2022年12月30日

骨折と認知症の関係 骨折を予防する運動や食事とは?

骨折と認知症の関係 骨折を予防する運動や食事とは?

ご自身の周りのご高齢の方で、ちょっとした転倒で手や足の骨を骨折したり、しりもちをついて圧迫骨折をしてしまったりなどのアクシデントに心当たりはありませんか?
また「骨折してから家にこもるようになり、もの忘れが目立つようになった」というエピソードも聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、骨折と認知症の関係や、その予防の方法について解説します。

1. 高齢者に多い骨折の部位や頻度

私たちの身体は、丈夫な骨を維持するために古くなった骨を自分で壊して、新しい骨を作る作業をします。高齢になると、新しい骨を作る細胞の数が減ってしまい「骨粗鬆症」になる頻度が増えます。また、肌のうるおいや弾力が加齢に伴って低下してしまうのと同じように、骨も加齢によりしなやかさを失ってしまいます。そのほか、骨を支える筋肉や衝撃へのクッション効果となる脂肪も減ってしまいます。これらによって、ちょっとした転倒などの衝撃に対して骨が耐える力が弱まって、骨折しやすくなるのです。

高齢者に多い骨折の部位は、

  • 大腿骨近位部(股関節)
  • 椎体骨折(胸椎や腰椎など、背骨や腰骨の圧迫骨折)
  • 橈骨遠位端骨折(手関節)

と言われています。

大腿骨や手関節の骨折は足がもつれて転倒した際に多くみられます。圧迫骨折はしりもちをついたときに背骨や腰骨などのうち、圧がかかりやすい部分の骨が潰れてしまうことで起きます。

一番頻度の高い大腿骨の骨折は、特に80歳代以降に発症率が上がり、平均年間発症率が5%程度になります。全年齢だと大腿骨骨折は年間約15万人にも上ります。

大腿骨を骨折すると手術なしでは歩けなくなってしまうことが多いため、ほとんどの場合が手術治療になります。細かい部位や骨折の状態で手術の方法やリスクが異なります。
圧迫骨折や手関節の骨折だと多くの場合が保存的治療(コルセットやシーネ固定)になります。

認知症との兼ね合いで特に注意をしたいのが、このような入院や手術が必要となる大腿骨の骨折です。続いて骨折と認知症の関係についてお話します。

2. 骨折と認知症の関係とは?~実は深い関係性のある骨折と認知症~

脳と骨は一見何の関わりもないように見えますが、実は深い関係を持っています。

骨折で寝たきりになった場合はもちろん、骨折で歩きにくくなったり、腰痛があったり、骨折以外でも腰のヘルニアや膝の病気のせいで自由に歩いたり運動したりできなくなった場合には注意が必要です。そのような状態の場合、認知症の前段階の人は認知症へ、すでに認知症の人は症状が進行することが多いからです。

最近の研究では生活の習慣や生活習慣病がアルツハイマー型認知症の発症リスクに密接に関係していることが報告されています。

骨折などによって十分な運動ができなくなった状態は、図1の「悪い影響」のうち、「身体運動不活発」に該当してしまいます。

認知症(アルツハイマー型認知症)の危険因子と防御因子

図1 認知症(アルツハイマー型認知症)の危険因子と防御因子(文献※1を参考に作成)

つまり、骨折することで運動や日常生活の活動に支障が生じ、最終的に認知症を発症する、もしくは認知症が悪化する状態になりえます。

以前のコラムMCI(軽度認知症)の最新の検査や治療、予防法についてはこちらでもご紹介しましたが、認知症を発症していなくても、前段階の時点ですでに脳の細胞は認知症の原因となるたんぱく質がすでにたまっていることがあります。認知症の前段階であった人でも、骨折によって十分な運動ができなくなった結果、骨折しない場合よりも早く認知症になってしまうこともあると言ってもよいでしょう。

