受益者連続信託の活用事例や注意点について解説

受益者連続信託の活用事例や注意点について解説

現在、家族信託は認知症による資産凍結対策として注目されています。しかし、家族信託が果たす機能はそれだけではありません。2007年の信託法の改正により、新しい信託の方法である「受益者連続信託」を行うことが可能となりました。これにより信託、ひいては家族信託の活用の幅が広がりました。本記事では受益者連続信託の概要から活用事例、注意点までを解説します。

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受益者連続信託とは

「受益者連続信託」とは、受益者の有する信託受益権(信託財産より給付を受ける権利)が当該受益者の死亡により、予め指定された者に順次承継される旨の定めのある信託のことです。なお、承継される受益者については第2受益者、第3受益者といいます。

受益者連続信託の活用事例

受益者連続信託の特徴はなんといっても遺言では不可能な2次相続以降の資産の承継者まで指定ができることです。では、この特徴を利用した受益者連続信託の活用事例を見ていきましょう。

ケース1 直系子孫への相続

皆さんの中には先祖代々引き継いできた不動産などの資産を直系の子孫に遺したいと考えている方もいるのではないでしょうか。例えば以下のような事例です。

父親X 先祖から受け継いできた不動産を多数所有する地主
長男A 父親Xと同居している。結婚しているが子供はいない
次男B 県外に住んでおり、父親Xの不動産管理には関わっていない
孫Z 次男Bの子であり、父親Xの孫

父親Xは先祖代々受け継いできた不動産を同居する長男Aに継がせたいと考えています。ただ、長男Aには子供がいないため、将来的には次男Bの子供である孫Zに承継させたいと考えています。この希望を叶えるためには何らかの形で意思表示をしなければなりません。父親Xが意思を残さずにこの世を去った場合には、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)や裁判によって相続分が決められることになります。
被相続人が亡くなった後の資産の承継先を指定する方法としては遺言がよく知られています。しかし、遺言でできる資産承継先の指定は一代限りとなっています。たとえ父親Xが「所有する不動産の全てを長男Aに相続させる。長男Aの死後は孫Zに相続させる」という遺言をしたとしても「長男Aの死後は孫Zに相続させる」の部分は無効となります。遺言によって父親Xの希望を叶えるには長男Aが「父親Xからの受け継いだ不動産を孫Zに相続させる」旨の遺言を作成する必要があります。
長男Aが遺言を作成しなかった場合、先祖代々受け継いできた不動産は長男Aの配偶者である妻へ相続される可能性があります。さらに妻が亡くなると、妻の両親や兄弟姉妹、甥や姪が法定相続人となります。そのため、先祖代々受け継いできた不動産が妻の親族へと引き継がれてしまうおそれがあるのです。

このような事態は受益者連続信託を活用することにより防ぐことができます。

  • 委託者:父親X
  • 受託者:長男A
  • 受益者:父親X
  • 第2受益者:長男A
  • 第3受益者:孫Z
  • 信託財産:不動産 金銭(不動産の管理に必要な金銭)

父親Xと長男Aとの間で信託契約を締結し、当初の受益者は父親Xとします。そして、父親Xの死後は第2受益者である長男Aが受益権を承継し、長男Aの死後は第3受益者である孫Zが受益権を承継すると定めます。この方法により父親Xの希望通りの資産承継が可能となります。ただし、この受益者連続信託では注意すべきポイントがあります(詳細は後述します)
なお、受益者には赤ちゃんや胎児、孫Zの子供など未誕生の子を指定する事も可能です。ただし、税務関係が複雑になるおそれがあるため、家族信託に精通した税理士などに相談することを推奨します。

ケース2 親亡き後問題への対策

皆さんは親亡き後問題という言葉は聞いたことがあるでしょうか。親亡き後問題とは障がい等により自活な困難である子において、生活を支えている親が亡くなった後の子の生活に生じる様々な問題の総称です。他にも認知症等の発症により自活できなくなった夫(妻)の生活を支えていた配偶者が先に亡くなったために生じる「配偶者亡き後問題」もあります。

親亡き後問題では遺される家族の生活費となる資産を遺すことが重要です。しかし、それと同じくらい資産管理をどのように行うかを考えておくことも重要となります。この問題においても家族信託を活用することが可能です。

父親X 次男Bの生活を支えている
長男A 父親Aの近くに住み、たまに次男Bの介護などを行っている
次男B 障がいにより自活が困難
孫C 成人している長男Aの娘

父親Xは障がいのために生活支援が必要な次男Bと同居して生活を支えていましたが、最近は自身の衰えも感じ始めています。父親Xには資産があるため、次男Bの生活資金に問題はありませんが、父親Xが次男Bの面倒を見ることができなくなったときの次男Bの生活について心配しています。この場合は長男Aが次男Bの生活を支えることが考えられますが、長男Aが次男Bより先に亡くなってしまった場合、やはり次男Bは生活の保障を失うことになります。

