家族信託と後⾒制度・遺⾔の違い│併⽤すべきケースとは

家族信託と後⾒制度・遺⾔の違い│併⽤すべきケースとは

家族信託は、財産の管理及び承継先につき、⽣前から死後に渡って指定した効果を⽣じさせる契約です。似た機能を持つものには「成年後⾒」と「遺⾔」があり、信託契約を補完する⽬的で出来るだけ併⽤したいところです。本記事で深掘りする前に、家族信託・成年後⾒制度・遺⾔の各機能の違いを簡潔にまとめてみましょう。

  • 家族信託:財産管理と承継先指定に特化、生前から死後にかけて有効
  • 成年後見制度:生前の財産管理と身上監護に特化、チェック体制がある
  • 遺言:遺言者死亡時の財産の承継先指定に特化、相続人変更等が出来る

1.家族信託と成年後⾒制度の違い

家族信託と成年後⾒制度は、どちらも判断能⼒が低下した⼈の財産を保護する役割を果たします。両者の主な相違点は3つ指摘できますが、契約及び制度の特徴を簡単に整理すると、次のように⾔えます。

  • 家族信託:財産管理に特化し、受託者やチェック体制を柔軟に決められる
  • 成年後⾒制度:財産管理と⾝上監護を⽬的とし、家裁が適任者及び監督⼈を選任する

1-1.⾝上監護義務の有無

成年後⾒制度と家族信託では、⾝上監護義務の有無が異なります。

成年後⾒制度においては、成年被後⾒⼈の⽣活や療養看護に関する事務、いわゆる⾝上監護(または⾝上保護)をする権利及び義務がで課せられています(⺠法第858条)

⼀⽅、家族信託においては、受託者に⾝上監護を義務付ける法律は存在しません。すなわち、家族信託を結ぶだけで、⾃動的に⾝上監護の権限が⽣じるわけではありません。とはいえ、実際は⼦や孫・その他の親戚で話し合い、対応できる⼈が⽣活費⽀払いなどの⾝の回りの世話をするのが⼀般的です。

1-2.財産管理の柔軟性

成年後⾒制度と家族信託では、後⾒⼈の権限による財産管理の柔軟性に違いがあります。

成年後⾒制度では、原則として後⾒⼈による財産管理の権限は全財産に及びますが、善良な管理者の注意義務をもって「維持」するだけに留まります(⺠法第644 条・第869条)。例えば、居住⽤不動産の処分は家庭裁判所の許可が必要で、資産運⽤・資産活⽤といった財産減少に繋がり得る⾏為は⼀切認められません。

⼀⽅、家族信託では受託者による財産管理は、財産を指定しつつ、柔軟に決められます。たとえば、⽼⼈ホーム⼊居に伴う持ち家の売却や、家業を続けるための投資活動・融資の申込みなども、あらかじめ契約しておけば受託者の判断で実施できるのです。

1-3.財産管理者の指定⽅法

成年後⾒制度財産管理者では、財産管理してくれる⼈の指定のやり⽅に違いがあります。

成年後⾒制度を後⾒開始の審判によって利⽤開始する場合、後⾒⼈候補者として名乗り出ることは許されますが、最終的な決定権は家庭裁判所にあります。あらかじめ契約で本⼈⾃ら後⾒⼈を指定する場合でも(=任意後⾒)、家庭裁判所が選任する任意後⾒監督⼈による監督が必ず⾏われることになります。⼀⽅、家族信託の場合は、指定する⼈物と合意できる限り、受託者(管理者)は委託者本⼈の意志で⾃由に決められます。監督⼈を置くかどうかも、当事者で合意できる限り完全に⾃由です。

2.家族信託と成年後⾒制度を併⽤すべき事例

家族信託と成年後⾒制度を併⽤すべきケースとして、⽣前の⽇常⽣活や財産管理について途切れなく・きめ細かいサポートを必要とする場合があります。具体的には、次のような場合です。

2-1.⽣活の⾒守りについて約束したい場合

⽣前について、財産管理だけでなく⽣活⾯での⾒守りで安⼼を得たいときは、成年後⾒制度の併⽤で機能を補完しましょう。信託契約と同時に「任意後⾒契約」を締結し、後⾒⼈と⾝上監護に関する後⾒事務の内容を定めておけば、⼼⾝が不⾃由になった後の⽣活費⽀払い・買い物・各種契約の更新等もきめ細かく⽀援してもらえます。

2-2.信託契約に含めない財産がある場合(⽼後資⾦など)

信託契約には全ての財産を含めることができません。⽼後資⾦として最低限必要な分は。本⼈⾃ら処分できるよう、信託財産から除外する必要があります。⽼後資⾦だけでなく、経営する会社その他の運⽤中の資産(賃貸物件)も、受託者のキャパシティ不⾜等を理由に信託できない場合があるでしょう。こうして家族信託から除外した財産は認知症による凍結リスクにさらされますが、成年後⾒制度の併⽤があれば安⼼です。

3.家族信託と遺⾔の違い

家族信託と遺⾔は、財産の承継先指定のための法律⾏為という点で共通しています。両者の違いは2つ指摘できますが、簡潔には次のように特徴を説明できます。

  • 家族信託:⽣前から死後にかけて効⼒が⽣じる(⼦・孫の死亡時の承継先まで決められる)
  • 遺⾔:遺⾔者の死亡時点の1回に限り効⼒が⽣じる

3-1.効⼒が発⽣する時期

効⼒が発⽣する時期については、家族信託と遺⾔では異なります。

遺⾔は、遺⾔者が亡くなった時点で効⼒が発⽣します(⺠法第985条)。⽣前贈与や認知症発症時の財産管理について指定しても、その部分については無効です。

⼀⽅、家族信託は、契約の締結時から効⼒が発⽣します。信託の終了事由が委託者の死後に⽣じる場合、実質的に遺⾔としての機能も持ちます。信託契約では、⽣前から死後における財産管理を⼀括で指定することが認められるのです。

