空き家と家族信託について

空き家と家族信託について

現在、日本では空き家が深刻な社会問題になっていることはご存じでしょうか。平成30年の調査では日本全国には約849万戸の空き家があるとされています(※)。日本の総住宅数は約6,241万戸であり、空き家が占める割合は約13.6%(過去最高)となっています。
本コラムでは、空き家の問題点や家族信託でできる空き家対策について解説します。

【参照】総務省『平成30年住宅・土地統計調査』

空き家の定義と種類

「空き家」と聞くと誰も住んでいない廃墟のような建物を想像される方もいるかもしれません。しかし、国土交通省では普段住んでいる人がいない住宅のうち「一時現在者のみの住宅」と「建築中の住宅」を除いた住宅を空き家と定義しています。そのため、別荘なども定義的には空き家となります。このように空き家と一口に言っても様々な種類があり、詳細は下図の通りになっています。

国土交通省『空き家の現状と論点』より引用

一時現在者のみの住宅

昼間だけ使用している、何人かの人が交代で寝泊まりしているなど、そこにふだん居住している者が一人もいない住宅

空き家

  • 二次的住宅
    • 別荘
      週末や休暇時に避暑・避寒・保養などの目的で使用される住宅で、ふだんは人が住んでいない住宅
    • その他
      ふだん住んでいる住宅とは別に、残業で遅くなったときに寝泊まりするなど、たまに寝泊まりしている人がいる住宅
  • 賃貸用の住宅
    新築・中古を問わず、賃貸のために空き家になっている住宅
  • 売却用の住宅
    新築・中古を問わず、売却のために空き家になっている住宅
  • その他の住宅
    上記以外の人が住んでいない住宅で、例えば、転勤・入院などのため居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅など(空き家の区分の判断が困難な住宅を含む)

建築中の住宅

住宅として建築中のもので、棟上げは終わっているが、戸締まりができるまでにはなっていないもの

国土交通省『空き家の現状と論点』より引用

空き家の問題点

勘違いしてはいけないのは、すべての空き家が問題になるわけではないということです。空き家が問題になるか否かは、空き家が適切に管理されているかが重要なポイントとなります。たとえ、住宅が空き家になっていたとしても、所有者等による十分な管理がなされていれば問題が起こることはあまりないと考えられます。例えば、別荘などは所有者による管理がある程度期待できるため、問題が生ずる可能性は低いでしょう。逆に賃貸又は売却の予定がなく、別荘等でもない住宅、上記の種類でいうところの 「その他の住宅」 は、特に管理が不十分になりやすい傾向にあります

では、空き家の管理が不十分だとどのような問題が生ずるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

安全上の問題

管理が不十分な空き家では建物の劣化が放置されることになります。結果、屋根が落下したり、外壁が崩落するなどの可能性がある危険な建物になってしまいます。また、これらの建物の破損により、他人に損害を与えてしまった場合、所有者には莫大な損害賠償金を支払う責任が課せられるおそれがあります

【参考】損害賠償額の試算

火災による隣家全焼・死亡事故
空き家の火災により隣家家屋の全焼や死亡事故をもたらした場合
(74歳・69歳の夫婦が死亡)
物件損害:1,315万円
人身損害:5,060万円
合計6,375万円
倒壊による隣家全壊・死亡事故
空き家の倒壊により隣家家屋の全壊や死亡事故をもたらした場合
(40歳・36歳の夫婦及び8歳の女児が死亡)
物件損害:1,500万円
人身損害:1億9,360万円
合計2億860万円
外壁材等の落下
劣化した外壁材等が落下し、通行人にあたり死亡させた場合
(11歳の男児が死亡)
物件損害:0円
人身損害:5,630万円
合計5,630万円

【参照】公益財団法人日本住宅総合センター
『空き家発生による外部不経済の実態損害額の試算に係る調査』※ あくまでも試算であり、実際の損害賠償額とは異なる場合があります。

防犯上の問題

人の目が届きにくくなる空き家は様々な犯罪の舞台となってしまう可能性があります。

不法投棄
放置され劣化が進んだ結果、人目につかなくなった空き家は不法投棄の恰好の場になってしまうおそれがあります。不法投棄はエスカレートしやすく、最初の1人が投棄したゴミが放置されていると、他の人も次々と不法投棄するようになり、空き家の所有者が気づいたころには手の施しようがないということも珍しくありません。
また、放置されたゴミは異臭を放ったり、害虫や害獣を引き寄せるなど衛生面の問題も起こします。なお、害虫などにより近所の方に損害を与えてしまった場合は所有者として責任を負う可能性があります
放火
令和2年、全国で34,941件の火災が発生しました。そして、そのうちの11.7%にあたる4,052件が「放火」及び「放火の疑い」が原因で発生しています(※)放火されやすい家には、ポストにチラシがたまっているなど人の気配がない、他人が敷地内に簡単に入ることができるなどの共通点があります。管理が不十分な空き家は該当する可能性が高いといえるのではないでしょうか。また、不法投棄されたゴミに放火される可能性も考えられます。
【参照】消防庁「令和2年(1~12 月)における火災の状況(確定値)について」
不法侵入
人目につかない空き家では、勝手に他人が住み着くなど不法侵入の被害にあうおそれもあります。なかには空き家となった実家を放置していたために見知らぬ他人が侵入、さらにはその者が空き家にて変死、結果として実家が事故物件になってしまったというケースもあります。

