2022年8月16日

後見制度が変わる?
後見制度の見直しに関する動向をチェック

後見制度が変わる?<br>後見制度の見直しに関する動向をチェック

2022年3月、「成年後見制度利用促進基本計画」が閣議決定されました。これは成年後見制度をより多くの方に利用してもらうことを目的とした計画であり、後見制度の見直しに関する動向が示されています。
本記事では後見制度利用促進基本計画の中から、

  • 後見人の交代について
  • 後見人に対する苦情への対応
  • 後見報酬等の算定方法
  • 後見事務を行う期間

について解説します。

後見制度の詳細についてはこちら

後見人の交代について

まずは後見人の交代について見ていきます。後見事務を始めたものの何らかの事情で後見人を交代したいもしくは交代させたい場合、それは認められるのでしょうか。

後見人を交代したい場合

例えば、親族の一人が後見人になったものの後見事務の負担から途中で別の親族または専門職後見人に交代したい場合、交代は認められるのでしょうか。
この場合、現在の後見人が辞任をして、新しい後見人が就任することによって後見人の交代は行われることになります。ただし、話は一筋縄にはいきません。

後見人が辞任するためには家庭裁判所の許可が必要になります(民法第844条)
そして、家庭裁判所が後見人の辞任を許可するためには合理的な理由が必要です。
合理的な理由としては後見人自体に健康上の問題が生じた、仕事等の都合で遠方に引っ越すことになったなどが挙げられるでしょう。ただ単に大変だから、面倒になったからという理由では認められません。

また、辞任が認められたとして、親族が希望する後見人の交代をすることができない場合があります。後見人が辞任した後、家庭裁判所は新しい後見人の選任を行います。このとき、別の親族が後見人の候補者となっていても、必ずしも選任されるとは限りません。裁判所の判断によっては専門職後見人が選任されることもあります。

後見人を交代させたい場合

被後見人本人や親族が後見人の後見事務に対して不満があり、後見人を交代させたいと考えた場合はどうでしょうか。この場合、交代は基本的に認められません。

交代には後見人を解任させる必要がありますが、それには後見人が違法行為などの不適切な行為を行っているなど事情が必要となります(同法第846条)。ただ単に後見事務に不満があるという理由では解任できないのです。

成年後見制度利用促進基本計画の記載

このように後見人の交代が認められるか否かは後見人の事情に委ねられており、被後見人の事情は考慮されていないのが現状です。しかし、被後見人の財産や健康の状態は常に一定ではありません。場合によっては後見人を交代したほうが本人に適した後見事務を行えることもあるかと思います。
そこで成年後見制度利用促進基本計画では、被後見人の状況の変化などに対応できるよう柔軟な交代を可能とするべきであるという考えが示されました。

後見人に対する苦情への対応

次は後見人に対する苦情の対応についてです。法定後見制度の場合、後見人は家庭裁判所により選任されます。その際、本人や申立人はその選任に対して不服申し立てを行うことはできません。また前述の通り、後見人の事務に不満があったとしても後見人を解任することは原則不可能です。そんなに後見人に不満を抱くことがあるだろうかとお考えの方もいるかとは思います。ただ、後見人には本人や親族に財産開示義務はないため、親族といえども本人の財産状況を把握することはできないことがあります。このような状況では後見人に対する不満が起こりやすくなると考えられます。

さて、現状では後見人に対する不満を適切に対応する仕組みは整備されていません。結果、後見人に対する不満から、親族が後見人に非協力的になり後見事務に支障をきたすケースもあります。
そこで成年後見制度利用促進基本計画では苦情に対して適切に対応できる仕組みの整備する必要があるという考え方が示されました。具体的には家庭裁判所による後見人への助言や指導や家庭裁判所と市町村・中核機関との連携による苦情の対応などが挙げられます。

後見報酬等の算定方法

さらに後見報酬等の算定方法についても言及がありましたので見ていきましょう。
後見人は後見事務の報酬を受け取ることができますが、この報酬(後見報酬)がいくらくらいかかるのかというのは成年被後見人やその家族にとっては重要な問題となるでしょう。なお、後見人報酬は法定後見制度と任意後見制度によってその算出方法が異なります。

