2021年5月13日

家族信託の「受託者」とは?受託者になる前に知っておくべきポイント

家族信託の「受託者」とは?受託者になる前に知っておくべきポイント

家族信託では、「受託者」に財産の管理や処分を任せることになります。「受託者」は信託された財産に関して大きな権限を持つことになるため、委託者が十分信頼できる人物であることが前提になります。
本記事では家族信託の「受託者」について、その役割や権限、責任を詳しく説明します。もし受託者を引き受けることになった場合には、どのような点に注意しておいたらよいのかも知っておきましょう。

1.「受託者」は家族信託のメインプレーヤー

家族信託の当事者の中でも、「受託者」は最も重要な役割を担う人物です。まず、家族信託の登場人物をおさらいしておきましょう。

(1)家族信託とは?

家族信託とは、家族や親族などの信頼できる人に財産管理を委託するしくみです。家族信託を利用すれば、財産の実質的な所有者としての立場は保持しながら、管理や処分の権限のみを切り離し、他の人に任せることができます。

(2)家族信託の当事者

家族信託の基本的な当事者は、「委託者」「受託者」「受益者」の3者になります。

委託者は財産の実質的な所有者で、信託を行う人です。受託者は委託者から財産管理を委託された人です。受益者は信託された財産(信託財産)から得られる利益を享受する人で、委託者と同一人物の場合もありますが、別の人を設定することもできます。

(3)家族信託の構図

家族信託は通常、委託者と受託者が契約(信託契約)を結ぶことにより設定します。受益者は信託契約の当事者ではなく、信託契約で指定します。信託契約ではそのほかに、信託財産や信託の期間、受益権の内容、信託の終了事由などを細かく定めることができます。

家族信託の構図

(4)信託財産の名義は受託者

家族信託では、信託財産は委託者名義から受託者名義に変更されます。たとえば、不動産を信託する場合には、法務局で不動産の名義を委託者から受託者に変更する登記手続きを行わなければなりません。不動産を受託者名義にしておくことにより、委託者が認知症などになっても、スムーズに売却等の手続きがとれることになります。

2.受託者の権限や責任

家族信託において、受託者がどういう立場の人かを説明しました。受託者は委託者の貴重な財産を預かることになり、財産の名義も受託者に変更されます。外から見ると受託者は所有者と変わりませんから、財産に関して大きな権限を持つと同時に、重い責任も負うことになります。以下、受託者の権限や責任について、具体的に説明します。

(1)受託者になれる人は?

家族信託の受託者になるために、法律上は特別な資格は求められません。家族信託と言いますが、何親等以内といった制限もありませんし、必ずしも親族でなくてもかまいません。ただし、未成年者は受託者になれないことが信託法で定められています。
逆に言うと、未成年者でない限り、誰でも受託者になれるということです。個人に限らず、法人が受託者になることも可能になっています。

(2)受託者にはどの程度の権限がある?

受託者には、信託財産を管理または処分する権限のほか、信託の目的達成のために必要な行為をする権限が広く与えられています。受託者は信託財産を単に管理するだけでなく、売却等して処分することも可能です。信託の目的を逸脱しない限り、財産をどのようにでもできる権限が受託者にはあるということです。
ただし、信託契約で受託者の権限を制限することも可能とされています。たとえば、自宅を信託財産にする場合でも、「自宅の売却は禁止する」とか「自宅を売却するには次男の同意を要する」など、受託者の行為に制限を加える内容を盛り込んでもかまいません。

(3)受託者が権限違反行為をしたらどうなる?

家族信託で利益を受けるのは受益者です。そのため、受託者の行為を監視するのは、通常は受益者の役割です。受託者が信託に関して権限外の行為を行った場合、受益者はその行為を取り消すことができるとされています。
なお、受益者が自分で受託者を監視できない場合には、信託監督人が選任されることがあります。この場合には、信託監督人が受託者の権限違反行為を取り消すことができます。

