2021年9月13日

家族信託を途中で変更する方法とその手続き

家族信託を途中で変更する方法とその手続き

家族信託は一度開始すると、場合によっては何十年も存続するものです。そして、その間に何が起こるかは予想しえません。状況の変化により信託契約の内容がそぐわなくなったら、見直しをするべきでしょう。また、諸事情により受託者を解任したい場合や不測の事態により受託者が不在になった場合には、受託者を変更する必要があります。
さらに「受益者連続信託」という当初より受益者の変更が想定された信託契約が存在します(詳細は後述します)
本記事では、家族信託の途中で信託契約の内容、受託者、受益者を変更する場合の方法とその後に必要な手続きについて解説します。

信託契約の内容の変更

まず、信託契約の内容を変更する場合について解説します。なお、信託契約に変更不可と定められている項目においては、下記の方法によっても変更することはできません。

変更方法

信託契約の内容は、原則として委託者、受託者、受益者の3者の合意によって変更することができます(信託法149条1項)。なお、自益信託(委託者と受益者が同一の信託)の場合は委託者と受託者との合意で変更することが可能です。

【簡易な変更の場合】

信託法には、上記とは別に簡易な変更についても規定されています。

変更内容変更方法条文番号
信託目的に反しないことが明らかである受託者及び受益者の合意第149条2項1号
信託の目的に反しないこと及び
受益者の利益に適合することが明らかである
受託者の書面又は電磁的記録によってする意思表示同条2項2号
受託者の利益を害しないことが明らかである委託者及び受益者の合意同条3項1号
信託の目的に反しないこと及び
受託者の利益を害しないことが明らかである
受益者の判断同条3項2号

この方法により変更した場合は、変更に携わらなかった当事者に対して、遅滞なく、変更後の信託行為(信託契約)の内容を通知する必要があります。

【別段の定めによる変更】

信託法の規定とは別に、信託契約に変更の方法を定めておくこともできます(同法同条4項)。例えば、「委託者及び受託者の合意」と定めると、受益者の合意を要せず変更することができます。また、当事者間の安易な変更を防ぐために「委託者及び受託者の合意および信託監督人の同意が必要」とすることも可能です。ただし、このような規定を定めることにより、簡易な変更をする場合にも合意や同意が必要になる点には注意が必要です。

【注意】

当事者のうち一人でも認知症などによって意思表示ができなくなった場合は契約内容を変更することはできなくなります。特に受益者が高齢である場合には、信託の変更ができなくなるリスクに備えて、受益者代理人を置くなどの対策を検討すべきでしょう。

変更後の手続き

信託内容を変更したら「信託契約変更契約書」を作成します。なお、この作成を専門家へ依頼する場合には専門家への報酬等の費用が発生します。

受託者の変更

次は受託者の変更について解説します。受託者とは財産を託されて管理や処分を行う人のことです。受託者が死亡したときや後見開始又は保佐開始の審判を受けたとき、破産手続開始の決定を受けたときなどに受託者の任務は終了します(※)(同法第56条)。また、委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、受託者を解任することができ(同法第58条)、受託者の方からも委託者及び受益者の同意を得て、辞任することができます(同法第57条)

変更方法

上記の事由によって受託者が不在となった場合、どのように新しい受託者を選任すればよいでしょうか。

まず、信託契約で次の受託者(第二受託者)が指名されていれば、その者が受託者となります。
第二受託者が選任されていない、もしくは選任されていたが就任を拒否した場合、または死亡などにより就任することができない場合には、「委託者及び受益者」が新たな受託者を選任する必要があります(同法第62条1項)。この時、委託者や受益者が認知症を発症していたために、新たな受託者を決めることができない場合には、必要に応じて利害関係人が裁判所に対して申し立てを行う必要があります。なお、受託者が不在のまま一年が経過すると、信託契約は終了します(同法第163条3号)

