主な原因(2022年)認知症16.6%、脳血管疾患16.1%、骨折・転倒13.9%、高齢による衰弱13.2%、関節疾患10.2%、心疾患5.1%、その他・不詳・不明25%

認知症は高齢者の7人に1人が発症すると言われており、高齢化が進む現代において大きな社会的課題です。特に一人暮らしの高齢者は、本人や遠方の家族が認知症と気付かず、悪化している恐れがあります。

また、近年は高齢者をねらった「還付金詐欺」や「オレオレ詐欺」といった特殊詐欺の被害が全国で多発している状況です。一人暮らしの高齢者が安心・安全に生活するため、策を講じる必要があります。高齢者の見守りは本人や家族だけの問題ではなく、社会全体で解決すべき課題です。

出典:

厚生労働省「2022年国民生活基礎調査の概況 IV介護の状況」
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/05.pdf)

政府統計の総合窓口「国民生活基礎調査 令和4年国民生活基礎調査 介護」
(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450061&tstat=000001206248&cycle=7&tclass1=000001206252&stat_infid=000040071925&tclass2val=0&metadata=1&data=1)

厚生労働省「認知症施策推進大綱」
(https://www.mhlw.go.jp/content/000522832.pdf)

2.高齢者の見守りがもつ役割

高齢者の見守りは、高齢者本人や家族のみならず、社会全体に良い影響がある活動です。ここからは、高齢者の見守りがもつ役割について、詳しく解説します。

高齢者本人や家族の安心

見守りがもつ役割の1つが、高齢者本人や離れて暮らす家族が安心できることです。見守りサービスが生活の一部になると、身体面や精神面に良い影響をもたらします。

本人に持病があるときや病気を患った経験があるとき、独居には不安がつきものです。病気だけではなく、ちょっとした段差で転倒し骨折に至るケースもあります。生活に見守りを取り入れることで、離れて暮らしていても高齢者の異変に気付けます。万が一のときにも、医療機関や行政機関へつなげられるのが見守りのメリットです。

また、見守りは高齢者の孤立を防ぎ、精神機能を安定させる効果が期待できます。高齢者は、身体機能の低下により外出をおっくうに感じたり、耳が聞こえにくいために会話の機会が減ったりする場合があります。特に一人暮らしの人はコミュニケーションの機会が少なく、1日中誰とも話さなかったという状況もありえるでしょう。

精神機能は、親しい人との離別や他者との交流機会の減少によって悪化します。見守りは、高齢者が他者とコミュニケーションをとる手段の1つです。高齢者が明るい気持ちで日々を過ごすためにも、見守りが大切な役割を果たします。

地域全体の認知症予防につながる

見守り活動の広がりによって、認知症になっても住みやすい地域になります。孤独感や疎外感は認知症を悪化させるため、認知症になっても住み慣れた地域で生活できることは重要です。認知症高齢者とかかわりのある人がゆるやかに見守りを続けることで、本人も安心して生活できます。

ゆるやかな見守りとは、認知症高齢者の隣人や友人が挨拶ついでに様子を見ることや、異変に気付いたら行政の相談窓口などにつなげることを言います。新聞配達員が配達ついでに高齢者宅のポストに郵便物がたまっていないか確認する、なども見守りの1つです。地域によっては、認知症高齢者の見守り活動を活発にするため「認知症サポーター」の養成講座を開いたり、「認知症カフェ」を開催したりしているところもあります。

支えあいネットワークの再構築

見守り活動は、地域の支えあいネットワークの再構築に役立ちます。支えあいネットワークとは、行政や病院が提供するサービスだけではカバーできない課題や困りごとを官民協働で解決しようとする取り組みです。

日常生活の課題とは、毎日の食事や買い物、趣味活動、孤独感への支援などを言います。こうした課題に対しては、民間企業がお弁当を配達する、ボランティアが家事を手伝うといった方法で解決できます。また、隣人や友人が本人と一緒に趣味活動に参加することや、困っている高齢者に声をかけることも支えあい活動です。

地域の支えあいネットワークの図

地域の支えあいネットワークは、支援が必要な人を中心に機能しています。支援が必要な人を「お互いさま」の気持ちで手助けする意識が広がれば、住み慣れた地域が「住み続けられる居場所」になります。

3.高齢者の見守りサービス・ツールの種類

高齢者を見守るための手段は大きく分けて、民間の見守りサービス、公的な見守りサービス、IT機器などを用いた見守りサービスの3つです。ここからは、それぞれの見守りサービスについて、具体例を紹介します。

民間の見守りサービス

高齢者を見守る民間サービスには、宅配型、訪問型、警備会社による複合型の見守りサービスなどの種類があります。宅配型の見守りは、お弁当や食材を家に届けるときに高齢者の安否を確認するサービスで、宅配弁当の会社やスーパーが役割を担っています。食事の準備に不安がある高齢者にとって、配食や買い物代行は心強いサービスです。

訪問型は、郵便局の局員や新聞・牛乳の配達員が、訪問時に安否を確認するサービスです。ガス会社や水道営業所が高齢者宅の検針時に異常を見つけた場合、自治体へ知らせるサービスもあります。また、弁護士・司法書士といった法律の専門家が定期的に連絡を入れる見守りサービスは、認知症高齢者の心強い味方になってくれます。