3-2.⼆次承継先指定の可否

⼆次承継先の指定は遺⾔では不可能ですが、家族信託を利⽤すれば可能です。

法律⾏為としての遺⾔は、遺⾔者本⼈の死亡時のみ効果が発⽣します。遺⾔によって財産を承継した⼈が亡くなった時については、遺⾔者⾃⾝で処分⽅法を決めておくことは不可能です。

⼀⽅、家族信託では、信託の終了事由が委託者の死亡に限定されていないません。終了事由が発⽣しなければ、委託者の死後も効果を持ちます。信託終了時の財産の帰属先をコントロールすれば、委託者⾃⾝の死亡により開始される⼀次相続だけでなく、配偶者や⼦・孫の死亡による⼆次相続時の承継先も決めておけるのです。

4.家族信託と遺⾔を併⽤すべき事例

現実的に全財産を信託できない点を踏まえ、家族信託と遺⾔は原則として併⽤すべきです。信託財産から漏れる分として、⽼後資⾦の他に、受託者の管理スキルに不安がある財産(賃貸物件の⼀部や⾃社の株式等)が挙げられます。特に、信託しない財産の承継について相続⼈変更等の特別な⾏為がしたい場合は、遺⾔でないと要望の実現は不可です。

4-1.信託契約に含めない財産の承継先を指定したい場合

信託財産から除外した財産は、⽣前の予備的な管理者だけでなく、死後の承継先も確定せず宙に浮いたままとなります。前者については成年後⾒制度で解決可能と説明しましたが、後者は遺⾔書で承継先指定しておくことで安⼼を得られます。特に、信託財産からの除外分がある程度まとまった額に及ぶ時は、承継先を指定しないと遺留分トラブル等に発展する恐れがあります。該当するケースでは、遺⾔書の⽤意は不可⽋です。

4-2.⾝分⾏為その他の法定遺⾔事項を必要とする場合

遺⾔書に書けば有効とされる事項(法定遺⾔事項)には、相続⼈変更等の⾝分⾏為や、財産の処分⽅法に関する特殊な⾏為等、家族信託では出来ない⾏為が複数あります。これらを必要とするなら、遺⾔の併⽤は必要不可⽋です。

具体的には、孫など18歳以下の⼈が相続⼈に含まれる場合や、特殊な経緯があり秘密裡に承継先指定をしたい場合が挙げられます。

▼ 法定遺⾔事項の例

  • 遺贈(⺠法第964条)
  • 特別受益の持戻しの免除(⺠法第903条3項)
  • ⼦の認知(⺠法第781条2項)
  • 未成年後⾒⼈の指定、未成年後⾒監督⼈の指定(⺠法839条1項等・第848条)
  • 推定相続⼈の廃除、廃除の取消し(⺠法893条1項・第848条)
  • 相続開始時点での信託設定(信託法3条2項)
  • 相続開始時点での⽣命保険の受取⼈変更(保険法第44条1項)

5.家族信託と遺⾔の優先順位

家族信託と遺⾔を併⽤する場合、どちらが先でも信託契約が優先されます。同⼀の資産について各々で承継先を指定した場合、順番に関わらず、家族信託の指定が有効とされるのです。

5-1.遺⾔書を作成した後、家族信託契約を締結した場合

遺⾔書を作成した後に家族信託契約を締結した場合、家族信託契約が優先して効⼒を持ち、遺⾔が効⼒を持つのは信託契約が抵触しなかった部分のみです。信託契約の内容が相続財産全体に及ぶなら、遺⾔にとって代わります。信託契約によって、その法律⾏為のうち遺⾔の内容と⽭盾する部分について、遺⾔のみなし撤回(⺠法第1023条2号)が⽣じるためです。

5-2.家族信託契約を締結した後、遺⾔書を作成した場合

家族信託契約を締結した後に遺⾔書を作成した場合も、信託契約の効⼒が優先されます。仮に遺⾔で「遺⾔者の財産の⼀切」と指定しても、信託契約にない部分のみ効⼒を持ち、信託契約の補完以上の意味を持つことはありません。信託契約によって信託財産となった部分は、締結した時点で相続財産から離脱するためです。

6.まとめ

家族信託を利⽤して相続対策する時は、成年後⾒制度や遺⾔の併⽤で機能を補完しましょう。⽬的に応じて併⽤パターンを紹介すると、次の通りとなります。

  • ⾝の回りの世話について取り決めたい時:家族信託+成年後⾒制度
  • 信託財産から除外した分について指定したい時:家族信託+成年後⾒制度+遺⾔
  • 上記財産について遺⾔事項を利⽤したい時:家族信託+遺⾔

認知症や相続の備えは、家族信託だけでは完結しません。家族の状況やライフプラン、所有する不動産その他の管理状況に応じて、オーダーメイドで複数の対策を組み合わせる必要があります。個別の対策については、弁護⼠や司法書⼠としっかり打ち合わせると安⼼です。

遠藤 秋乃

遠藤 秋乃(司法書士、行政書士)

大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年~2016年にかけて、司法書士試験・行政書士試験に合格。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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