2024年5月8日

賃貸オーナーが知っておくべき
「住宅セーフティネット制度」をわかりやすく解説

賃貸オーナーが知っておくべき<br>「住宅セーフティネット制度」をわかりやすく解説

昨今の法改正によって、「住宅セーフティネット制度」という新しい取り組みが設けられました。この制度は、住宅の確保が難しい人々への支援を目的としており、入居を拒まない賃貸住宅の登録、改修や入居を経済的にサポートする措置、そして利用者の適切な住宅へのマッチングサービスという三つから成り立っています。

以前から似たような制度は存在していましたが、いずれもうまく普及しませんでした。
そこで、過去の課題を解決し、より広範な層に対応できるようにしつつ、民間の空き家問題や空室対策の緩和を目指したのが新たな住宅セーフティネット制度です。

今回は、この住宅セーフティネット制度について、賃貸オーナーが知っておくべき情報についてわかりやすく解説していきます。

住宅セーフティネット制度とは?

住宅セーフティネット制度は、高齢者・外国人・障害者といった、「住宅確保要配慮者」への支援を目的として、2017年10月に国土交通省から施行されました。

この制度ができた背景には、高齢化社会の進展、単身世帯の増加、経済状況の変化など、さまざまな社会的問題が存在します。特に、低所得者や高齢者、障害者など、安定した住宅を確保することが困難な人々への支援は、いまだ社会全体の課題とされています。

法改正された制度を通じて、民間の賃貸住宅市場が社会的な役割を果たすことが期待されています。また、不動産経営においても、制度をうまく活用することで、空き家問題の解消や補助金による改修費用の負担減などに繋がる点が期待されています。

住宅セーフティネット制度を利用するには

住宅セーフティネット制度を利用するには、賃貸物件のオーナーが「セーフティネット住宅情報提供システム」に物件を無料で登録し、情報を公開する必要があります。

これにより、空き家問題への対策を求めるオーナーは、住宅確保要配慮者に賃貸住宅を提供することができます。利用開始にあたっては、物件が所在する自治体の窓口に行き、賃貸住宅を「住宅確保要配慮者向け賃貸住宅」として登録しなければなりません。

なお、自治体によって細かな要件が異なるため、管轄の市区町村役場に確認しましょう。

住宅セーフティネット制度における自治体の動き

多くの自治体では、住宅セーフティネット制度の推進に積極的に取り組んでいます。
特に、アパートやマンションに対する支援策が充実してきており、これらの施設を活用することで、より多くの住宅確保要配慮者に対応することが可能になっています。以下では、住宅セーフティネット制度を積極的に取り入れている自治体について紹介します。

東京都(東京ささエール住宅)

東京都は、住宅セーフティネット制度を受け、「東京ささエール住宅」という愛称により積極的に取り組んでいます。令和3年度末の時点で、登録住宅は46,226戸、専用住宅は642戸が供給されています。主な支援策には、見守り機器設置費の補助、少額短期保険料の補助、家賃低廉化補助などがあり、補助額は補助要件や地域によって異なります。

埼玉県(住まい安心支援ネットワーク)

埼玉県住まい安心支援ネットワークは、住宅セーフティネット法に則り、低所得者や被災者など住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅入居支援を行います。
少子高齢化対策として、子育て世代の定住促進や住み替えを通じた地域活性化を目指し、「セーフティネット部会」と「子育て支援部会」を設置しています。宅建業者、NPOなど多様な構成員と協力し、地域全体で住まいの課題解決を図っています。

いわき市(いわき市住宅マスタープラン)

市町村単位で、住宅セーフティネット制度に積極的に取り組んでいるのがいわき市です。
いわき市では、「いわき市住宅マスタープラン」と称し、老朽化した公営住宅の改善、住宅セーフティネット制度の登録住宅を通じた民間賃貸住宅の供給促進、経済的支援や入居支援サービスの提供など、行政と関係団体が連携して多角的な取り組みを実施しています。

住宅セーフティネットの登録基準と入居者の条件

セーフティネット住宅の登録基準には、一定の床面積要件(各戸25m²以上、共用部分含む場合18m²以上)、必要設備(台所、便所、浴室等)の設置、耐震性の確保などが含まれます。
また、家賃が近隣の同種住宅と均衡を保つことも求められています。

入居者条件は、低額所得者(月収15.8万円以下)、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯など、住宅の確保に特に配慮を要する人々が対象です。その他にも、国土交通省が定める者として、外国人・東日本大震災等の大規模災害の被災者などが含まれます。

賃貸オーナーは、セーフティネット住宅の登録基準を満たすことで、安定した入居者を確保でき、入居者は質の高い住環境を得ることができます。

経営としての賃貸オーナー様のメリット

賃貸オーナーとして経営する際、住宅セーフティネット制度を活用することには複数のメリットがあります。具体的には、オーナーに対し以下のようなメリットが生じます。

  1. ① 安定した入居率の向上
  2. ② 家賃補助
  3. ③ リフォームや改修の支援
  4. ④ 社会的貢献

安定した入居率の向上

住宅セーフティネット制度を利用することで、低所得者や高齢者など、住宅を必要としている幅広い層からの入居者を確保することができます。
これにより、空き家や空室リスクの低減と安定した賃貸収入が期待できます。空き家問題に悩まされている賃貸オーナーにとっては、積極的に利用したい制度の1つです。

