遺留分対策はお早めに!方法や注意点を解説

遺留分対策はお早めに!方法や注意点を解説

財産を遺す者である「被相続人」は遺言などにより、遺産の承継先を指定することができます。皆様の中には配偶者や長男など特定の相続人のみに相続させたい、つまり特定の相続人には相続させたくないといった要望をお持ちの方もいると思います。しかし、その要望は必ずしも100%叶えられるとは限りません。被相続人の配偶者、子供、直系尊属(父母、祖父母等)にあたる法定相続人には、最低限相続できる遺産が法律上、確保されています。この確保されている遺産を遺留分といい、遺言などにより遺留分を侵害されている相続人は遺留分侵害額請求(※)を起こして、遺留分を取り戻すことができます遺留分は遺言によっても奪うことができない相続分なのです。では、被相続人の望む遺産相続をできる限り実現するためにはどうすればよいのでしょうか。本コラムでは被相続人の視点から遺留分対策について解説していきます。

※ 令和元年6月30日以前に発生した相続における手続きは遺留分減殺請求となります
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遺留分対策の大別

まず、遺留分対策を大別すると「遺留分侵害額請求を起こさせない」ことと「遺留分の額を減らす」ことになります。

遺留分侵害額請求を起こさせない

勘違いしてはいけないのが、必ずしも「遺留分を侵害するような遺言を残してはいけない」ということではないということです。たとえ遺留分を侵害するような遺言(例:妻に遺産の全てを相続させる)でも問題にならない場合があります。というのも相続人は遺留分侵害額請求を起こす権利「遺留分侵害額請求権」を持っているだけで、遺留分を侵害していても、当該相続人が遺留分侵害額請求を起こさなければ、被相続人の意思通りの遺産分割をすることができるのです。まずは遺留分侵害額請求を起こさせない対策を検討してみましょう。

遺留分侵害額請求を起こさないようにお願いする

まず、一番簡単な対策としては、相続人に遺留分侵害額請求をしないようにお願いをしておくことが挙げられます。遺留分侵害額請求を起こすことが予想される推定相続人※に直接伝えることが一番手っ取り早いですが、推定相続人に連絡を取ることができない場合には、遺言に付言する方法でお願いすることもできます。具体的には遺留分よりも少ない相続分になってしまった理由や家族で円満な相続をしてほしい旨を遺言に付言します。なお、このお願いには法的拘束力は一切なく、あくまでも相続人の感情に訴えかけるだけのものです。そのため、これを受けて遺留分侵害額請求をするかどうかは相続人の判断にゆだねられています。

※ 推定相続人
現時点で相続が発生した場合に相続人になることが推定される人物。実際に相続が発生したら法定相続人となる。

遺留分を放棄してもらう

相続の発生前には相続放棄をすることはできませんが、遺留分を放棄することはできます。
そこで推定相続人に遺留分を放棄してもらうことも遺留分対策の一つになります。生前における遺留分の放棄には家庭裁判所の許可が必要となります。なお、推定相続人に遺留分の放棄を強制することはできません。「遺留分の放棄が推定相続人の自由意思によって行われたものであること」が、家庭裁判所が許可を出す要件となっているからです。また、「推定相続人への充分な代償が行われていること」も要件となっているため、推定相続人になにも代償せずに遺留分を放棄させることはできません。なお、以前に借金の肩代わりをするなどすでに遺留分と同等の代償を行っている場合は、改めて贈与などで代償を行う必要はありません。

遺留分の額を減らす

上記の方法で遺留分侵害額請求を回避できない場合、遺留分の額を少しでも減らすことが遺留分対策となります。ここでは3つの方法を見ていきましょう。

遺産総額を減らす

当たり前のことですが、遺産総額が減れば遺留分の額も減少します。被相続人自らが生前に財産を使うことが一番手っ取り早いですが、当然に遺産も減ってしまうことになります。そこで相続させたい推定相続人に生前贈与をすることで遺産総額を減らすことが考えられます。ただし、「被相続人の死亡前10年間」に行われた推定相続人への生前贈与は遺留分侵害額請求の対象となります。生前贈与による遺留分対策は早めに行わないと無意味なものとなるのです。

推定相続人を増やす(養子縁組)

次は推定相続人が増やす方法です。推定相続人が増えれば、一人当たりの法定相続分が減るので結果として、遺留分の額も減少することとなります。具体例を見てみましょう。

父親X 推定相続人は母親Y、長男A、次男B
母親Y 父親Xの配偶者
長男A 父親Xの近くに住み、老後の世話を甲斐甲斐しく行っている
次男B 10年以上前に家出し、父親Xとは疎遠である
孫C 長男Aの子供
遺産総額 6000万円

父親Xは母親Yと長男Aにのみ遺産を相続させ、疎遠になっている次男Bには相続させたくないと考えている。しかし、次男Bには、6000万円×四分の一(法定相続分)×二分の一(遺留分)=750万円の遺留分があります。そこで長男Aの子供である孫Cを父親Xの養子とします。すると、推定相続人が増えることにより、次男Bの法定相続分が減ることになります。結果としては、次男Bの遺留分は6000万円×六分の一(法定相続分)×二分の一(遺留分)=500万円と減額します。
ただし、養子縁組には「実際に養親子関係を形成する意思」が必要なため、ただ単に遺留分を減らすためだけに行った養子縁組は無効となる可能性が高いため注意が必要です。

