2024年7月29日
夫婦に認められる贈与・相続における配偶者控除とは
贈与税と相続税には、夫婦だけに認められた「配偶者控除」という制度があります。
この制度を利用すれば、税金を安く抑えられるため積極的に活用したいところです。
生前であれば、贈与税で認められる配偶者控除をうまく利用し、死後は相続にて認められる配偶者控除を利用することで、税負担を大幅に軽減させられます。
しかし、個々の状況によっては制度利用が必ずしも功を奏すわけではありません。
それぞれの制度概要を知り、正しく理解した上で利用を検討しましょう。
今回は、夫婦に認められる贈与・相続における配偶者控除についてご説明します。
民法上に認められる夫婦について
まず、配偶者控除を利用するには、法律上の夫婦である必要があります。
民法上に認められている夫婦とは、男女の婚姻意思が一致していて、役所に婚姻届を提出している夫婦を指します。この条件を満たしている場合に限り、配偶者関係が成り立ち、今回ご紹介する贈与・相続における配偶者控除制度の利用が可能となります。
一方で、内縁関係や、いわゆる「パートナー」については、夫婦として認められていません。
たとえば、男女が同じ屋根の下で同棲している内妻(内夫)、同性同士でパートナーシップ制度(同性同士の結婚に相当する関係を証する制度)を利用している、というだけでは民法上に認められた夫婦には該当せず、配偶者関係は成り立ちません。
贈与税で認められる配偶者控除について
贈与税の配偶者控除は、結婚して20年以上の夫婦に適用される減税措置です。
この制度は、マイホームの所有権やマイホーム購入資金を夫婦間で贈与する際、2,000万円までの贈与であれば贈与税が非課税となります。さらに、年間110万円の贈与税控除もあるため、制度利用した年に限り、最大2,110万円まで税金がかかることはありません。
なぜ結婚20年以上の夫婦にこのような制度が認められているかというと、夫婦間の経済的支援を円滑に行うためとされています。特にマイホームの購入は夫婦にとって大きな経済的負担となることから、配偶者控除が設けられた背景があります。
もし配偶者が、マイホームの名義を変更する際に高額な税金が課されるとなれば、多くの人は名義変更や贈与を躊躇してしまいます。このような税負担を避け、安心して夫婦が支援し合えるように配偶者控除が設けられました。
適用条件
贈与税における配偶者控除の適用条件は以下の3つです。
- 1. 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎていること
- 2. 夫婦間で贈与された財産が居住用不動産、もしくは居住用不動産を取得するための金銭であること
- 3. 贈与があった年の翌年3月15日までに、贈与を受けたものが対象不動産に実際に住んでいて、その後も引き続き住む予定になっていること
なお、配偶者控除における居住用不動産とは、居住のための土地、もしくはその土地の上にある家屋を指し、国内にあるものに限ります。
また、配偶者控除は、同じ配偶者からの贈与について一生に一度しか適用されません。
国税庁:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1195.htm
注意点
贈与税における配偶者控除を受ける場合、税務署に贈与税の申告をしなければなりません。
通常、年間110万円以下の贈与は非課税であり申告不要です。そのため税務署に贈与があった事実を申告する必要はありません。しかし、贈与税における配偶者控除を利用したい場合は、たとえ非課税であっても税務署に贈与税の申告が必要になるため注意してください。
もし、贈与税の申告をしていなかった場合、後から無申告課税を課される危険があります。
無申告課税は、50万円までは15%、50万円を超えた部分については20%の割合で加算されるため、2000万円の贈与であれば、400万円近い税金を課されてしまいます。
さらには、納税に対するペナルティとして延滞税が追徴課税されることになります。
最大で14.6%の延滞税を課されるため注意が必要です。
配偶者控除を利用する際は、必要書類を添付し、管轄の税務署に贈与税申告をしましょう。
相続税で認められる配偶者控除について
相続税の配偶者控除(税額の軽減)は、残された夫婦の一方が相続税を納めることができず、相続放棄するしかないといった事態を回避するために設けられた減税措置です。
配偶者控除は、亡くなった方の配偶者が相続する遺産が1億6千万円までであれば相続税が免除され、この額を超えても法定相続分の範囲内であれば税金はかかりません。
法定相続分とは、民法に定められていて、相続人が遺産分割を行う際の基準となるものです。
