自己信託の仕組みと活用事例│生前贈与の手段として活用するメリット

自己信託の仕組みと活用事例│生前贈与の手段として活用するメリット

自己信託とは、公正証書を作成することで、財産を実質的に贈与しながらその後も元の所有者が管理し続けられる方法です。相続対策では「浪費癖のある人や障がい者・認知症患者等のために財産管理したい」「会社の後継者を指名しておきたい」といった場面で活用されます。
仕組みや活用イメージを通じて基本的な理解を得ておけば、それぞれの家庭事情に合わせて上手に取り入れられるでしょう。

▼ 自己信託の特徴と注意点
  • 自分1人で始められる(※公正証書が必要)
  • 管理権を留保しながら贈与できる
  • 破産リスク・差押えリスクから財産を守れる
  • 相続対策で活用するなら早めの設定要(節税・遺留分対策目的の場合)

1. 自己信託とは│受益者のために自分で財産を管理する

自己信託とは、最初に取り決めた目的を達成するため、一定の財産の管理・処分等を所有者自ら受託する方法を言います(信託法第3条3項)。受託する財産はその旨を宣言する必要があり、この仕組みから「信託宣言」と呼ばれることもあります。

1-1. 自己信託の目的

自己信託を設定するのは、自身の財産から利益を受ける他者、つまり被扶養者や相続人といった任意の受益者のためです。
受益者その他の関係者が財産の管理・処分を行えて、その必要もある場合なら、他人信託という形をとっても構いません。しかし中には「受益者に金銭管理する能力がない」「譲渡すると生じる多額の贈与税が負担できない」といった場合もあります。こうしたケースでは、所有権のある人の手元に財産を留め置く自己信託の形をとります。

1-2. 自己信託の仕組み

自己信託では、当事者として「委託者」「受託者」「受益者」の3者がいます。実際には委託者が受託者を兼ねるため、主要な当事者は2人です。
委託者=受託者となった人は、その所有する全財産の中のうち、受益者のために必要な行為をする財産を宣言します。信託宣言した財産は、固有財産と混同しないように管理しなくてはなりません。以後、任意で定めた要件を満たして信託が終了するまで、信託財産の収益は受益者に分配されます。

2. 自己信託の開始方法│公正証書作成の必要あり

自己信託は所有者の意思表示だけで成立することから、行為を識別できるよう、一定の方式に従わなければ効力が生じない(法第4条3項)とされています。手続きの際、前提として委託者・受託者・受益者の1人3役となるような宣言は認められません。
基本的な自己信託の始め方を順に解説すると、次のようになります。

2-1. 自己信託公正証書を作成する

自己信託を始める時の一定の方法は、法律上「信託の目的、信託財産の特定に必要な事項その他の一定の事項を記載または記録した公正証書その他の書面または電磁的記録を作成する」と定められています。簡単に言うなら、あらかじめ合意した内容に基づいて公正証書を作成しなければなりません。記載する一定の事項については、施行規則第3条で詳しく指定されています(信託の目的等の計8項目)

2-2. 信託登記を申請する

不動産を自己信託する場合は、別に法務局で信託登記する必要もあります。土地建物の場合、権利の変更を登記によって公示するまで、取引上は固有財産として取り扱われてしまいます。
提出する登記申請書には、作成した公正証書の正本または謄本(いずれも原本の写し)を登記原因証明情報として活用します。

2-3. 自己信託は「他益信託」が前提になる

自己信託の当事者は少なくとも2者である必要があり、委託者=受託者=受益者となる契約は仕組み上不可能です。わざわざ信託しなくても所有権だけで目的達成できるのはさておき、法律で「専らその者=委託者の利益を図る」場合は信託に該当しないと明確化されているためです(第2条1項)

3. 自己信託のメリット│生前贈与に機能をプラスするイメージで使える

自己信託の実質は、受益者への生前贈与です。通常の贈与との違いは「個人の固有財産からの切り離し」と「管理権の留め置き」の2点にあると言えます。
ごく簡単には、様々な目的(相続財産のスリム化による税対策)で贈与する時に、欲しい機能をプラスするイメージで使えると言えます。