生命保険を活用する

最後に生命保険を活用した遺留分対策について説明します。
例えば、父親自らが保険料を支払い、父親の死亡時に長男が死亡保険金を受け取るという契約をしたとしましょう。一見すると、父親の死亡をきっかけに長男が保険金を受け取るので、保険金は相続財産であるようにも見えますが、法律上(判例上)は保険金の受取人自身の固有の財産とみなされます。従って、死亡保険金は遺産分割協議や遺留分の対象とはならず、保険金に対して遺留分侵害額請求をすることも原則できません。
なお、税務上の取扱いは異なるため注意が必要です。相続税法上においては、死亡保険金は「みなし相続財産」とされ、相続税の課税対象となります。

※ 「みなし相続財産」とは、法律上の相続財産ではないが、相続税の計算上は相続財産とする財産のことで、死亡保険金と死亡退職金が代表的なみなし相続財産です。なお、被保険者と契約者(保険料の支払者)、保険金受取人が誰かによって、課税される税金の種別が変わってきます。

では、この仕組みを利用した遺留分対策の方法について実例を用いて解説します。

父親X すでに妻には先立たれている。子供はAとBの2人。
長男A 父親Xの近くに住み、老後の世話を甲斐甲斐しく行っている。
次男B 父親Xとは疎遠であり、連絡があるのは金の無心をするときだけである。
遺産総額 4000万円

父親Xは自分の遺産を全て長男Aに相続させたいと考えて、遺言でその意思を残したとします。しかし、このままでは次男Bに遺留分侵害額請求を起こされてしまいます。ちなみに額は4000万円×二分の一(法定相続分)×二分の一(遺留分)=1000万円です。

そこで父親Xが自身を被保険者として掛け金1000万円の死亡保険に加入します。この時点で父親Xの遺産総額は1000万減って3000万円になります。なお、ここで重要な点は死亡保険金の受取人を長男Aとすることです。その後、父親Xが亡くなると、長男Aに死亡保険金として1000万円が支払われます。前述の通り、死亡保険金は遺留分侵害額請求の対象外です。すると、次男Bの遺留分は3000万×二分の一×二分の一=750万となります。また、長男Aには保険金が入るので、遺留分侵害額請求に対する金銭の支払いも容易になります。

このように生命保険を活用することにより、遺留分を減額することが可能となります。

【注意】死亡保険金と特別受益
死亡保険金は遺産分割協議や遺留分の対象とはなりません。しかし、特別受益には注意が必要です。特別受益とは、ある特定の相続人が被相続人から生前贈与や遺贈などによって得た利益のことをいいます。そして、この特別受益が遺留分を侵害していた場合には、相続人は遺留分侵害額請求を起こすことができます。問題は死亡保険金が特別受益にあたるかどうかですが、判例では原則、死亡保険金は特別受益にあたらないとされています。しかし、死亡保険金が遺産と比較して多大なために、相続人間に看過できない不公平を招くような場合には特別受益にあたると考えられています。実際に死亡保険金が特別受益とされた判例も出ています(東京高裁平成17年10月27日決定・名古屋高裁平成18年3月27日決定)
死亡保険金が特別受益と認められるかどうかは、遺産価額に占める死亡保険金の割合の他、同居の有無や被相続人への貢献度などを総合的に勘案して判断されます。そのため、「遺産価額の何%までなら特別受益には当たらない」といった基準を設けることはできませんが、遺産価額遺産のほとんどを死亡保険金に変えて、特定の相続人には極力渡さないようにするといったことは不可能であると考えていいでしょう。

【注意】死亡保険金と相続税
死亡保険金は、法律上(判例上)は遺産総額に含められませんが、相続税法上は遺産総額に含まれる「みなし相続財産」です。つまり、死亡保険金には相続税が課税されます。ただし、死亡保険金のうち「法定相続人の人数×500万円」に相当する額は非課税となる定めがあるため、それを超えた額が課税対象となります。

なお、死亡保険金は被保険者、契約者(保険料を負担する者)、保険金受取人が誰かによってかかる税金の種類が異なってきます。死亡保険金が相続税の課税対象となるケースは、下記の①のパターンです。

死亡保険金の課税関係(例)
被保険者 契約者(保険料負担) 保険金受取人 保険金受取人に課税される税金の種類
父親 父親 相続税
父親 所得税
父親 母親 贈与税

遺留分対策の究極の手段・相続廃除

ここまで様々な遺留分対策を説明しました。しかし、上記の方法では満足できない、特定の推定相続人には絶対に一銭の財産も遺したくない。このような場合には究極の方法として「相続廃除」が考えられます。

相続廃除とは
相続廃除とは相続人としての地位を奪うことです。相続人の地位を奪われると法定相続分はもちろんのこと、遺留分を主張することもできなくなります。
相続廃除できる条件
相続人として地位を奪うという相続廃除はとても厳しいものといえるでしょう。
そのため相続廃除は被相続人といえども自由に行うことはできず、厳格な条件が設けられています(民法892条)