法定後見の場合

法定後見の場合、報酬の額は家庭裁判所の裁判官が決定します。
以下のような目安が公表されている裁判所もあります。

被後見人の財産の額 後見報酬の額の目安
1,000万円以下 月額2万円
1,000万円を超え 5,000万円以下 月額3~4万円
5,000万円を超える 月額5~6万円

なお、後見事務を複雑にする事案がある場合は上記の目安よりも多い額を報酬とすることがあります。ちなみに事案としては成年被後見人が収益不動産を多数所有しており、その管理を行う必要がある場合や、親族間に意見の対立がありその調整が必要な場合、前任の後見人に不正があり後任の後見人がその対応に当たる必要がある場合などが挙げられます。

また、被後見人所有の不動産を売却する、遺産分割協議を行うなどして被後見人の財産を増加させたときには付加報酬として、別途に報酬を得ることも可能です。

また、場合によっては家庭裁判所により後見監督人が選任されることがあります。後見監督人も自身が行った監督事務についての報酬を得ることができ、その相場は以下の通りになります。

被後見人の財産の額 監督人報酬の額の目安
5,000万円以下 月額1~2万円
5,000万円を超える 月額2万5000円

【注意】

後見の審判をすれば自動的に報酬の額が決定されるわけではありません。後見報酬や監督報酬を希望する場合は後見申立ての審判とは別に報酬付与の審判を申し立てる必要があります。

任意後見の場合

任意後見の場合、後見報酬は任意後見契約によって取り決められ、その額は当事者間で自由に決めることができます。もちろん、後見報酬を無報酬にすることもできます。

なお、任意後見は本人の判断能力が低下した際に任意後見人が速やかに家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。任意後見監督人が選任されると後見の効力が発生することになります。つまり、任意後見制度では後見監督人が必ず選任されることになりますが、後見監督人は法律専門職の方が就任することが多いのが現状です。
そして、当然に任意後見監督人もその報酬を得ることができます。
任意後見監督人の報酬は家庭裁判所の決定により決定されますが、目安の額は法定後見制度における後見監督人を同額になります。また、裁判所に報酬付与の審判が必要になるのも同様です。

※ 参考:奈良家庭裁判所『成年後見人等の報酬の目安』

制度の見直しの動向

このように後見報酬は後見人が管理する財産の額によって算出されています。確かに被後見人の財産管理は重要な事務ではあります。しかし、後見人の事務はそれだけではなく身上保護もありますが、現状の後見報酬の算出方法では身上保護に対する評価が全く反映されないことになります。そこで成年後見制度利用促進基本計画では本人への面談やケア会議への参加など身上保護に当たる事務についても適切な報酬を設定するべきであるとの考えが示されました。

後見事務を行う期間について

最後は後見事務を行う期間についてです。
一度後見制度が始まると、後見人は成年被後見人の終身まで後見事務を担うことになります(意思能力が回復し、後見人を就ける必要が亡くなった場合を除きます)

そのため、本人が相続人になり遺産分割協議を行う必要がある、本人所有の不動産を売却する必要があるといった理由により後見制度を利用した場合、それらの目的が達成されたのちも後見事務は継続されることになります。これにより後見制度が必要な場面においても後見制度の利用を躊躇するケースがみられるのではないかという指摘がありました。
そこで成年後見制度利用促進基本計画において不動産の売却のみ、遺産の分割協議のみといった一時的な利用を認めるべきであるという考えが示されました。これが認められると今よりも柔軟に後見制度が利用できるようになるのではないでしょうか。

まとめ

以上が後見制度の見直しに関する動向でした。
令和2年末、成年後見制度は約23万人に利用されています。一見するとたくさんの方が利用されているように思えます。しかし、成年後見制度を利用すべきであるといえる認知症高齢者の方は令和2年には約600万人いると推計されており、利用率は4%にも満たないとも考えられます。その理由の一つに後見制度には利用を躊躇させる様々な課題があると指摘されてきました。

※ 参考:最高裁判所事務総局家庭局『成年後見関係事件の概況 令和3年1月~12月』

現時点における後見制度の見直しは動向が示されただけであり、国会等での本格的な審議を行うことが決定されたわけではありません。しかし、これらの課題の解決により、後見制度が利用しやすくなることは多くの方にメリットのあることだと考えられます。今後ともその動向を注目すべきであるといえるでしょう。

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『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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