2022年10月20日

特別受益・寄与分とは?
最新の法改正についても解説!

特別受益・寄与分とは?<br>最新の法改正についても解説!

皆さんは特別受益や寄与分という言葉を聞いたことがあるでしょうか。特別受益や寄与分は、法定相続分では実質的に不公平な遺産分割になってしまう場合に、真の意味で平等にするために利用されるものです。本コラムでは特別受益・寄与分の概要や計算方法、最新の法改正についても解説します。

特別受益・寄与分とは

では特別受益や寄与分について具体的な事例を挙げて見てみましょう。

夫に先立たれたお母さんに息子と娘がいます。息子はろくに働きもせず、ギャンブル三昧。ときには母親にお金の無心もしていました。それに対して娘は献身的に母親の世話をして、更には介護費を建て替えたりもしていました。このとき母親に相続が発生すると、法的な相続分では息子と娘で半分ずつです。法的には公平な相続ですが、実質的には不公平な相続であるとも考えられます。そこで娘は遺産分割協議において特別受益や寄与分を主張することができるのです。

特別の受益

特別受益とは一部の相続人が生前に被相続人から贈与や遺贈など受け取っていた利益のことです。上記の場合では母親が生前、息子に対して渡した金銭が特別の授与に当たります。特別受益がある場合、その分を相続財産に持ち戻したうえで相続分を計算することとなります。

なお、被相続人の死亡保険金の受取人が一部の相続人となっていたとしても、原則的には特別受益には当たりません。また、贈与といっても、婚姻期間が20年以上の夫婦が一方に自宅を贈与した場合には特別受益に該当しない旨が規定されています(民法第903条4項)

寄与分

寄与分とは被相続人の財産の維持や増加に貢献をした相続人がいる場合、当該相続人が法定相続分以上の遺産を相続できるといった制度です。ここでいう貢献とは被相続人財産の維持や増加への貢献であり、ただ単に被相続人の世話をしただけでは寄与分は認められません。
被相続人の家業を無償(またはお小遣い程度の報酬)で手伝った、被相続人の生活費を援助した場合などに寄与分は認められます。
上記の場合は娘が立て替えた施設入居費が寄与分に当たります。娘が施設費を立て替えたことにより母親の財産の維持に貢献しているためです。寄与分があった場合はその寄与分を考慮して相続分が計算されます。

なお、似たようなものに民法1050条に規定されている「特別の寄与」があります。こちらは相続人以外の親族で被相続人に寄与した方が相続人に対して特別寄与料を請求できるという規定です。

特別の寄与の詳細はこちら

計算方法

次はこれらの計算方法について先程の事例を挙げて説明します。

事例

被相続人である母親の遺産総額が1000万円ありました。しかし、生前母は息子に400万円の生前贈与を行っています。反対に娘は母の晩年の施設入居である200万円を立て替えていました。

相続分は次の手順で計算します。

① 遺産総額に特別受益を足し、寄与分は引く。

まず、遺産総額を特別受益も寄与分もなかった状態に戻します。
事例の場合は1000万+400万-200万=1200万円となります。

② 法定相続分で分ける。

息子、娘ともに法定相続分は1/2なので、各600万円です。

③ 特別受益は相続分から引いて、寄与分は相続分に足す。

特別受益のある息子は600万円-400万円=200万円
寄与分のある娘は600万円+200万円=800万円

このような計算方法となります。
ただし、特別受益や寄与分が多額の場合は計算がおかしくなってしまいます。
例えば、上記に事例において現存する遺産が1000万円、息子の特別受益が500万円、娘の寄与分が700万円の場合で考えてみましょう。

①の計算で遺産総額は1000万円+500万円-700万円=800万円となります。
これを法定相続分で分ければ各400万円となります。そして、これらの③の計算をすると息子の相続分は400万円-500万円=-100万円でマイナスとなりますし、娘の相続分は400万円+700万円=1100万円と現存する遺産の総額を超えてしまいます。

このような場合では息子はマイナス分の100万円を娘に支払う必要はありません。息子の相続分は0円、娘は遺産総額である1000万円を相続するといった形で処理されます。

なお、このように法定相続分を基に特別受益や寄与分を考慮した相続分を具体的相続分といいます

請求方法

では、自身に寄与分があったり、他の相続人に特別受益がある場合にはどのように請求すればよいのでしょうか。はじめは他の相続人との話し合いである遺産分割協議にて主張することになります。ここで相続人同士が納得して遺産分割ができればそれで解決です。
しかし、他の相続人との協議が不調に終わった場合は家庭裁判所に遺産分割の審判において特別受益や寄与分の有無やその額などが決定されます。

