同性婚・事実婚で出来ないことから考える家族信託のメリット

同性婚・事実婚で出来ないことから考える家族信託のメリット

日本の現行制度では、同性婚や事実婚だと将来が心配です。相続法等による保護がないせいで「互いに財産を管理・承継し合う」といった当たり前のことが出来ません。子どもを持つ、公的給付を受ける等と言った面でも制約があり、遺産の分散や生活困窮のリスクにさらされています。

同性婚、事実婚のカップルは、法律上どのように扱われるのでしょうか。適用されない制度の後、家族信託を使った備えとそのメリットについて解説します。

1.同性婚とは

日本では同性婚が認められておらず、制度化される時期も未定です。厳密には、法律上の結婚により「ひとつの戸籍に入ること」が出来ないと言えます。代替としてパートナーシップ制度が始まっていますが、上記に関して異性間での結婚と同じ扱いにするものではありません。

1-1.同性婚を巡る日本の現状

日本の結婚制度は憲法及び民法で定められています。憲法第24条1項では婚姻の成立は「両性」の合意に基づくとされており、民法の規定もこれに従うため、同性間で婚姻届を出しても受理されません。

この問題について動きがないわけではありません。例えば、札幌地裁では現行制度が法の下の平等に反する判断されました(令和3年3月17日)。衆議院予算委員会でも、法制局参事から同性婚の法制化は可能(令和3年2月25日/第三分科会)との発言が出ています。

1-2.パートナーシップ制度の特徴と注意点

国が同性婚を認めるのに先駆けて、東京を含む全国255の自治体でパートナーシップ制度が始まっています(出典:(c)渋谷区・認定NPO法人虹色ダイバーシティ/令和4年12月31日時点)。パートナーシップ制度とは、婚姻と同じ状態にあるふたりからの宣誓・届出を市区町村役場で受け付け、その証明書を交付する制度です。制度を使えば、公営住宅の申込みや勤務先・生命保険会社等での手続きの際、配偶者として扱ってもらえます。しかし、戸籍をひとつにして国と法律で関係を認める効果はありません。

2.事実婚とは

両性の結婚のかたちとして、法律上の結婚をしない「事実婚」があります。この場合も、ふたりが同じ戸籍に入ることはありません。夫婦いずれかの姓の変更が必要ない点や、それぞれ個人として自律的に生活する意識を持てる点がメリットです。

2-1.事実婚の定義

事実婚とは、婚姻届を提出していない状態で、夫婦同様の関係を築いて共同生活を送る状態です。何らかの公共サービスを受ける際は「同一の住所を有し、生計を一にしていること」等と定義されます。法律上の夫婦ではありませんが、事実婚カップルの間では法的に「婚姻に準ずる関係」があるとされ、慰謝料や財産分与等の一定の権利義務が発生する場合も多々あります。

2-2.事実婚と内縁関係の違い

事実婚と内縁関係に実質的な違いはなく、どちらも婚姻届を提出していない事実上の配偶関係を指す言葉です。あくまでも一般的な用語として、事実婚は積極的に婚姻届を出さない選択をした状態をさし、内縁には何らかの理由で消極的に届出しないといったニュアンスを持ちます。

3.同性婚・事実婚ではできないこと

同性婚・事実婚の状態だと、相続や公的給付で著しい制限を受けます。
前提として、戸籍が別々にあるということは、法律を適用する時に証明すべき身分関係が生じていません。身分関係がないということは、特に「相手の代わりに財産を管理する」「遺産を取得する」といった当たり前のことが出来ないのです。

3-1.法定相続・遺産分割協議への参加

戸籍上の関係に沿って権利義務を発生させる仕組み上、同性婚・事実婚のカップルは互いに相続権がありません。権利が無い以上、被相続人の血縁者らと遺産分割協議することも不可能です。相続財産を取得できないことが理由でパートナーが困窮するリスクを回避するには、遺言を作成しておかなくてはなりません。

3-2.遺留分の請求

同性婚・事実婚のカップルが遺言しない場合、遺産は全て被相続人の血縁者に渡り、残されたパートナーが取得できる財産はゼロになるのが原則です。相続権がないということは、遺留分と呼ばれる最低限の権利も当然主張できないからです。

3-3.法定後見制度の利用

同性婚・事実婚カップルは、互いに法定後見制度の申立人になれません。家族が有する申立人の資格につき、戸籍上の関係が生じている配偶者や四親等内の親族に制限されているためです。健康上の理由で判断能力が低下することがあるとすれば、上記制度による保護が遅れ、大黒柱の資産が事実上凍結して困窮する可能性があります。

3-4.所得税・相続税の負担

同性婚・事実婚によるパートナーは、健康保険や厚生年金の被扶養者として扱われません。双方が単身者扱いであり、社会保険料の負担が多数派のカップルに比べて増加します。所得税及び相続税でも同じく、配偶者控除や障害者控除の適用がない状態で課税されます。