変更後の手続き

【就任承諾書】

新受託者が選任されたら、その就任を承諾した旨を証する就任承諾書を作成します。また、場合によっては旧受託者の辞任届も用意する必要があります。

【信託口口座(信託専用口座)を開設した金融機関における変更手続き】

信託財産となった現金は、受託者名義の信託口口座又は信託専用口座で管理されているのが一般的です。そのため、新受託者が選任されたら変更手続きが必要となります。どのような手続きが必要かについては、各金融機関の判断となりますので、その指示に従って変更手続きを行います。

【受託者変更登記】

信託財産に不動産が含まれている場合、その名義は旧受託者になっています。そのため、名義を新受託者にする変更登記を行うことになります。基本的には旧受託者と新受託者の共同で登記を行いますが、旧受託者の任務が死亡、後見開始もしくは保佐開始の審判、破産手続開始の決定などにより終了した場合は新受託者が単独で登記することができます。なお、登記にかかる登録免許税は非課税です(登録免許税法第7条第1項第3号)

【その他の変更】

他にも信託財産である建物に掛けられている火災保険や地震保険の名義変更が必要です。また、固定資産税や水道光熱費が自動引き落としになっている場合の口座の変更手続きを行います。
なお、賃貸不動産が信託財産になっている場合は、入居者や管理会社などの関係者への変更通知もあわせて行う必要があります。

受益者の変更

最後は受益者の変更について解説します。受益者とは信託財産から生ずる利益を受け取る権利(信託受益権)を有する者のことです。受益者の変更は「受益者連続信託」における受益者の死亡によって生ずるほか、信託受益権の贈与・売買などによって起こります。

変更方法

【受益者連続信託】

受益者が亡くなったとき、信託を終了させずに他の者が新たな受益者となる定めがある信託を「受益者連続信託」といいます。受益者が亡くなったときの次の受益者(第二受益者)は信託契約に定められているので、その者が受益者となります。

【信託受益権の売買・贈与】

信託受益権は他人に譲渡・売買することが可能です。受益者が贈与契約や売買契約によって信託受益権を贈与・売買すれば受益者は変更されます。また、受益者の判断能力が低下した場合に備えて、受益者を変更・追加する権限を持つ者(受益権変更権者)を定めておくことも可能です。

変更後の手続き

【受益者別調書の作成と提出】

受託者は受益者が変更されたら「受益者別調書」を作成し、受託者の信託事務を行う営業所等の所在地の所轄税務署長に提出します。なお、信託財産の受益者ごとの評価額が50万円以下の場合には、提出は不要です。

【信託口口座(信託専用口座)を開設した金融機関における変更手続き】

受託者の変更時と同様に、金融機関の指示に従って変更の手続きを行います。

【税務申告】

受益者連続信託においては、前受益者の遺産の評価額が相続税の基礎控除額(※)を上回る場合、信託財産を相続または遺贈したものとして申告・納税します。なお、遺産の評価額は信託財産とそれ以外の全ての財産を含めたものです。
贈与による変更の場合は新受益者が贈与税の申告・納税をします。また、売買の場合は旧受益者に譲渡取得税が課税されることがあります。

※ 基礎控除額…3,000万円 +(法定相続人の数 × 600万円)

まとめ

以上が家族信託の変更方法とその手続きです。変更自体は当事者の合意などの簡単な手続きで行うことができます。しかし、この変更は、変更部分に関して新たな契約関係を生じさせる大変重要なものとなっています。実際に変更する際には、変更する内容をしっかり検討し、当事者同士で十分に話し合い、場合によっては専門家への相談を経てから行うべきです。また、家族信託をスムーズに持続させていくためにも、変更後の手続きにおいても速やかに、且つ確実に行う必要があります。

家族信託の始めから終わりまで

始めるときの必要書類と取得方法

まず受託者がするべきこと

途中で変更する方法とその手続き

家族信託終了後の実務

家族信託の相談窓口

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『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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