特別受益・寄与分の証拠

特別受益や寄与分を主張する際には証拠が重要となってきます。寄与分を主張する際は、自身が行った行為になるため、証拠を残すのはそう難しくはないでしょう。費用を立て替えたときの領収書などが証拠となります。しかし、特別受益については他の相続人の行為となるため証拠の入手は難しいでしょう。特に贈与されたものが金銭である場合は、登記簿により贈与が記録される不動産とは違い、証拠をつかむのは困難です。この場合の証拠としては被相続人の預貯金の通帳などがあります。また、被相続人が贈与をしたという会話記録なども証拠になり得ますので記録しておくべきといえるでしょう。

相続法の改正【最新】

確かに特別受益や寄与分は大変重要なものとなっています。しかし、相続が発生してから数年がたつと、特別受益や寄与分の証拠も乏しく、また記憶もあいまいになってきます。数次相続や代襲相続が起こっている場合はなおさらです。場合によってはこれらが原因で遺産分割協議が難航し、ひいては相続登記の未了を起こす原因ともなっていました。
そこで相続法の改正が行われることになりました。なお、この改正は2023年4月1日に開始(施行)されます。

特別受益・寄与分に時効ができた

2021年に公布された法改正により、民法第904条の3が新設されました。それによって相続発生(被相続人の死亡)から10年経過後は遺産分割において特別受益や寄与分は適用されないこととなりました。簡単にいえばこれらに期間制限ができたと考えられます。

勘違いしてはいけないのは、相続発生から10年間が経過すると遺産分割協議ができなくなるというわけではないということです。できなくなるのはあくまでも「特別受益」や「寄与分」を裁判所で主張することであり、遺産分割協議を行うことは可能です。また、相続人全員が納得しているのであれば、相続発生から10年経過後でも特別の受益や寄与分を考慮した遺産分割をすることもできます

施行前に発生した相続について

この改正は施行(2023年4月1日)より前に発生した相続にも適用されます。
では、施行日の10年前(2013年4月1日以前)に発生した相続は施行日に特別受益や寄与分が適用されなくなるのかというとそうではなく、施行日より5年間の猶予期間が設けられています。少なくとも2028年(令和10年)4月1日までは全ての相続において特別受益や寄与分が適用されることになります。

例外規定

さて、この法改正では損をする相続人と得をする相続人が発生します。

相続発生から10年経過前 相続発生から10年経過後
特別受益のある相続人 特別受益によって相続分が減る 特別受益が適用されなくなる → 相続人が得をする
寄与分のある相続人 寄与分によって相続分が増える 寄与分が適用されなくなる → 相続人が損をする

上図の通り、特別の受益をうけた相続人や寄与分をもつ相続人以外の相続人にとっては、相続開始から10年経過したほうが有利な遺産分割が可能となります。そこで遺産分割協議を拒否し続け、特別の受益や寄与分の期限を待つといった相続人がでてきてしまい、遺産分割協が困難になる事態が考えられます。

このような事態の救済措置として、以下のような場合には例外的に相続が発生してから10年が経過しても、特別受益や寄与分が適用されます。

  1. ① 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき
  2. ② 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき

特別受益のために遺産分割協議を拒否する相続人がいても、家庭裁判所に遺産の分割を請求することにより対応が可能です。また、相続放棄の関係やそもそも被相続人の生死が不明だったなどのやむをえない理由により遺産の分割の請求ができなかった場合にも上記の②のような救済措置があります。

まとめ

以上が特別受益と寄与分の解説でした。確かにこれらは平等な相続のためには必要なものです。ただし、ときには相続人同士の争いの種となってしまう場合もあります。
皆さんの中には「自身に相続が発生しても、法定相続分で分ければ平等な相続となるだろう」とお考えの方もいらっしゃると思います。ただし、家族であれば多少のお金のやり取りはあると考えられます。各相続人の些細な食い違いによって、円満に終わるはずの相続に争いが生じてしまうこともあるのです
このような事態を避けるためにも、遺言や家族信託で自身の意思を遺すことが重要です。また、一部の相続人に生前贈与などを行う場合でも、相続人全員に知らせておくなど争いが起きないように対策することが重要であるといえるでしょう。

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『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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