3. 骨折を予防するには?~食事編~

ここまでのお話で分かる通り、骨折は身体にも脳にも大きな影響を及ぼします。このため、骨折を予防するための工夫はとても大切です。
骨折の予防のために、食事面で取り組める方法をご紹介します。

骨を丈夫にするためには「骨密度」と「骨質」を良い状態に保つことが必要です。

① 骨密度を保つための食事

骨密度に関係するのはカルシウム、ビタミンD、ビタミンKです。どれか一つだけ摂ればよいのではなく、これらをまんべんなく摂る必要があります。

● カルシウム

カルシウムはご存じの通り、骨の成分の一つで牛乳や小魚などに含まれます。ビタミンD、性ホルモンや骨を作る役目の細胞により骨の成分の一部となります。

● ビタミンD

ビタミンDはさんまやかれい、干ししいたけなどに多く含まれています。
ビタミンDは骨を作るのを助ける役割以外にも、カルシウムが小腸から吸収されるのを助ける役割も持っています。その他にも、身体中の筋肉を増やすように働きかけたり、心臓の動きを助けたり、高血圧や糖尿病になりにくい体質を作ったりなど、たくさんの機能を持っています。

欠乏すると筋肉の速筋線維(瞬発力を持つ筋肉で筋肉トレーニングでは得られない筋肉)を萎縮させ、転倒の原因となってしまいます。
しかし、このようにとても魅力的なビタミンDですが、摂りすぎると倦怠感が出現したり腎臓に負担をかけたりすることもあるので注意が必要です。

● ビタミンK

ビタミンKを含む食品の代表は納豆です。他にほうれん草やわかめなどにも多く含まれています。
ビタミンKが十分にあるとオステオカルシンという成分が作られ、カルシウムと上手に結合し骨に吸収されるようになります。

カルシウム不足、ビタミンD不足、ビタミンK不足のうち、大腿骨の骨折とはっきりとした因果関係が認められたのはビタミンK不足と言われています。2008年に報告された日本国内のデータでは、納豆を食べる習慣のない関西では骨折が多く、習慣のある関東以北では骨折が少ないという報告もあります(※2)。現在、骨密度の評価方法の一つとして、ビタミンKが不足しているときにオステオカルシンの代わりにできてしまう成分を血液検査で測定することも可能です。

② 骨質を保つための食事

骨質を保つためには、骨コラーゲンの老化現象を防ぐことが大切です。高血糖やそのほかの酸化ストレスが生じやすい状態だと老化現象を起こしやすくなると言われています。食事だと、既に酸化してしまっている食品(新鮮ではない食材や使い古した揚げ油など)は避けた方が良いと言えます。
また、間食によって血糖が高い状態が長く続くと、それだけでも酸化ストレスを起こしやすい状態となるため、間食はなるべく避けた方が良いと言えます。

特に70歳代を超えると低栄養になりがちです。
実際に私の外来に通院中の方で、骨折歴や認知症がなくても、血液検査をすると「かくれ栄養不足」である70歳以上の方は意外に多く目にします。

基本的には多すぎず少なすぎず「バランスの良い食事」をとることが良いのですが、骨と認知症の観点から考えると、「納豆を含む、魚を中心とした昔ながらの和食」がよいのかもしれません。食事の選択肢が増えた現代では、このような食事内容を続けるのは少し難しいかもしれませんが、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

4. 骨折を予防するには?~運動編~

もちろん、骨折をしない体づくりも大切です。ここでは転倒、そして骨折をしてしまわないためにも、転倒しやすい状態かどうかのチェック方法や、自宅で簡単にできる運動法についてご紹介します!

