2021年11月15日

今そこにある危機⁉
生産緑地の2022年問題

今そこにある危機⁉<br>生産緑地の2022年問題

皆様は「生産緑地」という言葉は聞いたことがあるでしょうか。馴染みのない方も多いかもしれません。2022年、生産緑地は大きな転換期を迎えます。そして、それによって生じる問題、2022年問題が一部の界隈を賑わせています。本記事では生産緑地について、そして生産緑地に関する2022年問題について解説します。

生産緑地とは

生産緑地とは、都市計画法によって市街化区域(※1)に指定されている区域にある農地のうち、生産緑地法による指定を受けている農地です。詳しくは後述しますが、農地の状態を維持することを条件に、様々な優遇を受けています。簡単に言えば「都市部にある農地」のうち「農地として残しておきたい」農地のことです。
なお、生産緑地に指定されるには以下の条件があります。

生産緑地を受ける条件(生産緑地法第3条)
  1. ① 公害又は災害の防止、農林漁業と調和した都市環境の保全等良好な生活環境の確保に相当の効用があること
  2. ② 公共施設等の敷地の用に供する土地として適しているものであること
  3. ③ 用排水その他の状況を勘案して農林漁業の継続が可能な条件を備えていると認められるものであること
  4. ④ 500㎡以上の規模の区画であること(※2)

現在、日本には12332.3haもの生産緑地があります。これは東京ドーム約2637個分に相当する広大な面積です。地域による内訳としては、関東地方が7075haと全体の半分以上を占めています。以下に近畿、中部と続き、これらの地方以外には生産緑地はほとんどありません。その中でも、東京、神奈川、埼玉、千葉の東京大都市圏、大阪を中心とした大阪大都市圏、愛知を中心とした名古屋大都市圏に集約されています(※3)

※1 市街化区域
すでに市街地を形成している区域と、おおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域

※2 条例により300㎡まで引き下げが可能

※3 国土交通省『令和2年都市計画現状調査』

生産緑地ができた背景

生産緑地の根拠である生産緑地法は1972年に制定されました。当時、都市部への人口流出が目まぐるしく、それにともなう土地不足が深刻になりました。そこで都市部の農地が次々に宅地の転用されるようになりました。しかし、農地には環境保全や地盤保持、保水機能など機能を有しているという側面もあります。結果、住環境の悪化、災害の多発といった社会問題が発生しました。そこで生産緑地法によって生産緑地を指定する事により、農地の宅地化の流れに歯止めをかけ、都市部における農地を保護しようとしたのです。
しかし、施行された後も農地の宅地転用の流れが止まることはありませんでした。そこで1992年生産緑地法が改正され、都市部の農地は宅地への転用を進めていく「宅地化農地」と農地として保存する「生産緑地」に分けられました。なお、現在ある生産緑地のうち、約80%は1992年に指定を受けています

生産緑地のメリット

次に生産緑地に指定されるメリットについて見ていきます。主なメリットして①固定資産税の優遇と②相続税の納税猶予が挙げられます。

固定資産税の優遇

通常、市街化区域にある農地は宅地並みの評価で固定資産税が課されます。これは市街化区域では農地を積極的に宅地に転用させていこうという方針があるためです。しかし、生産緑地に指定されると、その農地は農地としての評価を受け、農地として課税されます。
下図のように生産緑地に指定されていない農地に比べ、納税額は10倍、場合によっては100倍もの差となります。

分類 評価方法・課税方法 税額のイメージ
一般農地 農地評価 千円/10a
市街化区域農地 生産緑地 農地評価 数千円/10a
一般市街化区域農地 宅地並み評価(農地に準じた課税) 数万円/10a
特定市街化区域農地 宅地並み評価(宅地並み課税) 数十万円/10a

農林水産省『農地の保有に対する税金』を基に作成

相続税の納税猶予

相続や遺贈によって生産緑地を取得しても、相続人や受遺者が生産緑地において農業を続ける場合には相続税のうち、一定額の納税猶予を申請することが可能です。つまり、相続時には払わなくてもいいということです。ここで注意すべきはあくまでも猶予であって、免除ではないということです。相続後、営農を廃止する、3年ごとの「継続届出書」と提出しないといった場合などには、相続時まで遡って課税がされます。さらには猶予期間に応じた利子税を払う必要も生じます。なお、営農をしていた相続人が死亡した場合などには、猶予されていた相続税が免除されます。

生産緑地の義務

税制面においてはこのようなメリットがある反面、所有者には生産緑地を農地として維持管理する義務が課せられています。また、生産緑地では①建築物その他の工作物の新築、改築又は増築②宅地の造成、土石の採取その他の土地の形質の変更③水面の埋立て又は干拓をするには、市町村長の許可を得る必要があり(同法第8条)、許可を得ずにこれらの行為をした場合には原状回復を命じられることがあります(同法第9条)。なお、生産緑地に指定されるとその旨を掲示する義務も課せられます(同法第6条)

