2023年9月12日
団体信用生命保険とは?
手続きの流れや注意点を解説!
団体信用生命保険とは、住宅ローン返済中に債務者が亡くなる等した場合に、保険金を支払い、残高をゼロにするための契約です。一度加入すると契約内容の変更は不可となるため、特約による保障範囲や保険料の取扱いには注意しましょう。
不動産相続で注意したいのは「団信があれば債務承継は避けられる」とは言い切れない点です。団体信用生命保険の趣旨や仕組みを正しく理解して、それぞれで保険の状況をチェックしておきましょう。
1.団体信用生命保険とは
団体信用生命保険(団信)とは、住宅ローン返済中に死亡・高度障害などの事情が生じた時、残高に対して保険金を支払う契約です。家を購入した時等のローン契約時に加入し、保険料は原則としてローン金利に上乗せされています。
1-1.万一の時に住宅ローンの残高をゼロにできる
団体信用生命保険に加入すると、住宅ローンの契約者が死亡や高度障害などで返済できなくなった場合、保険金が支払われて住宅ローンの弁済が完了します。残高がゼロになり、以降の返済が必要なくなるのです。契約内容によっては、がんや脳卒中などの特定疾病や要介護状態も上記保障対象となる場合があります。
1-2.加入できるのは住宅ローン契約時
団体信用生命保険に加入できるのは、住宅ローンの契約する時だけです。その上、加入にあたっては病歴等の告知義務と審査が定められており、必ず入れるとは限りません。必要な特約は漏れなく付け、約款を読み、さらに保険の引受け(=加入)が見込める商品を選ぶ必要があります。
1-3.掛金の支払いは住宅ローンと一本化される
団体信用生命保険のうち保険料がかかる契約は、住宅ローン金利に保険料分を上乗せし、保障額をローン残高と連動させます。毎月返済額と別に保険料を請求されることは、原則としてありません。もっとも、2017年9月より前に契約した住宅金融支援機構のフラット35については、年に一度「特約料」を払う方式が採用されています。
2.団体信用生命保険の種類と保障範囲
団体信用生命保険の契約には3つのタイプが存在し、加入しやすさや保障範囲が異なります。ざっくりと特徴をまとめると、次の通りです。
▼ 団信の契約タイプ(保険料が安い順)
- 一般団信:死亡+高度障害を保障
- ワイド団信:死亡+高度障害を保障(一般団信より加入条件が緩い)
- がん団信・疾病団信:死亡+高度障害+その他の障害や長期療養を保障
2-1.一般団信
死亡や高度障害を保障するタイプの保険契約は加入者が最も多く、他のタイプと区別して「一般団信」と呼ばれます。ここで言う高度障害とは、約款で定められていますが、一般的には交通事故や労働災害で言うところの第3級以上の障害や、半年以上の入院が必要となる状態を指します。
住宅購入及びローン契約では、住宅金融支援機構のフラット35を除き、一般団信への加入が原則として義務付けられています。購入物件の種類やローン契約者の固有の事情に関わらず、人生に一度は接する機会がある保険タイプです。
2-2.ワイド団信
ワイド団信とは、一般団信よりも引受範囲が広い団体信用生命保険のことです。引受範囲は「加入条件のハードル」とも言い換えられます。がん罹患歴や持病がある場合など、告知すべき事項が原因で一般団信に入れない場合は、ワイド団信が選択肢に入ります。
一般団信との違いは、引受け条件が緩和されている分、後者の保険料が高くなる点です。通常は保険料無料になるところ、ワイド団信だと住宅ローン金利が年0.2%から0.3%程度は上乗せされます
2-3.がん団信・疾病団信
がん団信や疾病団信は、団体信用生命保険の一種で、一般団信やワイド団信の保障範囲を広げたものです。がん団信は、死亡や高度障害に加え、がんと診断された場合も保障する契約です。がんの他に脳卒中や急性心筋梗塞、高血圧、腎疾患・膵疾患などの生活習慣病、その他の病気やケガによる長期療養を幅広く保障する保険契約は、疾病団信と呼ばれます。
がん団信・疾病団信は保障が手厚くなる分、保険料も上がります。それでも、住宅ローン残高が高額に及ぶ場合は、債務相続への備えとしてベストな選択と言えます。
3.団体信用生命保険によるローン完済の流れ
団信の保険金請求(住宅ローンの完済)の手続きは、近親者から金融機関に連絡し、請求書類を提出するだけです。残った住宅を売却・処分できるようにするため、抵当権抹消登記も忘れず行いましょう。
3-1.金融機関への連絡