これらが空き家が被害にあいやすい犯罪といえるでしょう。なかには空き家に遺体が遺棄されていた、空き家で大麻栽培がおこなわれていたなどの悪質な犯罪に巻き込まれたケースも発生しています

空き家対策としての家族信託

家族信託とは、財産を持っている人(委託者)が、信託契約や遺言などによって、信頼できる家族(受託者)に不動産・現金等の財産(信託財産)を託し、一定の目的(信託目的)に沿って、特定の人(受益者)のために、受託者がその財産を管理・処分する家族間の財産管理制度です。

家族信託の仕組みに関する詳細はこちら

空き家対策に家族信託が有効な理由

家族信託は空き家対策になるといわれています。注意すべきポイントはここでいう空き家対策とは「問題のある空き家となることを未然に防止する」ということです。
では、所有不動産が問題のある空き家になってしまう事例を取り上げ、家族信託でどのような対策ができるのかを見ていきましょう。

事例:認知症等による資産凍結対策

母親X 数年前に夫を亡くし、家を相続した
息子A 母親Xの一人息子

母親Xは数年前に夫を亡くし、自宅を相続しました。その後は自宅にて一人暮らしをしていましたが、つい最近、軽度の認知症を発症しました。一人で暮らすことも不安になり、施設へ入居することにしたため、実家は空き家となりました。息子Aは遠方に家庭をもっており、実家に戻る予定はありません。そこで息子Aは実家を売却しようとしました。自身が空き家となった実家を管理する手間が省け、売却代金は母親Xの介護費用や生活費に充てることができ、一石二鳥と考えたためです。しかし、買主探しに難航、ようやく売却の目途が立ったころには、母親Xの認知症はかなり進行していました。結局、その後の診断において母親Xには自宅の売却を判断する能力がないとされて、家を売却することは困難になってしまいました(※)

※ 売買契約などの法律行為を行う際に、当事者に判断能力(意思能力)が無かったときは法律行為が無効になることが民法に定められています。また、このような場合でも息子Aが母親Xの代理人として売買契約を締結することはできません。

では、家族信託を利用してこのような事態を防ぐ方法を説明します。
まずは母親Xが元気なうちに下記のような信託契約を締結します。

  • 委託者兼受益者:母親X
  • 受託者:息子A
  • 信託財産:実家・現金(母親Xの老後の資金や自宅の管理費用)

信託契約を締結することにより、家の所有者は(形式的に)息子Aになります。そのため、自宅の売却は息子Aが母親Xの健康状態に左右されずに行うことができます。このような方法により、自宅の売却が滞る原因の一つを防ぐことができ、ひいては実家が問題のある空き家となることを防ぐことができると考えられます。また、母親Xの健康状態を理由に自宅の売却手続きを急いで行わなければならないといったこともなくなります。受託者である息子Aが熟考したうえで自宅売却の手続きを進めることができるのも、家族信託に取り組むメリットの一つといえるのではないでしょうか。

まとめ

以上が空き家と家族信託についてでした。近年では所有する空き家の管理責任について、規制が厳格になってきました。2015年には空家等対策の推進に関する特別措置法(空家対策特措法)が施行されました。この法律において、空家等の所有者や管理者は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないように空家等の適切な管理に努めるものとされました。
また、下図に該当する空き家は自治体(市町村)の立ち入り調査を経て、「特定空家等」に指定される可能性があります。

特定空家等の要件(空家対策特措法第2条2項)

  • 著しく保安上の危険となるおそれのある状態
  • 衛生上有害となるとなるおそれのある状態
  • 著しく景観を損なっている状態
  • その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態にある空家等

特定空家等に指定されると自治体から助言や指導を受けます。しかし、それでも改善しない場合は勧告、さらには命令が発せられます。そして、命令にも従わなかった場合は行政代執行による空家等の除去が行われます。

なお、空家対策特措法には自治体の立ち入り調査を拒んだ場合には20万円以下、命令に従わなかった場合には50万円以下の過料が規定されています。他にも勧告を受けると固定資産税や都市計画税の優遇措置である「住宅用地の特例」が受けられなくなりますし、行政代執行に掛かった費用は所有者に請求されます。

【参考】固定資産税・都市計画税における「住宅用地の特例」

空き家が建っている土地に関しては住宅用地の特例があります。
固定資産税・都市計画税のそれぞれに下図の通り、課税標準額(固定資産税・都市計画税の計算の基礎となる評価額)に減額措置がとられています

固定資産税 都市計画税
小規模住宅用地
(200㎡までの部分)
評価額×1/6 評価額×1/3
一般住宅用地
(200㎡を超える部分)
評価額×1/3 評価額×2/3

空き家を解体すると当該土地が住宅用地ではなくなるため特例の適用が無くなり、固定資産税等が大幅に上がることから、空き家が取り壊されずに放置される原因の一つとなっているともいわれます。ただし前述の通り、特定空家等に指定されて、その後に勧告を受けてしまうと、勧告を受けた翌年から優遇措置は受けられなくなります。

空き家の問題は現在空き家を所有している方だけのものではありません。自身や家族の生活の変化、相続によって実家や自宅等が空き家になってしまう可能性があるのです。将来的に空き家になることを防ぐ対策や空き家になってしまった場合の対策を考えておくことが重要といえるでしょう。

家族信託の相談窓口

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『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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