3-1. 信託後も自ら財産の管理・処分ができる

自己信託の第1のメリットは、あくまでも受益者自身のために財産を使ってもらいつつ、管理は委託者兼受託者が引き続き行える点です。生前贈与しつつ、管理する権限は贈与者に留保する……と言ったイメージです。浪費癖のある人、病気等の影響で金銭管理できない人、また贈与者自身が今後も管理権限を必要とする時等に適しています。

3-2. 倒産隔離機能がある

自己信託の第2のメリットは、信託財産の独立性が認められ、破産手続や強制執行が始まっても債権者に手出しされなくなる点です。これを一般に「倒産隔離機能」と言います。
ただ、倒産隔離が出来る最低条件として、公正証書の作成及び信託財産の登記に加え、受託者による分別管理義務(固有財産と分けて管理する義務/法第28条)がきっちり守れている必要があります。

3-3. 遺留分対策にも使える

自己信託の第3のメリットは、相続財産を1人または少数に集約した時に起きやすい遺留分トラブルの回避策にもなる点です。ここで言う遺留分とは、遺言の指定よりも優先される法定相続人の権利を指します。
信託財産の受益権は実質的に生前贈与にあたります。遺留分の算定は受益権を相続財産に持ち戻してから行う必要があり(民法第1043条第1項)、その持ち戻しの範囲は相続開始前の10年間です(受贈者が相続人の場合/法第1044条第3項)。裏を返せば、相続開始まで10年以上ゆとりがある時期に信託宣言すれば、信託財産につき受益者以外への分散を防げます。

4. 自己信託の活用事例

相続対策としての自己信託は、財産の受贈者が何らかの事情で自ら金銭管理できない時や、贈与者側に当分は自分で管理しておきたい事情がある時に活用されます。以降で紹介する典型的な活用事例は、次のように整理できます。

▼自己信託が適しているケース
  • 障がい者や病人のため、生活費・介護費用等を管理する
  • 若い受贈者のため、成熟するまで贈与財産を管理する
  • 会社経営を続けながら、早めに後継者を指定する

4-1. 障がい者や認知症を患った家族のための備えとして(福祉型信託)

障がい者や認知症を患った人を扶養・介助している場合、相続財産を自分で管理していけるのか心配です。成年後見人となる近親者についても、収支報告等が義務付けられ、負担が大きいと考えられます。
自己信託を活用すれば、被相続人の代わりに扶養・介助を担っていく人の負担を減らしてトラブルを防げます。さらに、お世話される人自身につき相続が発生する時のことも予定に入れておけます。

【自己信託の例1】認知症の妻と別居する子のために備えたい

  • 信託財産:現預金の一部及び自宅
  • 受益者:
  • 信託期間:受益者の死亡まで
  • その他:子を予備的受託者に指定

生前は妻のために現預金や自宅を管理し、自身も認知症を発症する等の万一の時は子が管理を引き継げるようにします。夫婦どちらも亡くなった際は、信託契約を通じて、現預金の余り及び自宅を子が引き継ぎます。

【自己信託の例2】障がいのある子の親なき後問題に備えたい

  • 信託財産:現預金の一部
  • 受益者:子1(軽度知的障がい者)
  • 信託期間:子1の死亡まで
  • その他:別居する子2を予備的受託者に指定

障がいにより浪費してしまう懸念があるため、同居する親が健康な間は金銭管理を代わりに担います。子1につき相続が開始する時、孫がいなければ、別居しつつも親と一緒に子1の生活を見守ってくれていた子2について残余財産の帰属を指定できます。

4-2. 名義預金等の相続税対策として

相続税対策の一環として生前贈与・名義預金の形成等を考える場合、受贈者が適切に管理していけるかどうかが心配です。未成年者で金銭管理能力がなかったり、あげた財産を担保に入れてしまったりするかもしれません。
自己信託では、財産をあげつつも管理する権限は贈与者に留め置き、税対策と使い込み防止を同時に実現できます。

【自己信託の例】孫に現預金や収益不動産を生前贈与したい

  • 信託財産:現預金、複数ある賃貸物件の一部
  • 受益者:
  • 信託期間:委託者の死亡、もしくは受託者と受益者で合意に達した時まで
  • その他:(孫の親)を予備的受託者に指定

信託設定した時点で孫に生前贈与したものとなりますが、その管理権は引き続き祖父または祖母が行います。子が社会経験を積み、金銭管理や大家業に関して能力が水準に達したと判断できる時は、相続が発生する前に自己管理できるようになります。

