信託内借入とは? 手続きの流れから注意点までを解説!

信託内借入とは? 手続きの流れから注意点までを解説!

家族信託の仕組みを利用して、アパート経営を家族に任せる方法があります。アパート経営では、金融機関の融資を受けなければならない場面が多いでしょう。家族信託に関連して借入する場合、「信託内借入」という方法が利用できます。
本記事では、信託内借入について説明します。手続きの流れや注意点、信託外借入との違いを理解しておきましょう。

信託内借入とは

「信託内借入」とは、家族信託の受託者が信託契約で与えられた権限にもとづき金銭の借入を行うことです。信託内借入は、主に家族信託によりアパート経営などの不動産活用を行う場面で利用されます。まずは、信託内借入の意味やメリットを知っておきましょう。

家族信託で行うアパート経営とは

高齢者がアパートなどの収益不動産を所有している場合、家族信託を活用するとメリットがあります。不動産の所有者が認知症になり意思能力を欠いてしまうと、契約等の手続き一切ができなくなってしまいます。家族信託を設定すれば、アパートの管理を親族に引き継ぐ手続きがスムーズです。

※ 家族信託は所有者が認知症等で意思能力を欠いてしまうと取り組めません。

ところで、アパート経営をしていると、リフォームや建て替えのための費用が必要になることがあります。所有している土地に新しくアパートを建てたい場合にも、建築資金が必要でしょう。資金調達のために、融資を受けなければならない場面は多いはずです。

家族信託で不動産活用のために融資を受ける際、利用できる方法の1つが信託内借入です。信託内借入の場合、受託者が債務者となって金融機関から借入します。借入した資金は信託財産に組み込まれ、返済も信託口口座から行います。信託内借入すれば、すべてを信託の枠内におさめることができます。

信託内借入を行うには借入権限の付与が必要

信託内借入をする際には、受託者自らが金融機関と融資の交渉をします。ただし、家族信託を設定していれば、必ず信託内借入ができるわけではありません。信託内借入を行うには、信託契約で受託者に借入権限が与えられている必要があります。

金融機関では、信託契約書を見て受託者にどこまでの権限が与えられているのかを確認します。信託契約で受託者に借入権限が付与されていなければ、金融機関は受託者には貸付してくれません。

信託内借入ができない場合、委託者が融資を受ける方法があります。この場合には信託の仕組みからは離れた借入となるので、「信託外借入」と呼ばれます。信託外借入で借りたお金は信託財産には組み込まれません。返済も委託者名義の口座から行います。

信託内借入のメリット

家族信託でアパート経営を行うなら、受託者に借入権限を付与し、信託内借入を可能にしておくのがおすすめです。特に、委託者が高齢の場合には、委託者自らが融資を受けるのは困難なことがあります。信託内借入ができれば、資金調達がしやすくなるでしょう。

高齢者の財産管理のために、家族信託以外に、成年後見制度を利用する方法もあります。成年後見制度では、成年後見人が本人の代理人として融資を受けることはできません。家族信託なら、信託内借入により受託者が融資を受けることも可能です。不動産活用を行う場合には、家族信託を設定したうえで、信託内借入を可能にしておくとよいでしょう。

信託内借入の手続きの流れ

信託内借入をしてアパート建築をする場合、借入からアパート建築、返済までを受託者名義で一貫して行うことができます。

ここからは、所有している土地を信託財産として新たに家族信託を設定し、信託内借入で資金調達してアパートを建てる場合の一般的な流れを説明します。

  1. 1. 信託契約の締結
    委託者と受託者との間で、土地を信託財産とする信託契約を結び、信託契約書を作成します。信託契約書には、受託者の権限として「信託不動産の管理・処分に関して金融機関から借入を行うこと」等と記載しておきましょう。
  2. 2. 信託口口座の開設・信託の登記
    信託契約にもとづき、金融機関で信託口口座を開設します。信託口口座とは、信託契約にもとづき、受託者が信託された金銭を管理するための口座です。「委託者〇〇受託者□□信託口」等の名義になります。
    なお、金融機関によっては信託口口座が作れません。この場合にも信託財産は受託者の財産と分別して管理しなければならないため、信託専用口座を開設します。
    アパート建築予定の土地については、法務局で登記を行う必要があります。委託者から受託者への所有権移転登記と信託登記の2つの登記申請手続きをします。
  3. 3. アパート建築資金の借入
    受託者は信託契約で付与された借入権限にもとづき、金融機関からアパート建築資金を借入します。受託者を債務者として金融機関との間で金銭消費貸借契約を締結し、土地を担保に入れて抵当権設定契約を結びます。
  4. 4. アパート建築
    受託者は金融機関から借入した資金を使ってアパートを建築します。工事完了後、建物を追加信託します。建物も融資の担保に入れる場合には、金融機関と追加抵当権設定契約を結び、抵当権設定登記を行います。
  5. 5. アパート経営・借入金の返済
    アパート経営で得られる賃料収入は、信託口口座で管理します。借入金の返済は、信託口口座から行います。賃料収入から借入金の返済や経費の支払いを行った後に残った収益は、受益者に帰属します。

