法定相続情報証明制度と所有不動産記録証明制度

法定相続情報証明制度と所有不動産記録証明制度

2024年(令和6年)4月1日より相続登記が義務化されます。それに伴って相続登記を行う手間を減らすための制度ができました。本コラムではすでに開始されている法定相続情報証明制度とこれからスタートされる所有不動産記録証明制度について解説します。

相続登記義務化についてはこちら

法定相続情報証明制度

法定相続情報証明制度とは、法定相続人に関する情報を一覧図にした「法定相続情報一覧図」の保管を法務局に申し出ることにより、以後5年間、法務局の証明がある法定相続情報一覧図の写しの交付を受けることができるようになる制度です。

【参考】法定相続人とは

民法第900条で定められている相続人となる者。具体的には亡くなった人(被相続人)の配偶者、子供、両親・祖父母などの直系尊属、兄弟姉妹など

法定相続情報証明制度のメリット

1枚の書類で相続関係を証明することができる
相続手続きでは、原則的に相続関係を証明する書類として被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を提出する必要があります(遺言書がない場合)。そのため、相続手続きに係る書類が膨大になってしまうことも珍しくありません。
この制度を利用することにより「法定相続情報一覧図」の一枚で相続関係が証明されるため、相続手続きの際に提出する書類を大幅に減らすことが期待できます。
同時並行での相続手続きが行いやすくなる
相続手続きと一口にいっても、その手続きは下図のように多岐にわたります。そして、それぞれの手続きごとに関係する機関が異なります。
相続手続き 関係する機関
不動産の相続登記 法務局
預貯金の解約・払戻 金融機関
自動車の名義変更 運輸局
証券口座の資産移管 証券会社
相続税申告 税務署
年金手続き 年金事務所

相続手続きにはそれぞれの機関に対して相続関係を証する書類を提出する必要があります。そのため、相続手続きのための書類が1部ずつしかない場合には、それぞれ順番に相続手続きを行わなければならず、これらの手続きを同時に行いたい場合は書類を複数部用意する必要があります。それに対して、「法定相続情報一覧図」の写しは法務局で何枚でも発行することができます。そのため、「預貯金の解約・払戻」と「相続登記」などの手続きを同時並行で行いやすくなります。
また、戸籍謄本は紛失してしまった場合、もう一度有料で取得し直す必要があります。対して、法定相続情報一覧図の写しは無料の再発行が可能であることもメリットの1つであるといえるでしょう。

法定相続情報証明制度を利用するための手続き

様々なメリットがある法定相続情報証明制度ですが、利用するにはどのような手続きを行えばいいのでしょうか。法定相続情報証明制度の手続きについてみていきましょう。

まず、最初は必要な書類を集めましょう。必要な書類は下図の通りです。申立人の本人確認書類以外は市区町村役場で取得できます。

用意する書類
被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
被相続人の住民票の除票(取得できない場合は戸籍の附票)
相続人全員の戸籍謄本/抄本
申立人の本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証・住民票の写しなど)
各相続人の住民票の写し(法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合)

これらの書類が集まったら、法定相続情報一覧図を作成します。法定相続情報一覧図は家系図のように被相続人と相続人の関係を記すものです。法務局に申立書類のみを提出しても法定相続情報一覧図を作成してもらえるわけではなく、申出人が法定相続一覧図を作成する必要があります。
このように聞くとハードルが高いように思えるかもしれませんが、法務局のホームページには作成用テンプレートがあるので、そちらに記入する形での作成ができ、一から作成する必要はありません。
また、法定相続情報一覧図には相続人の住所を記載することができます。記載はあくまでも任意ですが、相続人の住所の記載があると相続手続きの際に相続人の住所を証する書類(住民票の写しなど)を提出する手間が省けることがあるので、記載することを推奨します。
法定相続情報一覧図を作成したら法務局に申立てを行います。申立てを行う法務局はどこでもいいというわけではなく、被相続人の本籍地又は最後の住所地、申出人の住所地、被相続人名義の不動産の所在地を管轄するいずれかの法務局でなければなりません。なお、申立ては郵送による申立ても可能です。また、自身で申立てを行うことが困難な場合は代理人による申請もできます(下記リンクに委任状の様式・記載例があります)

以上の申立てをすると法務局で法定相続情報一覧図の写しの交付を受けられるようになります。なお、法定相続一覧図は5年間保存されるのでこの期間は再交付を受けることが可能です。

法定相続情報一覧図のテンプレートについてはこちら
法務局『主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例』
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000015.html

申立書・再交付の申立書はこちら
法務局『法定相続情報証明制度の具体的な手続について』
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000014.html

【参考】出生から死亡までの戸籍謄本の取得について

日本国籍を持つ者は出生により戸籍に記載され、死亡により除籍されます。
その生涯の間に引越しなどにより別の市区町村に戸籍を移す「転籍」や婚姻により従来の戸籍から離脱する「分籍」が起こると、その分だけ相続時に取得する戸籍が増えることになります。また、転籍や分籍が一切ない場合でも、改正により戸籍が新たにつくられることもあり、その場合でも取得すべき戸籍は増えます。
下図は戸籍の流れの一例です。この場合は計5枚の戸籍謄本などを取得する必要があります。また、A市、B市、C市のそれぞれの戸籍をそれぞれの市役所で取得する必要があります(郵送での取得が可能です)