① 骨折予備軍のチェックをしよう!~「ロコチェック」とは?~

2007年に整形外科学会より「ロコモティブシンドローム(運動器症候群、以下ロコモ)」の概念が提唱されてから、徐々にロコモという言葉が浸透してきています。ロコモとは、「加齢に伴う運動機能の低下や運動器疾患により移動能力の低下した状態」と言われています。つまり、すでに骨折している人や骨折予備軍の人もこの中に含まれています。

このロコモの状態をチェックする方法があります。「ロコモーションチェック(以下ロコチェック)」と言われていて、自分自身で運動機能の低下に気づくためのチェックとなります。
チェック項目は7つで、1つでも該当すれば骨折予備軍として注意が必要になります。

(1) 片足立ちで靴下がはけない
(2) 家の中で躓いたり滑ったりする
(3) 階段を上るのに手すりが必要である
(4) 横断歩道を青信号で渡りきれない
(5) 15分くらい続けて歩けない
(6) 2Kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である
(7) 家のやや重い仕事が困難である

表1 ロコモーションチェック(文献※3を参考に作成)

中高年を対象にした運動機能評価では、ロコチェックに該当項目がある人は、ない人に比べて筋力やバランス評価が明らかに低いことが報告されています(※4)

② 自宅で簡単にできる骨折予防の運動

ロコチェックで該当項目があったロコモの方も、そうではないけれども骨折も認知症もきちんと予防したい方も、年齢を問わず習慣的な運動をすることをおすすめします。
具体的にはウォーキング、ジョギング、自転車、水泳、水中歩行、マシーントレーニングや種々の体操などのうち、始めやすく継続しやすいものを選ぶといいでしょう。

ロコモの方だと、膝や腰が痛く、負荷の強い運動は難しいかもしれません。そのような方でもできる、日本整形外科がおすすめしている運動法をご紹介します!

1つ目は「スクワット」です。膝を痛める可能性があるのでは、と心配になるかもしれませんが、次の方法でチャレンジしてみてください。

一般的なスクワットは図2の右のイラストのようなイメージですが、膝を前に出さないようにするスクワットをすることが大切です。大腿四頭筋、大殿筋やハムストリングなどの下肢全体の筋肉を鍛えることができます。ポイントは膝を前に出さないようにすることです。そうすれば膝を痛める心配が少なくなります。1回あたり10秒程度で、10~15回を1日2~3セット行うと良いでしょう。

スクワットのポイント

図2 スクワットのポイント

2つ目は「片足立ち運動」です。
バランスを高める運動で、転倒予防効果があります。図3のように、床に足がつかない程度に片足を上げ、1分維持して下さい。それを左右1セットで1日2~3回行います。立位や歩行が不安定な場合は手すりやテーブルなどに手をおいて行います。

片足立ちのポイント

図3 片足立ちのポイント

このような運動に加えて、踵上げ運動などを合わせることで、運動機能の改善や維持につながるので、取り組んでみてはいかがでしょう。
また、転倒、骨折予防のためには、これらの運動の他に自宅内の環境整備も必要です。高齢者の骨折はほとんどが自宅内での転倒です。通路の整理整頓はもちろん、段差をなくすためのリフォームなども工夫もしてみましょう。

5. まとめ

いかがでしょうか。認知症と骨折、骨折予防のための方法についてお話しました。
年齢を重ねることで認知症も骨折も起きやすくなります。どちらが先に起きても、それぞれが影響しあって健康な生活を維持しにくくなります。
まずは骨折を予防して、健康なライフスタイルを維持できるようにチャレンジしてみてください。

参考文献

※1 山田正仁:縦断的疫学調査からみえてくる認知症予防の可能性.老年精神医学雑誌,31(11)1154-1160,2020-11

※2 折茂肇ら:ヒトは骨と共に老いる.日本老年医学会雑誌,50(1)16-26,2013

※3 ロコモONLINE(https://locomo-joa.jp/check/lococheck)

※4 石橋英明:ロコモティブシンドローム ロコチェックの運動機能低下の予見性とロコトレの運動機能改善効果.医学のあゆみ,236:353-9,2011

西村天

西村天(神経内科医)

医師歴10年目の神経内科専門医、内科医、抗加齢医学専門医。専門は脳神経内科で、日常的に認知症の診療や脳卒中、パーキンソン病などを診療。近年は高齢者の就労支援事業にも携わる。近畿大学卒業後、大阪や東京都内の大学病院や地域中核病院に勤務。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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