警備会社による見守りサービスは、緊急通報装置と駆け付けがセットになった複合的なサービスです。警備会社の見守りサービスは、24時間体制で見守れるため、有事の際に対応してほしい方にもおすすめです。

公的な見守りサービス

公的な見守りとして多く利用されているのが、訪問介護や訪問看護、デイサービスといった介護保険のサービスです。介護保険のサービスは週2回など定期的に利用するため、高齢者に異変があった場合にはすぐに気付けるでしょう。

介護保険サービスを利用したいときや、介護認定を受けるべきかわからないときは、地域包括支援センターに相談しましょう。地域包括支援センターは、地域高齢者の困りごとを相談できる窓口です。高齢者の見守りについても情報をもっている可能性があり、必要に応じて関係機関と連携をとってくれます。

なお、公的な見守りサービスは、訪問日時が決まっている場合が多いので、緊急時には向きません。必要に応じて、他の見守りサービスと組み合わせるとより安心できます。

新しい技術を用いた見守りツール

新しい技術を用いた見守りツールには、カメラやセンサーの設置、スマホアプリの利用、IT技術を用いた家電・見守りロボなどがあります。

カメラやセンサーは、高齢者宅に機器を設置し、家族のスマホなどから高齢者の状況を確認できる仕組みです。カメラは高齢者の状況をリアルタイムで見られる安心感がある一方で、監視されているような気がして抵抗感をもつ高齢者もいます。センサーは、湿度・温度・明るさなどで高齢者の状況を確認し、異常があれば家族へ知らせてくれる仕組みなので、抵抗感がありません。

アプリでの見守りは、高齢者が安否確認のボタンを決まった頻度でタップするといった方法で見守りを行います。導入費用を抑えられるメリットがあるため、スマホ操作に慣れている高齢者にはおすすめの方法です。

なお、近年はIT技術を導入した見守りシステムを利用する家庭も増えています。見守りロボも最先端の技術を用いた見守りシステムの1つです。見守りロボはペットのような可愛い見た目が特徴で、センサーやカメラ機能、通話機能などを搭載しています。

その他のIT技術を用いた見守りには、エアコン・冷蔵庫などの家電、電球、電池にセンサーを内蔵し、家族がクラウド上で家電の使用状況を確認できるサービスがあります。インターネットに接続した家電を「IoT家電」や「スマート家電」と呼び、見守り分野でのさらなる活用が期待されています。

4.高齢者の見守りサービス選び方のコツ

見守りサービスは、本人・家族の希望、予算、操作性を考慮して選ぶと失敗しません。サービスによっては、お試し期間を設けているものもあるため、気になるサービスがあれば試してみましょう。ここからは、見守りサービスの選び方について、具体的な事例を交えて紹介します。

日常生活全般に不安がある場合、公的サービス

食事や移動など普段の生活に不安があるときは、介護認定を受け、介護保険サービスを利用するのがおすすめです。訪問介護や通所デイサービスを利用すると、介護・看護・リハビリのプロが本人の様子を確認しながら日常生活をサポートするため、離れて暮らす家族も安心できます。必要に応じて配食サービスなどを併用すると、見守りの頻度が増えます。

生活は自立しつつも持病や物忘れがある場合、民間サービス

普段の生活は自立しつつも、持病や認知症の疑いがある場合、民間サービスの利用を検討しましょう。民間のサービスには、郵便局の見守りや新聞配達時の見守りなど、生活に身近な企業が行っているものがあります。本人の生活スタイルや地域の事情に合わせてサービスを選択してください。より手厚い見守りや緊急時の対応を希望する場合、警備会社が提供する見守りプランなら、万が一の際にも警備会社のスタッフが本人のもとへ駆け付けます。

本人が拒否感を示す場合は、見守りツールの利用

高齢者が見守りに拒否感をもっているときや、普段の生活のほとんどが自立しているときは、見守りツールを利用する方法があります。スマホアプリと連動した人感センサーは、サービスに申し込んだあと自宅に取り付けるだけです。カメラの設置は気になる人でも、センサーなら監視されている気まずさがありません。インターネット環境が整っていれば、IoT家電も便利です。

本人の生活パターンや操作性を加味し、いくつかの見守りサービスやツールを組み合わせて利用するとより安心できるでしょう。

5.まとめ

将来、見守りサービス・ツールで対応できなくなったときは、施設入所も考えられます。施設入所の費用を捻出する方法や、高齢者宅が空き家になったときの対処法など、将来について家族で話し合うのも見守りの一環です。また、夏祭りなどの地域活動に参加することも見守り活動の一部です。地域の町会・老人会・民生委員といった身近な存在は、一人暮らし高齢者を見守る心強い存在になってくれます。本人や周囲の環境に合わせ、無理のない範囲で生活に見守りサービスを取り入れましょう。

西山 繭子

西山 繭子

介護福祉士・社会福祉士・保育士資格を保有。大学で福祉資格を取得後、自治体の福祉窓口における相談業務、介護老人福祉施設の介護士、障害者ヘルパーなどに従事し、地域住民や本人・家族の声に耳を傾ける。ライセンスを活かした正しい知識やケアの方法を広めるべく、現在は福祉と子育て記事の監修やライターとして活動中。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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