家族信託における指図権とは?
まだまだ現役でいたい!

家族信託における指図権とは?<br>まだまだ現役でいたい!

家族信託は財産の所有者である委託者がその財産を受託者に託し、受託者が管理・処分等を行うことが出来る財産管理の一つの手法です。そのため、家族信託を開始すると、信託財産は受託者によって管理されることとなります。ただ、委託者の中には、「まだ自分は現役でいたいから管理・処分権限を失いたくない」「受託者である息子はまだ若くて、管理を任せる事なんてできない」とお考えの方もいるでしょう。特に不動産オーナーさんの場合は、「管理権限を失う」=「引退」というふうに感じて、家族信託の必要性は十分に理解していても踏み込めないことがあるかもしれません。そのようなときには、信託契約の中で委託者に指図権という権利を付与しておくと良いでしょう。指図権を活用することにより、委託者が従来通りに不動産経営に携わることが可能となります。本記事では、指図権とはなにか、具体的にどう活用するのかを説明していきます。

目次
1.指図権とは
2.指図権の事例

1.指図権とは

指図権とは受託者に信託財産の管理・処分等の指図ができる権利のことです。
家族信託は、委託者が元気(契約内容を理解できる能力がある)なうちに信託契約の締結により始めます。特別な取り決めがなければ、信託契約を締結した時点で受託者に託した信託財産の管理・処分権限が受託者に移転することになります。
「今は元気だから、認知症になってから信託契約の効力が発生するようにしたい」という考え方もあるでしょう。しかし、そのような信託契約は効力発生日となる認知症を発症した時期を明確にできない(医師の診断をもらっても診断書の日付と実際の認知症の発症日は異なる)ため、法的な問題が多く推奨できません。

そこで指図権を委託者に付与しておきます。すると、元の所有者である委託者が、受託者に対して、信託財産の管理や処分等について指図ができるようになります。

家族信託では、受託者が信託の目的に従って信託財産の管理や処分ができるよう、形式的に財産を受託者に移転します(信託財産が不動産の場合は信託登記と所有権移転登記を行います)が、信託財産から生じる収益を受け取る権利を有する受益者が税務上は実質的な所有者とみなされるため、家族信託では一般的である委託者と受益者を同一とする自益信託で考えてみると、実質的な所有者が従来通り委託者であり、かつ信託財産の管理や処分に関して委託者が受託者に指図することができれば、万が一に備えつつ、従来と変わらない財産管理体制を継続することが可能となるのです。

2.指図権の事例

指図権については、事業承継の事例がわかりやすいので、まずはそちらを取り上げます。

委託者:親(会社経営者) 受託者:子(後継者) 指図権者:親 信託財産:自社株

会社経営者である親が自社株を100%保有している状態です。この状態で親が認知症を発症すると、自社株式は凍結されてしまいます。結果、様々な重要な決議を行う株式総会の開催ができなくなり、会社の経営は危機的状況に陥る可能性もあります。
そこで対策として、委託者を親、受託者を子とする家族信託を利用します。株式の移転に伴い、議決権も子に移転することとなるため、親が認知症になっても子が議決権を行使することで継続的な会社経営を行うことが可能となります。しかしながら、子の経営手腕に不安があったり、子が暴走するのではないかといった懸念を持たれるケースもあるでしょう。そこで、親に指図権を付与しておきます。親が元気なうちは、議決権の行使等について子に指図することができますので、従来通り経営に参画しながら、子の経営者としての手腕を見極めながら事業を承継していくということが可能となるのです。

認知症による資産凍結の問題は、不動産オーナーについても同じことが言えます。そこで次は指図権を利用して、不動産オーナーが現役のまま家族信託を始める事例を見てみましょう。

委託者:親(不動産オーナー) 受託者:子 指図権者:親 信託財産:不動産(アパート)

アパートオーナーである親が、認知症による資産凍結対策として家族信託に取り組んだものです。
ただ、まだ子にアパートの管理を任せられないということで、管理については親が指図権をもって子に指図できるようにしています。そして、将来的に親が認知症を発症し、指図権が使えなくなると、当然に子が受託者として管理を継続することとなります。

なお、指図権を行使するかしないかは、すべて指図権を持っている者が決めることが出来ます。
したがって、自分が元気なうちでも指図権を行使しないことによって、子に管理を任せることももちろん可能です。
また、子がアパート経営に慣れていくタイミングを見計らって、日々の管理は指図権を使わずに子に任せることにして、大規模修繕などの重要な判断が必要なケースでは指図権を行使して自分が主導で行う、といったことも可能です。アパート経営の経験が全くない子がいきなり受託者としての責任を果たすことが負担となることもあるかもしれません。そのような場合は、指図権を活用することで、子の負担も考慮しながら徐々にアパート経営を引き継いでいくことも検討してみましょう。

家族信託の相談窓口

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『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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