家賃補助

「家賃低廉化補助制度」によって、低所得者向け物件を提供するオーナーには、月額最大4万円の補助を提供します。最長10年、自治体によっては20年の支援期間を設け、オーナーの収益安定に貢献します。また、滞納リスクのある低所得者も受け入れやすくなり、直接補助金を受け取ることでオーナーの利益確保が可能です。

耐震改修などの支援

住宅をセーフティネット制度の対象とするためには、一定の住宅基準を満たす必要があります。この基準を満たすため耐震の改修工事やリフォーム工事に対しての支援があります。
たとえば、改修工事における補助金制度は、間取りの変更やバリアフリー化などの改修時に活用可能です。補助金の額は地域によって異なり、例としては戸ごとに最大50万円や、工事費の2/3までをカバーするなどの規定が設けられています。これにより、オーナーは物件の価値向上を図ることができ、長期的な資産価値の保持にも寄与します。

社会的貢献

住宅セーフティネット制度を通じて、住宅に困難を抱える人々への支援に貢献することは、社会的な意義が大きいです。企業の社会的責任(CSR)活動の一環として、または個人オーナーとしての社会貢献活動として、評価されることもあります。

経営としての賃貸オーナー様のデメリット

賃貸オーナーとして住宅セーフティネットを活用することで、前述したとおりのメリットがありますが、同時にいくつかのデメリットもあります。いずれのデメリットも賃貸経営の安定性や収益性に影響を及ぼす可能性があり、オーナーが事前に理解し対処計画を立てる必要がある重要なポイントです。以下に、具体的なデメリットと対処法についてまとめます。

  1. ① 住宅確保要配慮者の入居は拒めない
  2. ② 家賃滞納のリスクがある
  3. ③ 登録に手間がかかる

住宅確保要配慮者の入居は拒めない

住宅セーフティネットでは、入居審査において住宅確保要配慮者の入居を拒否することができません。入居者に対するリスクについては、必ず考慮すべきです。

とはいえ、住宅セーフティネットの登録時には、住宅確保要配慮者以外の入居も受け入れる「登録住宅」と、住宅確保要配慮者のみ入居が可能な「専用住宅」のいずれかを選択可能となっています。ただし、登録住宅の場合、家賃補助やバリアフリー改修などの支援が受けられなくなるといった制限があるため、登録時は慎重に検討する必要があります。

また、改修費の補助を受けた場合は、10年以上は制度上の「専用住宅」として管理しなければならない制約にも注意しましょう。

家賃滞納のリスクがある

低所得者を対象とした住宅セーフティネット制度では、家賃滞納のリスクが高まります。
補助金はあくまで補助でしかありません。滞納分を全額回収できる保証はありませんし、入居者の経済状況によっては、家賃保証会社への加入ができない方もいます。

ただ、生活保護受給者の場合は、「代理納付制度」を利用することが一つの解決策です。
代理納付制度とは、あらかじめ申請しておくことで、住宅扶助費を自治体から直接振り込んでもらえる制度です。この制度を利用すれば、家賃滞納のリスクが低くなります。

登録に手間がかかる

住宅セーフティネットを登録するためには、複数の書類の提出が必要です。
具体的には、「平面図」、「配置図」、「見取り図」、「耐震基準適合証明書」などの書類を提出しなければならず、手間がかかってしまう点はデメリットです。

ただ、最近ではオンライン申請が可能な自治体が増えてきていて、手続きの煩雑さは緩和されつつあります。負担を抑えるためにも、登録時はオンライン申請がおすすめです。

空き家を活用したセーフティネットの成功事例

空き家問題は、特に地方において顕著に表れてきています。
たとえば、放置された空き家が老朽化し、地域住民がケガをするケースが続出しています。空き家のオーナーが損害賠償請求を支払うケースもめずらしくありません。

また、両親から不動産を相続したものの、地方にあるためまともに管理もできず、ほとんど固定資産税を払うだけとなっていた不動産は、保有しているだけでコストがかかります。
昨今では、「負動産」などと呼ばれるようになりました。

しかし、住宅セーフティネットを利用することで、空き家問題の解消だけでなく、安定した家賃収入が入ってくることになります。地方にある戸建て空き家を住宅セーフティネットに登録・活用した成功事例は年々増えています。これは、賃貸オーナーにとって物件の有効活用による収益機会を、地域にとっては空き家問題の解消と活性化に貢献します。

まとめ

住宅セーフティネット制度は、賃貸市場において重要な役割を果たしています。
賃貸オーナーに対しては、空き家問題、収益性の向上、社会貢献の実現などのメリットが見込まれます。また、自治体の取り組みや制度の詳細を理解することで、賃貸経営の新たな可能性を探ることができるでしょう。不動産経営、法改正、空き家問題に対する意識を高め、これらの課題に積極的に取り組むことでが、昨今の賃貸オーナーには求められています。

永瀬 優

永瀬 優

大学卒業後、地域を代表する法律事務所にパラリーガルとして入所。弁護士の下で債務整理・相続・離婚など、さまざまな法律実務に10年間携わった後に退所。法律実務で身に着けた知識や経験を活かして、法律ライターへと転身し、現在に至る。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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