団信加入者の身に死亡・高度障害などの事情が発生した時は、まず住宅ローンを契約した金融機関に連絡しましょう。その際は次の情報をなるべく全て伝える必要があります。
また、相続放棄により債務の解消を図る可能性があることも考えて、詳細な契約内容や保険金の支払い条件について先に確認しておくと安心です。
▼ 金融機関に連絡すべき情報
- 被保険者の名前
- 保険証券の番号
- 被保険者番号(設定されている場合)
- 保険金の支払いを求める理由(死亡や障害、手術など)
3-2.請求書類の提出
金融機関への連絡後、保険金請求のための書類提出が必要です。書類提出は請求期限内に行う必要があり、約款では死亡から2か月以内と定められるのが一般的です。以降も請求は可能ですが、法的には3年で権利が消滅する(保険法第95条第1項)点に要注意です。
提出する請求書類は保険会社及び金融機関によって異なりますが、団信弁済届を作成し、その他に次の書類を添付するのが一般的です。
▼ 死亡した場合の必要書類
- 死亡診断書
- 被保険者の除籍謄本
- 受取人の印鑑証明
- 受取人の戸籍抄本
- 相続関係説明図
▼ 高度障害を負った場合の必要書類
- 団信弁済届
- 事前判定依頼届(医師が作成)
- 障害診断書(同上)
3-3.保険金の支払い
団体信用生命保険に請求書類を提出すると、免責事由に該当しないか審査されます。審査では、医療機関や捜査機関に確認がとられることもあります。
支払いについて決定された保険金は、保険会社から住宅ローンを契約した金融機関に直接支払われます。金融機関は保険金を受け取り、住宅ローンの完済として処理を行います。
3-4.抵当権抹消登記の申請
団信で弁済された後に忘れてはならないのが、法務局での抵当権抹消登記です。抵当権とは、住宅ローンの滞納や支払不能が生じた時に、購入した家を競売にかける権利のことです。この権利は住宅ローン残高がある時に限って必要なものですが、残高がゼロになったからと言って自動で抹消されるものではありません。金融機関の協力を得て抹消するまで抵当権はついたままであり、売却は不可能です。
もしも抵当権抹消登記のやり方が分からなかったり、時間がなく対応できない場合は、司法書士に依頼しましょう。最低限の必要書類を示しておくと、次の通りです。
▼ 抵当権抹消登記申請の必要書類
- 登記事項証明書
- 登記済証または登記識別情報
- 登記原因証明情報(金融機関が発行する弁済証書)
- 委任状(金融機関が発行)
4.団体信用生命保険の注意点
住宅ローンの返済について「団体信用生命保険があるから大丈夫」と信用しすぎるのは禁物です。そもそも加入できなかったり、保障範囲についての誤解等が原因で保険金が支払われなかったりする可能性がゼロではないためです。それぞれの契約内容をチェックし、正しく理解するようにしましょう。
4-1.年齢や告知内容によって加入できない場合がある
団体信用生命保険の加入は年齢及び健康状態に注意しましょう。加入時の年齢は「ローン完済時に80歳前後」であることが求められ、既に一定の年齢に達していると審査に通りづらくなります。
最も注意したいのは、病歴や手術歴について保険会社に伝える「告知義務」を負う点です。告知内容によっては、団信の審査に通らなくなることもあるため注意が必要です。
▼ 一般的な告知義務の内容(一般団信の場合)
- 直近3か月以内に受けた治療・投薬の内容
- 過去3年以内の病歴・手術歴(下の表にある病気)
- 手足の欠損、機能障害
- 背骨(脊柱)の障害
- 視力・聴力障害
- 言語・そしゃく障害
▼ 告知義務のある病気
心臓の病気等 | 狭心症、心筋梗塞、心臓弁膜症、先天性心臓病、心筋症、高血圧症、不整脈 |
---|---|
脳の病気等 | 脳卒中(脳出血・脳梗塞・くま膜下出血)、脳動脈硬化症 |
精神の病気等 | うつ病、神経症、てんかん、自律神経失調症、アルコール依存症、薬物依存症、知的障害、認知症 |
呼吸器の病気等 | 喘息、慢性気管支炎、肺結核、肺気腫、気管支拡張症 |
消化器の病気等 | 胃潰瘍、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、すい臓炎、クローン病 |
肝臓の病気等 | 肝炎、肝硬変、肝機能障害 |
腎臓の病気等 | 腎炎、ネフローゼ、腎不全 |
眼の病気等 | 緑内障、網膜の病気、角膜の病気 |
女性特有の病気等 | 子宮筋腫、子宮内膜症、乳腺症、卵巣のう腫 |