(4)受託者の義務・責任

家族信託の受託者は大きな権限を持っていますが、その反面一定の義務や責任も負うことになります。受託者の義務・責任とは、以下のようなものです。

  • 1)善管注意義務、忠実義務

    家族信託の受託者は、善良な管理者の注意をもって信託事務を処理しなければならないとされています。「善良な管理者の注意義務」とは、取引上一般的に要求される程度の注意義務のことで、「自己の財産に対するのと同一の注意義務」より重い義務になります。つまり、受託者は信託財産を、自分の物よりも注意深く扱わなければならないということです。
    また、受託者は受益者のために忠実に信託事務の処理その他の行為をしなければならないことも定められています。

  • 2)分別管理義務

    家族信託の受託者は、信託財産を受託者固有の財産等と分別して管理する義務があります。信託財産は受託者の名義になりますが、あくまで受託者固有の財産とは分けて管理しなければなりません。

  • 3)利益相反行為の制限

    信託財産は受託者の名義になることから、受託者は自身の判断で信託財産を処分することもできてしまいます。こうしたことから、信託法では受託者の利益相反行為を制限しています。
    たとえば、信託財産を受託者個人が購入したり、逆に受託者個人の財産を信託財産に売却したりするような行為は、利益相反行為となるため原則としてできません。

  • 4)公平義務

    受益者が2人以上ある信託においては、受託者は受益者のために公平にその職務を行わなければなりません。受益者の1人から信託された金融資産の払い戻し請求を受けた場合には、他の受益者にも同様に払い戻しをする、他の受益者の分の払い戻し資金を確保するなどの取り扱いが必要になります。

  • 5)報告義務

    家族信託の受託者は、委託者または受益者から求められたときには、信託事務の処理状況や信託財産の状況について報告する義務があります。このほかに信託財産に係る帳簿その他の書類を作成する義務や、受益者から閲覧等の請求があったら応じる義務もあります。

  • 6)損失填補責任

    家族信託の受益者は、受託者が任務を怠ったことによって信託財産に損失が生じた場合には当該損失の填補を、信託財産に変更が生じた場合には原状の回復を請求できるとされています。つまり、受託者は損失填補責任や原状回復責任を負うということです。

(5)受託者の報酬

受託者は信託財産の中から信託報酬を得ることができます。信託報酬については法律上上限が決まっているわけではないので、信託契約の中で自由に定めることができます。
なお、信託財産から信託報酬を払うと、受託者の所得となり、税金の問題が発生します。実際に信託報酬をどのように定めるかは、税理士に相談しながら決めた方がよいでしょう。

3.受託者になる前に知っておきたい注意点

ここまで説明してきたとおり、受託者は家族信託を行う中で最も重要な役割を担う人物であり、責任も重くなっています。家族信託の受託者を引き受ける場合には、どのような点に注意したらよいのかを再度確認しておきましょう。

(1)受託者は何でもできるわけではない

家族信託で受託者に託された不動産や預金の名義は、受託者名義になります。受託者は、財産が自分名義になっていると言っても、財産を全く自由にできるわけではありません。
たとえば、信託契約で自宅の売却を禁止しているのに、受託者が勝手に自宅を売却することはできません。信託財産をどうするかは、あくまで信託契約の内容に従うことになります。

(2)受託者の責任は無限責任

家族信託の受託者は、信託財産について無限責任を負うものとされています。無限責任とは、信託財産から生じた債務を信託財産から払えない場合に、受託者固有の財産から払わなければならないということです。
たとえば、信託財産である収益用のアパートの建て替えのために銀行から融資を受けた場合、信託財産(家賃収入など)から返済を行いますが、もし信託財産で足りなければ受託者は自分の財産から払わなければなりません。取引の相手方からみれば、財産は受託者名義になっているわけですから、当然こうした責任を負うことになります。

4.まとめ

家族信託の受託者には大きな権限がありますが、権限の濫用は許されません。受託者は信託契約に従って、誠実に任務を行う必要があります。
家族信託は受益者のために行うものです。家族信託の受託者となった場合には、信託の目的から外れないよう財産の管理や処分を行うようにしましょう。

森本 由紀

森本 由紀(行政書士、ファイナンシャルプランナー)

行政書士ゆらこ事務所代表。大学卒業後、複数の法律事務所に勤務してパラリーガルの経験を積んだ後、2012年に行政書士として独立。離婚や相続など身近に起こる問題をサポート。各種サイトでの法律記事・マネー記事の執筆や監修も担当。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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