  • 委託者:父親X
  • 受託者:長男A
  • 第2受託者:孫C
  • 受益者:父親X
  • 第2受益者:次男B
  • 信託財産: 金銭(父親X及び次男Bの生活資金)
  • 信託の終了事由:父親X及び次男Bの死亡
  • 残余財産の帰属先:長男A(信託終了時に長男Aが亡くなっていた場合は孫C)

父親Xと長男Aとの間で信託契約を締結します。初めは父親Xを受益者にして、老後の生活を助け、父親X亡き後は次男Bを受益者にして、信託財産は引き続き長男Aが管理します。また、長男Aが次男Bより先に死亡・認知症の発症等により受託者の任務を果たすことが困難になった場合に備え「第2受託者 Aの娘C」などと指名しておくこともできます(もちろんCの承諾が必要です)自活が困難な家族に代わって、受託者が財産管理を行う仕組みを遺すことができる点も受益者連続信託のメリットのひとつといえるでしょう

受益者連続信託の注意点

様々な場面で活用ができる受益者連続信託ですが、注意しないと希望通りの家族信託ができなくなるおそれがあります。最後は受益者連続信託の注意点について説明します。

30年間の期間制限がある

受益者連続信託では受益者の交代の回数には制限はありません。ただし、信託の期間には制限があります。具体的には受益者の交代は家族信託が開始されてから30年を経過した後は1回限りとされています(信託法第91条)

受益者を父親として始めた信託の例

少しわかりにくいので図を用いて説明します。受益者を父親として始めた信託ですが、開始してから30年経過後は子が受益者となっていました。その後に子が亡くなり、孫が受益者になると、交代はこの1回に限られます。たとえ信託契約において次の受益者(ひ孫など)が定められていても、孫が死亡した時点で信託は強制的に終了します。ただし、信託契約で信託終了後に残った資産(残余財産)の帰属権利者をひ孫と定めておけば、ひ孫に資産を承継させることができます。そのため、実質的には家族信託を開始してから30年が経過した後は2世代先までの資産承継者を指定できるといえるでしょう。

信託の終了事由がある

家族信託には当事者の予期しない形で終了してしまう事由があります。その中の一つに「受託者と受益者が同一である状態が1年間以上継続した場合」が挙げられます。
信託は所有権を管理処分権限と財産権(信託財産から生じる経済的利益を受け取る権利)に分離し、管理処分権限を受託者に、財産権を受益者に分ける仕組みとなっています。
そのため、受託者と受益者が同一の状態では通常の所有権と何ら変わりなく、信託の意味がなくなってしまうのです。

家族信託の一般的な型である自益信託ではこの事由に該当することはあまり考えられません。しかし、受益者連続信託では受益者を交代するタイミングに注意が必要となります。
前述の活用ケース1では「受託者:長男A 受益者:父親X 第2受益者:長男A 第3受益者:孫Z」となっています。問題は父親Xが亡くなり、受益者が長男Aになると「受託者:長男A 受益者:長男A」となってしまうことです。この状態が1年間継続すると孫Zが受益者となる前に家族信託が強制的に終了してしまいます。こういった事態を防ぐ方法としては、長男Aが受益者となるタイミングで受託者を交代させる、法人を受託者とするなどが挙げられます。
なお、「受託者A 受益者A B」といった場合には受託者と受益者は同一ではないと判断されます。ただし反対に「受託者A B 受益者A」の場合は受託者=受益者とみなされるので注意が必要です。

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遺留分への配慮が必要

受益者連続信託を行ったからといって自由に資産の承継先の指定ができるわけではありません。被相続人の配偶者、子供、直系尊属(父母、祖父母等)にあたる法定相続人には、最低限相続できる遺産である遺留分が確保されています。現在、信託財産は遺留分の対象となるという考え方が一般的となっています。そのため、遺留分を侵害するような資産承継の指定を行った場合には、遺留分侵害額請求によって、希望通りの資産承継の指定ができなくなるおそれがあります。相続人全員の納得と同意のもとで家族信託を始める、または遺産を相続させたい人に対して、遺留分侵害額の支払い備えて相当の財産を確保できるようにしておくなどの対策により、このような事態を予防しておくことが大切でしょう。
なお、相続人は遺留分侵害額請求を起こす権利「遺留分侵害額請求権」を持っているだけで、遺留分を侵害していても、当該相続人が遺留分侵害額請求を起こさなければ、家族信託で指定した通りの資産承継は可能で、信託契約自体も委託者と受託者の同意のみで締結することができます。しかしながら、不要なトラブルや争族を避けるためにも、家族全員の同意があることが望ましいのは言うまでもありません

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まとめ

以上が受益者連続信託の説明でした。確かに受益者連続信託は数世代にわたる資産承継先の指定ができるという大きなメリットがあります。しかし、逆にいえば家族を何十年もの間信託契約で拘束させることにもなります。受益者連続信託を検討する際には、家族としっかり話し合い、場合によっては法律や税務の専門家に相談しながら、慎重に進めていくことが重要であるといえるでしょう。

家族信託の相談窓口

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『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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