生活習慣病等 | 糖尿病、リウマチ、膠原病、貧血症、紫斑病 |
がん | がん、肉腫、白血病、腫瘍、ポリープ等 |
4-2.加入後の契約内容変更は不可
団体信用生命保険に加入した後、契約内容に不満があっても変更は受け付けてもらえません。がんや疾病に関する特約等、保障内容を選べるのは一度きりです。住宅ローン契約又は借り換えに伴う加入機会に適切な選択ができないと、完済まで必要な保障のない状態が続きます。
4-3.生命保険料の所得控除も不可
保険料がかかるタイプの団体信用生命保険に加入していても、所得の生命保険料控除は使えません。あくまでも契約上ですが、保険料を負担するのは金融機関であり、加入者が負担するのは住宅ローンの毎月返済額の一部であるためです。
もっとも「住宅ローン減税制度」があるため、保険料が高いからと言って、別に節税を意識する必要はありません。
4-4.ローン完済が出来ない場合もある
団体信用生命保険は、住宅ローンの弁済を100パーセント保障するものではありません。
保険金が支払われず住宅ローンの残高が減らないケースとして、滞納による団信の失効、免責事由に該当する告知義務違反があります。夫婦や親子で連帯債務者となってローンを契約していた場合も、連生型と呼ばれる保険契約でない限り、支払事由が発生した方の分しか保険金は支払われません。
5.住宅ローン返済中の不動産の相続対策
住宅ローン返済中の不動産を借入残高ごと子・孫に承継させる可能性がある場合は、2つの視点で相続対策しなければなりません。活用できるものとして、遺言や家族信託があります。
▼ 住宅ローン返済中の不動産相続で懸念される問題
- 団信でも残高ゼロに出来ず、各相続人に債務履行の請求が来る
- 所有者の認知症発症等が間接的原因となって物件価値が落ち、返済計画に支障をきたす
5-1.遺言でローン承継先を指定する
団信での住宅ローン弁済が失敗した時の備えとして、遺言で債務承継人の指定を行っておく場合があります。その目的は、住宅所有者と返済義務を同一人物に指定し、他の親族が返済義務を負う可能性を排除することにあります。
もっとも、遺言で住宅及びローンの承継を指定しておく方法は、共同相続人に借入残高を負担させる可能性を排除できるとは言えません。相続開始の時において有した債務の債権者は、法定相続分に応じて権利行使できる(民法第902条の2)と定められているためです。
仮に、負担しなければならない住宅ローン残高が個人資産で払える程度の額だったとしても、住宅ごと相続放棄されてしまう場合があります。当てはまるケースでは、本来なら、生前のうちに不動産対策をしておくべきです。死後になって「共同で相続放棄しなかったせいで、不動産の承継とは無関係の親族が弁済に応じなければならない」等といったトラブルが起きかねません。
5-2.家族信託で返済計画の履行を引き継ぐ
一定の売却価値がある物件や、賃料経営によって収益を得ている不動産については、生前のうちに家族信託で返済計画を引き継いでおくと良いでしょう。
上記のような物件は、団信と物件価値を使って住宅ローン残高を解消し、続けて利益を見込む計画になるはずです。実際には、所有者(住宅ローン契約者)の高齢化が進むと、認知症発症等が原因で維持管理が滞り、生前の物件価値・収益力が下がって返済計画に支障をきたす恐れがあります。
不動産を信託財産、承継人を受託者として家族信託を設定しておけば、不動産所有者の健康状態に関わらず信託財産の維持管理や経営を行えます。一緒にローン返済計画の履行も引き継いでおけば、承継人にとって最もいい活用方針を早くから立て、実行できます。
もっとも、住宅ローン残高がある不動産を信託財産に組み込むには、抵当権者である金融機関の承認が必要です。契約する金融機関での事前相談は忘れず行いましょう。
6.まとめ
団体信用生命保険は、住宅ローン契約時に加入することで、返済中の死亡・高度障害・要介護状態等を保障し、残高をゼロにしてくれる契約です。過信は禁物であり、住宅ローンの債務者(団信の加入者)は次の2点に留意しましょう。
- 年齢や告知内容により加入できない場合がある
- 保険金が支払われない等の理由で残高をゼロにできない場合がある
ある程度の年齢に達してから不動産をローンで購入するケースだと、団信に入れるか・どんな特約を付けるかは、債務承継の有無に関わってきます。相続した債務や課税に対応できるよう、資金準備等の生前対策も必要です。高齢化が進んできたら、弁護士、司法書士等の士業と十分相談するようにしましょう。