信託内借入の注意点

信託内借入をすれば、受託者名義で借入し、借入金を信託財産に組み込めます。アパートの建設、修繕、管理などをすべて受託者名義で行うことができるので、手続き的にもスムーズです。ただし、信託内借入には注意しておかなければならない点もあります。

信託内借入ができる金融機関は少ない

家族信託が利用されるようになったのは比較的最近のことです。そのため、金融機関によっては、信託口口座の開設や家族信託に関連した融資に未対応のところもあります。信託内借入に対応してくれる金融機関は、現状ではあまり多くありません。

信託内借入に対応してもらえる金融機関でも、審査が厳しくなったり、担保や保証人を追加で求められたりすることがあります。受託者を債務者にした借入が可能でも、委託者兼受益者の連帯保証が必要になる可能性があります。

受託者には無限責任がある

受託者が家族信託に関連して負担する債務は、原則として無限責任となります。信託財産から債務を返済できない場合、受託者は自らの財産を使って返済を行わければなりません。

アパート経営が順調にいかなかった場合、家賃収入から借入金の返済ができなくなる可能性があります。この場合でも、受託者は自分固有の財産から返済する義務があることに注意しておきましょう。

信託契約書に受託者の借入権限を明記しておく

信託内借入を利用したい場合、信託契約書に借入権限を明記しておかなければなりません。法律上は、契約書に明記していなくても、借入が信託の目的達成のために必要な行為なら認められます。しかし、契約書に記載していなければ、金融機関で受け付けてもらえないでしょう。信託契約書作成時から気を付けておく必要があります。

委託者兼受益者死亡時の相続税に注意

信託内借入を行った場合、委託者兼受益者死亡時の相続税申告で債務控除が適用できない可能性があります。債務控除とは、相続税の計算の際、遺産の総額から被相続人の債務を差し引くことができる制度です。債務控除ができれば、相続税を軽減できます。

信託内借入の債務者は受託者なので、債務控除をそのまま適用できません。特に、委託者兼受益者の死亡により終了する一代限りの信託では、債務控除はできないという見解があります。一方、一次受益者死亡後の二次受益者を定めている受益者連続型信託の場合には、債務控除ができると考えられています。

債務控除の適用可否については、明確な判断がなされているわけではありません。相続税対策のために家族信託を考えている場合、債務控除ができなければその意味も薄れてしまいます。信託内借入を行う場合にも、専門家に相談しながら検討するのがおすすめです。

信託外借入との比較

信託外借入とは、家族信託の枠組み以外で行う借入です。信託外借入の債務者は委託者で、借入した資金は信託財産と紐づいていません。返済も委託者個人が行います。ここからは信託外借入の概要について説明しますので、両者の違いを知っておきましょう。

信託外借入では委託者が債務者

信託外借入の場合、委託者自らが金融機関と融資の交渉をします。融資を受ける際には委託者が債務者となり、金融機関との間で金銭消費貸借契約を結びます。なお、契約締結には意思能力が必要なので、委託者が認知症により意志能力が著しく低下していると借入はできません。

信託外借入で借入した資金は信託財産とはならず、委託者の財産となります。委託者は借入金を使って自らアパート建築等を行いますが、工事請負契約は委託者名義で締結します。借入金を返済するときにも、委託者の財産から支払います。

借入金で建設したアパートは完成後に追加信託する

信託財産である土地にアパートを建築する場合、信託外借入でアパート建築資金を調達する方法もあります。この場合、アパートは完成後に信託財産に追加されます。アパート完成後は、受託者は土地、建物の両方を管理します。

なお、アパートを追加信託した後も、借入金は委託者の債務として残ります。家賃収入は信託財産となるため、そのままでは委託者は家賃収入を返済に充てることができません。家賃収入を使って返済を行うには、信託口口座から委託者の口座に信託配当として随時送金する仕組みを作っておく必要があります。

委託者兼受益者死亡時の借入金の取り扱い

信託外借入では、委託者兼受益者死亡時の借入金の取り扱いも、信託内借入と異なります。借入金は信託とは紐づいていないので、借入金債務は通常どおり法定相続人に法定相続分に応じて相続されます。信託外借入の場合、相続税申告時には債務控除が可能です。

信託外借入の場合、受益権を引き継ぐ人と債務を引き継ぐ人が一致しないことがあります。受益権を引き継ぐ人が債務も引き継ぐ形にしたいなら、別途債務引受の手続きが必要です。

まとめ

家族信託に関連して融資を受ける場合、信託内借入と信託外借入の2つの方法があります。信託内借入をすれば、資金調達を含めた手続きをすべて受託者名義で行うことが可能です。信託内借入にも注意しておかなければならない点はあります。家族信託で借入が必要な場合、信託内借入にするか信託外借入にするかは、専門家に相談しながら決めましょう。

森本 由紀

森本 由紀(行政書士、ファイナンシャルプランナー)

行政書士ゆらこ事務所代表。大学卒業後、複数の法律事務所に勤務してパラリーガルの経験を積んだ後、2012年に行政書士として独立。離婚や相続など身近に起こる問題をサポート。各種サイトでの法律記事・マネー記事の執筆や監修も担当。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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