遺留分を有する推定相続人が

  • 被相続人に対して虐待をする
  • 被相続人に対して重大な侮辱を加える
  • 著しい非行を行う

これらの場合に限られます。ただ単に被相続人と相続人が不仲である、疎遠であるといった場合には相続廃除は認められません。相続廃除には「相続人としての地位を奪われてもやむを得ない」事情が必要なのです。

相続廃除の方法
相続廃除は家庭裁判所に申し立てを行い、審判を受けることにより行われます。なお、申し立てには被相続人の生前に行う「生前廃除」と遺言に相続廃除の意向を残しておく「遺言排除」があります。

家族信託は遺留分対策となるか

家族信託とは、財産を持っている人(委託者)が、信託契約や遺言などによって、信頼できる家族(受託者)に対し不動産・現金等の財産(信託財産)を託し、一定の目的(信託目的)に沿って、特定の人(受益者)のために、受託者がその財産を管理・処分する家族間の財産管理制度です。

家族信託は財産管理の手法ですが、資産承継的な側面もあります。家族信託では信託契約において、信託財産(信託受益権)の承継先を指定することができます。そこで問題になるのが「信託契約の内容が特定の推定相続人の遺留分を侵害するものであった場合、遺留分侵害額請求ができるのか」ということです。信託財産が遺留分の対象となるかどうかは学説でも意見が分かれるところでしたが、現在では信託財産は遺留分の対象になるという考えが主流です。平成30年に出された判例においても「遺留分侵害額請求を回避する目的で行われた信託契約は公序良俗に反して無効である」とされました。

確かに家族信託は遺留分対策にはならないと考えられます。しかし、皆様の中には「財産を残したくないわけではない。ただ、相続人が遺産を管理できずに散財してしまうのではないか心配だ」といった方もいるのではないでしょうか。このような場合、家族信託を活用して相続人による遺産の散財を防ぐことができます。具体例を見ていきましょう。

父親X すでに妻には先立たれている。子供はAとBの2人。アパートオーナー。
長男A まじめな性格。父親Xのアパート管理をサポートしている。
次男B 浪費癖があるが父親Xと不仲ではない。アパート管理にはノータッチ。
遺産 現金2000万円
賃貸不動産2棟

父親Xは自身が亡くなった後、長男Aと次男Bに現金1000万円ずつと賃貸不動産を1棟ずつ相続させたいと考えていました。しかし、父親Xには以下の不安があります。

  • 浪費癖のある次男Bが遺産である現金を散財してしまうのでないか
  • 賃貸不動産を相続したところで次男Bに管理ができるのか
  • 金や管理に困った次男Bが安定した収入を得られる賃貸不動産を売却(さらに売却代金を散財)してしまうのでないか

そこで以下のような家族信託の活用が考えられます。

  • 委託者:父親X
  • 受託者:長男A
  • 第1受益者:父親X
  • 第2受益者:次男B
  • 信託の終期:父親X及び次男Bが死亡したとき

当初は父親Xを受益者としますが、父親Xが亡き後は次男Bを受益者とします。ポイントは受託者である長男Aが信託財産である現金や賃貸不動産を管理できるという点です。まず、現金は日々の生活に必要な金銭を定期給付する形で相続させることにより散財を防ぐことができます。また、賃貸不動産は長男Aが管理しつつ、家賃収入は次男Bに渡すことができます。さらに信託財産となった賃貸不動産は受託者である長男Aへの形式的な移転が行われます。そのため、父Xの死亡後も名義自体は長男Aとなっているため、次男Bが長男Aの承諾を得ずに賃貸不動産を売却する、さらには売却代金を散財するといったことはできなくなります。
このような家族信託により、父親Xの不安は解消できるのです。

遺留分対策や相続廃除を考えるまではいかないが、財産管理に不安のある相続人がいるといった場合には家族信託も検討に値するでしょう。

まとめ

以上が遺留分対策の説明です。そもそも遺留分には被相続人の財産を生活の糧としていた相続人を保護する役割があります。例えば、被相続人が遺言により、配偶者である相続人が居住している自宅を含む全財産を愛人などの第三者に遺贈する旨を遺していたらどうでしょうか。そして、それが実現してしまったら配偶者は路頭に迷うことになります。このような事態を防ぐためにも、遺留分自体は必要なものであると考えられます。ただ、遺留分が被相続人の希望通りの遺産相続への足かせになってしまう場合もあるため、対策が必要となるわけです。
なお、本記事で紹介した対策は相続が発生する間際、すなわち亡くなる寸前までできると思われがちですが、必ずしもそうではありません。認知症などにより意思能力を喪失するとこれらの対策を行うことはほぼ不可能となります。自分の財産であるにも関わらず、なんの意思も残せないままこの世を去ることになるおそれがあるのです。
自分の希望通りの遺産相続を実現するためには、早めに自分の希望をしっかりと考え、対策を講じることが重要と言えるでしょう。

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『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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