生産緑地の解除

厳しい営農義務が課せられている生産緑地では指定を解除したいという所有者も少なくはありません。しかし、生産緑地の解除はいつでもできるというわけではありません
解除には以下の要件があります。

  1. ① 生産緑地の指定を受けてから30年が経過したとき
  2. ② 農業の主たる従事者が死亡したとき
  3. ③ 農業の主たる従事者に農業を不可能にさせる故障が生じたとき

なお、正確にいえば、これらの事由が生じたときは、市町村に対して生産緑地を時価で買い取ることを請求できるようになります。

2022年問題とその影響

生産緑地の約80%は1992年に指定を受けています。そして、生産緑地は指定から30年経過するとその指定が解除されます。ここでピンとくる方もいると思います。2022年、これらの生産緑地の解除が一斉に行われます。この解除によって生じる問題が2022年問題です。具体的に見ていきましょう。

農地の維持が困難になる

生産緑地が解除されると、税制面での優遇がなくなります。結果、都市部の農地の所有に対する負担が過大になり、農地の維持が困難になるといった事態が考えられます。しかし、これは特定生産緑地(詳細は後述)の指定を受けることにより、解決できる問題ですので、深刻に考える必要はありません。

土地の大量供給による地価の下落

生産緑地に指定されてから30年が経過すると、所有者は市町村に対して生産緑地を時価で買い取ることを請求できます。しかし、市町村は必ずしも時価で買い取らなければならないわけではなく、検討の結果により買い取らないといった判断をすることもできます。市町村が買い取らなかった場合、農業従事者への買取り斡旋が行われます。農業従事者への買取りが不成立に終わると、生産緑地を宅地への転用できるようになります。なお、市町村が生産緑地を買い取ったという実績はほとんどありません。また、時価で買い取る農業従事者はほとんどいないのが現状です。そこで指定解除された大量の生産緑地が宅地に転用されること、そしてその宅地が供給されることにより地価が下落すること、アパートやマンションの空室率が増加することなどが懸念されています。

都市の環境悪化・災害の多発

そもそも、農地は環境保全や地盤保持、保水機能など機能を有しており、それが農地を保護する理由の一つになっていました。生産緑地の解除、それに伴う農地の宅地転用が相次ぐと、都市の環境の悪化、災害の多発などの問題が発生するおそれがあります。

行政の対策

では、この2022年問題に対して行政は同様な対策を行ってきたのでしょうか。まず、2015年に都市農業振興基本法を成立させ、2016年には都市農業振興基本計画を閣議決定しました。そこで都市部の農地について「いずれ宅地化するもの」から「都市にあるべきもの」への方針転換が行われました。その方針を受けて、2017年に生産緑地法の改正が行われました。改正のポイントは「特定生産緑地制度の創設」と「規制の緩和」となっています

特定生産緑地制度

特定生産緑地制度は2022年に指定後30年を迎える生産緑地の保全を目的として創設されました。簡単に言うと、「生産緑地の期限を延長できる制度」です。市町村長は、生産緑地について、特に保全すべきであるとする物には特定生産緑地として指定することができます(生産緑地の所有者の同意が前提となります)。特定生産緑地に指定されると、生産緑地に関する税制面の優遇や営農義務、買取り申出ができる期間が10年間延長されます。また、その後は10年ごとの更新が行われます。なお、特定生産緑地の指定は、生産緑地の指定から30年経過までに行う必要があります。

規制の緩和

また、様々な規制の緩和が行われました。まず、生産緑地には農作物の生産や出荷、貯蔵・保管などを目的とする施設のみの設置が認められていました。改正後はこれらに加えて、製造や加工、農作物や加工品の販売、農作物等を主要原料とする料理の提供をするための施設の設置が認められるようになりました。農家の収益性の増加により、生産緑地の維持を安定させることが規制緩和の目的です。また、面積要件については500㎡以上が必要だったものが、条例により300㎡まで引き下げてもよいことになりました。

まとめ

以上が生産緑地と2022年問題についての説明です。生産緑地の所有者はもちろんのこと、賃貸不動産オーナーやマイホーム購入や不動産投資を検討している方、さらには都市環境の面においては生産緑地の近郊にお住まいの方にも影響を及ぼす問題であることがご理解いただけたと思います。2022年に解除を迎える生産緑地の所有者には、特定生産緑地の指定を受けて農地を維持する、買取りの申出をして宅地転用するなどの選択肢があります。
どの程度の生産緑地が宅地に転用されるのか、今後も注視すべきであるといえるでしょう。

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『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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