4-3. 事業承継の手段として(認知症・税対策も可)

会社経営者の相続では、自己信託で段階制の円滑な事業承継を実現できます。株式を後継者に贈与しても意思決定権は先代が行使でき、万一また、信託の終了事由を適切に設定することで、先代の認知症発症により会社の機能が一時停止するリスクにも備えられます。
なお、赤字決算の時(=株価が安い時)を狙って信託契約すれば、この後解説する贈与税の課税も低額に抑えられます。

【自己信託の例】将来は子に会社を継がせたいが、まだ引退する気はない

  • 信託財産:自社の議決権付き株式及びその他の事業用資産
  • 受益者:長男
  • 信託監督人:司法書士、弁護士等
  • 信託期間:委託者の死亡、もしくは信託監督人と受益者が合意に達するまで
  • その他:先代経営者を受益者変更権者にする

設定により「後継指名の明確化」と「配当金の付け替えによる後継者自身のモチベーションアップ」を図りながら、先代はそのまま現役を続投できます。また、万一にも後継者の方が早く亡くなってしまった場合や、後継者としての適性に疑いが生じた時には、事業用資産の分散を回避しつつ事業承継計画を変更できます。

5. 自己信託の注意点

自己信託には様々なメリットがあるものの、決して万能ではありません。特に注意したいのは、贈与税及び相続税の扱いです。
希望する生前対策の内容によっては、他の方法を選ぶか、別の契約で欲しい機能を補うか、ケースバイケースで判断する必要があります。信託を活用しようとする時の主な注意点として、下記の4つが挙げられます。

5-1. 委託者兼受託者の死亡or認知症発症リスクに備える必要性

自己信託を組成する時は、信託期間中に委託者兼受託者の身に何かあった時のことも折り込まなくてはなりません。具体的には、予備的な受託者と合意し、公正証書で指定する必要があります。
予備の指定をしないまま信託を設定し、その期間中に受託者の死亡や後見開始があれば、信託は一年で自動的に終了します(法第56条・第163条第3号)

5-2. 信託開始時、贈与税の課税がある(みなし贈与について)

自己信託は財産移転が起きないような見た目をしていますが、実際には贈与税の課税が発生します。信託財産から生じる収入等について、本来は所有者が得るところ、信託宣言をした時点から受益者のものになるからです。
信託財産として切り出す内容は慎重に検討し、価値変動のある資産はなるべく評価が低い時を狙って宣言しなければなりません。

5-3. 相続税が課税される時、持ち戻しがある

信託宣言の際、受益者の死亡によりその権利を別人に移すものとした場合、実際に受益者が交代する時に相続税がかかります。交代の時期が信託宣言から3年以内となれば、最初に贈与税を申告・納付した分につき、あらためて相続税を計算し納付済分を控除して支払わなくてはなりません(暦年贈与の場合)
相続税対策のつもりで自己信託を始めるなら、なるべく時間に余裕を持つ必要があります。

5-4. 債権者を害する信託は取り消される

自己信託の倒産隔離機能を使うにあたって、債権者を害する内容だと機能しないことに注意しましょう。具体例として、会社の廃業・倒産前に失いたくない財産について信託宣言し、債権者が手出しできないようにしてしまうケースが挙げられます。
上記のような詐害行為は、信託設定時から2年間の間、信託宣言に対する取消訴訟をしなくても信託財産に対し強制執行ができるとの特則があります(法第23条2項)

おわりに│自己信託は贈与契約に代わる手段として活用できる

自己信託(信託宣言)のメリットは、贈与するために固有財産の中に「信託財産」という新しい区画を作り、完全に所有を移すのではなく管理権をしっかりと握り続けられる点にあります。実質的な贈与であるため税金はかかりますが、破産や浪費から財産を守れる点で安心です。
ただし、委託者兼受託者の身に何かあった時の備えや、なるべく早めに信託宣言する必要がある点については十分注意しましょう。宣言のやり方はケースバイケースであり、弁護士・司法書士・税理士等の支援はほぼ必須と言えます。

遠藤 秋乃

遠藤 秋乃(司法書士、行政書士)

大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年~2016年にかけて、司法書士試験・行政書士試験に合格。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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