3-5.実の子の嫡出推定

事実婚やレズビアンカップルの一方が出産した場合、自動的にパートナーの子として取り扱う規定(民法第772条)の適用がありません。生まれた子と両親との間に扶養関係及び相続関係を発生させるには、認知・養子縁組が必要です。

3-6.特別養子縁組

特別養子縁組をしたくても、同性婚・事実婚カップルには不可能です。法律上の配偶者の存在(民法第817条の3)との条件をクリアできず、条件の易しい普通養子縁組を選択する他ありません。後者だと養子と実親との関係が断てず、特に海外で代理出産するケースでトラブルが懸念されます。

3-7.遺族年金・遺族補償の受給

遺族年金や犯罪被害者等に対する遺族給付金は、事実上の婚姻関係であると認めてもらえる場合を除き、受給できません。上記受給資格について、事実婚であれば証拠資料の提出によって望みがあります。しかし同性婚になると、ほとんど認められる可能性がないのが現状です。実際、令和2年6月4日には、同性のパートナーの遺族給付金申請が認められなかったことにつき、原告の請求を名古屋地裁が棄却する例がありました。

4.同性婚・事実婚と家族信託

同性婚・事実婚ができないことのうち、財産の管理・承継に関しては家族信託で機能を補えます。一方が所有財産についてパートナーに管理等を委託し、委託者が亡くなった後の財産の帰属先を決めておける仕組みです。

信託契約の内容は、家族の形や希望に沿ってフレキシブルに決定できます。ここで紹介するのは、一般的な家族と同じく「将来何かあった時に夫婦で支え合う」「パートナーから子へと財産を譲る」といったことが叶う契約のモデルです。

▼ 家族信託(福祉型信託)のモデル例

  • 委託者:A
  • 受託者:B(Aの事実上の配偶者)、予備的にAとBの子
  • 受益者:A
  • 信託財産:自宅、老後資金等
  • 信託期間:Aが死亡するまで
  • 残余財産の帰属先:B、Bが既に死亡している場合は子

▼ 仕組み

カップルが両方とも元気なうちは、話し合って生活資金を拠出できます。Aの信託財産は、健康上の不安が生じても自動的にBが管理を引き継ぎ、A・Bらの居宅確保にも支障は出ません。ふたりの財産は、相続権を通じてAやBの兄弟姉妹に分散することなく、認知や養子縁組でもうけた子に受け継がれます。

5.同性婚・事実婚で家族信託を活用するメリット

法律上の関係にない同性婚・事実婚のカップルにとって、家族信託は財産面で互いを支え合う仕組みを形成できる数少ない手段です。具体的なメリットとして、次のようなものが挙げられます。

5-1.認知症や重度後遺症の備えになる

家族信託のメリットは、認知症や後遺症の影響で同性婚・事実婚カップルの一方の判断能力が低下した時、タイムラグなく財産管理や各種手続きを引き継げる点です。本人の預金から施設入居費や介護費用を支出するといった必要最低限の手配から、住宅の管理・維持まで、速やかにパートナー名義で実施できます。

5-2.財産承継先を思い通りに設計できる

家族信託による受益者や残余財産帰属先の設定は、遺言と同じ機能を果たします。さらに言えば、信託契約にあって遺言にない機能として、カップル亡き後の遺産の承継先も定められる点が挙げられます。ふたりの関係に理解のある身内や支援団体等、任意の人・団体が最終的に財産を承継するものとする契約も可能です。

5-3.たすき掛け信託で家族の支え合いを実現できる

同性婚・事実婚カップルが家族信託を設定する場合、相手を受託者等とする契約をそれぞれしておくと良いでしょう。パートナー関係にあるものとして当たり前に、いざという時の財産面でのサポートと承継が出来るようになります。

6.まとめ

同性婚や事実婚のカップルは、法律上の身分関係に基づく相続権がなく、子どもとの関係や公的給付の面でも不遇です。一方の死後には、財産が血縁者側に分散してしまうかもしれません。認知症の発症時には自分達だけだと法定後見制度を申し立てられず、収入が多い方の資産が凍結して生活に困窮するリスクがあります。

上記のような財産面での将来の不安は、家族信託で解消できます。たすき掛けのように互いに受託者とすれば、家族として当たり前の支え合いが実現するでしょう。

▼ 同性婚・事実婚で家族信託を活用するメリット

  • 認知症や重度後遺症と診断された時、後見制度がなくても財産管理を引き継げる
  • 遺産を意図しない相手(血縁者等)に渡すことなく、家族に承継してもらえる
遠藤 秋乃

遠藤 秋乃(司法書士、行政書士)

大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年~2016年にかけて、司法書士試験・行政書士試験に合格。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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