戸籍の流れの一例

法定相続情報証明制度の注意点

このようにメリットが多い法定相続情報証明制度ですが注意すべき点もあります。

まず、法定相続情報一覧図の発行を申請してもすぐには交付されません。申請後1~2週間はかかるものと見て相続手続きを進めていく必要があります。
次に法定相続情報一覧図の再発行をできるのは申立人のみであり、他の相続人が行うことはできません。
最後に、法定相続情報証明制度はまだ新しい制度であり、対応していない金融機関や証券会社などもあります。これらの機関で相続手続きを行う際には、法定相続情報証明制度に対応しているかを事前に確認することが重要です。

所有不動産記録証明制度

所有不動産記録証明制度とは2021年(令和3年)の不動産登記法の改正により創設された制度です。とはいっても現時点ではまだ実際に利用することはできず、2026年(令和8年)4月までに施行されることとなっています。所有不動産記録証明制度では自身や被相続人が登記名義人になっている不動産の一覧を証明書として取得することができるようになります。これにより相続登記の際に、相続人が相続する不動産を調べる手間を軽減させることや相続人が把握していない不動産の相続登記が未了のままになってしまういわゆる相続登記漏れを防ぐことが期待されています。なお、この証明書は自己所有不動産の一般的な確認方法としての利用も想定されています。

【参考】改正不動産登記法

百十九条の二
何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自らが所有者の登記名義人(これに準ずるものとして法務省令で定めるものを含む。)として記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下この条において「所有不動産記録証明書」という。)の交付を請求することができる。

2 相続人その他一般承継人は、登記官に対し、手数料を納付して、被承継人に係る所有不動産記録証明書の交付を請求することができる。

現行の所有不動産の調べ方

現在、相続する不動産の調査には「固定資産税納税通知書」や「名寄帳」が用いられています。まず、固定資産税納税通知書は地方税の税額や納付時期などを納税者に知らせる文書で毎年4~6月にかけて市役所から郵送されます。その通知書には被相続人が税金を支払う義務のある不動産が記載されているので、所有不動産の調査に利用できます。ただし、非課税となっている不動産はたとえ被相続人が所有していたとしても通知書には記載されません。そのため、通知書のみで所有不動産の調査を行うと相続登記漏れのおそれがあるので注意が必要です。
そこで次は名寄帳を利用します。名寄帳は通知書とは違い、郵送されてくることはないので、自身が市区町村役場で取得する必要があります。なお、名寄帳の名称は役場によっては名称が異なることがあります(「土地家屋課税台帳」「固定資産課税台帳」など)が、記載内容に変わりはありません。名寄帳には非課税となっている不動産も記載されているので、それらの不動産の調査ができます。
ただ、名寄帳は市区町村単位での発行となっているため、記載されているのは発行している自治体の不動産のみです。別荘などの他の市区町村にある不動産は名寄帳には記載されません。

所有不動産記録証明制度との比較

対して、所有不動産記録証明制度では登記簿を基に所有している(登記の所有者の名義人になっている)不動産を記載するので、非課税となっている不動産も記載されると考えられます。また、所有不動産記録証明書は市区町村ではなく、全国の不動産登記簿を管理する法務局で交付されるので被相続人が所有する全国の不動産情報が記載されることになります。

固定資産税が非課税の不動産 記載される不動産の範囲
固定資産税納税通知書 記載されない 発行する市区町村にある不動産
名寄帳 記載される 発行する市区町村にある不動産
所有不動産記録証明制度 記載される 全国の不動産

所有不動産記録証明制度の弱点

ただ、所有不動産記録証明制度にも弱点が指摘されています。所有不動産記録証明制度では所有者の氏名・住所を基に所有不動産を調査するため、調査できる範囲には限界があると考えられています。例えば、結婚して名字が変わった場合や引っ越しして住所が変わった場合、これらの情報が登記簿に反映されていなかったら、所有者の情報と所有している不動産の情報が異なることになってしまうため所有不動産記録証明書に記載されなくなってしまうおそれがあります。また、不動産を使用しているものの、相続登記が未了で所有権の登記名義人が先代のままになっている場合や建物が未登記となっている場合も所有不動産記録証明書に記載されないと考えられます。所有不動産記録証明書を活用するには、氏名変更登記や住所変更登記、先代からの相続登記などを抜かりなく行う必要があるといえるでしょう。

まとめ

以上が2つの証明制度についての解説でした。これらの制度によって戸籍謄本などの書類の収集や被相続人が所有していた不動産の調査といった相続登記の手間を減らすことが期待されています。ただし前述の通り、法定相続情報証明制度を利用するためには被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を用意する必要があり、所有不動産記録証明制度を活用するには氏名や住所、所有者などを現状に合わせる登記を都度行う必要があるなど事前の準備は不可欠であるといえるでしょう。

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『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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