そして、配偶者が相続する遺産が1億6千万円以内、もしくは法定相続分以内であれば、相続税が課されることはありません。
もし、配偶者控除を利用しなかった場合、必要のない税金を支払う可能性があるため、制度の利用条件や注意点を正確に理解しておきましょう。
適用条件
配偶者控除を適用するためには、以下の3の条件を満たす必要があります。
- 1. 戸籍上の配偶者であること
- 2. 相続税の申告期限までに遺産分割が完了していること
- 3. 相続税の申告書を税務署に提出すること
上記のとおり、配偶者控除を受けるには、戸籍に配偶者として登録されていることが必要です。婚姻期間の長さは関係なく、たとえ結婚して1ヶ月であっても控除の対象になります。
国税庁:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm
注意点
相続税の申告には、亡くなった方の死後10ヶ月以内に遺産分割協議を完了している必要があります。遺産分割協議が未完了の場合、配偶者控除は適用されないので注意です。
また、配偶者控除は相続税の申告書を税務署に提出する必要があります。たとえ適用条件を満たしていたとしても、相続税の申告を省略することはできません。
二次相続のリスクに要注意
相続税の配偶者控除における注意の中で、二次相続のリスクには特に注意が必要です。
というのも、相続税の配偶者控除は、二次相続では適用することができません。
二次相続とは、一度目の相続(一次相続)の後に、一次相続で財産を受け継いだ人が亡くなった際の相続を指します。
通常、一次相続は親が亡くなった場合を指し、配偶者や子どもが財産を相続します。
その後、財産を受け継いだ配偶者が亡くなると、二次相続が発生し、通常は子どもが財産を引き継ぎます。
もし仮に、父が亡くなった際に、母がほとんど遺産を相続し、相続税から免れていたとしましょう。その後、母(配偶者)が亡くなってしまった時には、父から受け継いだ莫大な遺産を子どもだけで相続することになり、配偶者控除は適用されず、多くの相続税を納めることになりかねないのです。
つまり、一次相続時に配偶者控除を利用しすぎることで、二次相続で多くの税金を支払うことになりかねません。この点をよく考慮し、二次相続を見据えた上で、一次相続のうちから制度利用をすべきかについて検討するのが良いでしょう。
不動産における配偶者を守る配偶者居住権について
相続では、夫婦間に認められている優遇措置は税額軽減だけではありません。
その1つが「配偶者居住権」といって、亡くなった方が生前に所有していた住宅に、無償でそのまま住み続けられる権利が生じるというものです。この配偶者居住権は、原則として終身存続することから、亡くなるまで住み続けることが可能となっています。
たとえば、自宅を所有していた夫が亡くなってしまった場合、子どもが自宅を相続するとなると、妻には自宅の所有権がありません。所有権がないのであれば、子どもの裁量次第では自宅に住み続けることができなくなってしまうのです。
しかし、配偶者居住権を行使すれば、たとえ自宅の所有権が子どもにあったとしても、妻はそのまま自宅に住み続けられる、というわけです。
設定条件
配偶者居住権の設定は、以下の方法のいずれかで行われます。
- 1. 遺産分割協議
- 2. 遺言
- 3. 家庭裁判所の審判
設定された配偶者居住権は、登記申請をしなければなりません。登記申請によって、居住権は公的記録に残され、第三者に対しても権利を主張できるようになります。
注意点
配偶者居住権は終身効力が発生する強い権利であるため、財産価値があるとされています。よって、配偶者居住権は相続財産に該当し、相続税が発生するため注意が必要です。
一般的に、建物の相続税評価額から、配偶者居住権の価額を差し引いた額が相続税の課税対象になります。しかし、自宅の相続においては配偶者控除や、小規模宅地等の特例といった減税措置もあり、配偶者居住権の設定が必ずしも節税につながるわけではありません。
国税庁:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4666.htm
まとめ
以上のとおり、配偶者は尊く法律や税法上の優遇は明らかとなっています。
知らないと損をしてしまうこと、知っていても理解をしていないと条件に該当しなくなることもあるため、税分野に精通している税理士や公認会計士に相談するのがおすすめです。
そもそも相続対策というのは、着手が早ければ早いほどより高い効果が生じます。
生前贈与をうまく使った節税、相続時の遺言をうまく使った相続対策など、今のうちからできることを少しでも早く着手し、不安のない老後を過ごせるようになりましょう。