2021年5月13日

これからどうなる?人口減少下における賃貸経営のポイント

これからどうなる?人口減少下における賃貸経営のポイント

人口減少が進む中、賃貸需要も減って賃貸経営に悪い影響が出るのではという不安の声も聞かれます。人口減少によって、これからの賃貸経営はどのようになるのか気になるところです。

この記事では、人口減少下における賃貸経営について解説していきます。人口減少下で賃貸経営を行なう際の考え方、戦略、具体的な対策方法などを知りたい方は、参考にしてみてください。

人口減少が与える賃貸経営に対する懸念

2008年以降、国内の総人口数が減少し続けています。国立社会保障・人口問題研究所が出している推計によると、2050年には国内の総人口が1億人より少なくなると予測されています。(※1)

その中でも、生産年齢人口数の減少傾向が顕著です。生産年齢人口とは、社会の中において、経済活動の中核を担える層の年齢の人口を言います。具体的には、15歳から64歳までの人口数のことです。

国内で生産年齢人口数の減少傾向が始まったのは、1995年からです。1995年時点での生産年齢人口数は8716万人でしたが、2015年の時点では7629万人まで減少しています。さらに、2040年時点では5787万人、2060年時点では4418万人まで減少すると予測されています。(※2)

物件の入居者から賃料収入を得て収益を上げるのが賃貸経営です。そのため、賃貸経営は、物件の入居者の存在があってはじめて成り立つビジネスになります。生産年齢人口数の減少は、物件の入居者の数に影響が出る可能性も少なくないと考えられます。そのようなことから、人口減少の影響で賃貸経営の収益率悪化が懸念されているのです。

人口減少と賃貸経営の収益率悪化は直接結びつかない

人口減少による賃貸経営の収益率悪化が懸念されるところですが、実際にはそれほど大きな影響はないと考えられます。なぜなら、人口減少と比較して世帯数の減少率はゆるやかになると予測されているからです。

国立社会保障・人口問題研究所による2018年の世帯数の将来推計によると、世帯総数は2023年までは増加するとされています。具体的には、2015年時点での5333万世帯から2023年時点では5419万世帯になると予測されているのです。その後、2023年以降から世帯数は減少に転じて、2040年には5076万世帯になるとされています。(※3)

2015年時点から2040年時点までの推定の世帯数減少率は、5%弱(※3)にすぎません。同期間の推定の総人口減少率が15%(※2)程度であることを考えると、その割合はかなり低くなっています。

賃貸物件には、1部屋につき1世帯が入居します。賃貸物件の入居者数をカウントする上でその基準となるのは、人の数ではなく世帯数です。人口減少下であっても、世帯数の減少率がゆるやかであれば、賃貸物件の入居者数も大きく減ることはありません。したがって、人口減少が賃貸経営の収益率悪化に直接に結びつくものではないのです。

人口減少下で賃貸経営を行なう際の考え方

人の数が減るということは環境が変化することに他なりません。環境が変化していく中で各企業が事業経営を行なう際、その状況に適したサービスを提供しなければ生き残れません。それは、賃貸経営を行なう場合も同様です。したがって、人口減少という環境の変化に適応させるという考えを持ちながら、賃貸経営を行なっていく必要があります。

人口減少によって環境が変化しても、その中には賃貸物件に居住するという人の需要は必ず存在します。その需要の大きい部分に的を絞って賃貸経営を展開するという発想が大事です。

また、人口減少で供給過剰が生じた場合、他の賃貸経営者との差別化をはかっていかなければなりません。そのためには、自分の強みを活かしながら賃貸経営を行なうという考え方が重要になります。賃貸経営者の中には、自分の強みと言われてもよくわからないと思う方もいるでしょう。しかし、深く掘り下げていくと、誰にでも強みはあるものです。

たとえば、賃貸経営歴の長い方であれば、金融機関からの信用力も高くなります。それにより、好条件で融資が受けられる可能性も高くなり、より有利な形で賃貸経営を行なえます。
立地条件のいい土地を相続した場合、それだけでも需要の高いエリアで賃貸経営を行なえるため、十分強みになるでしょう。その他、不動産業者や管理会社に勤務している家族や知人の方がいる場合、賃貸経営を行なう上でそのネットワークも強みになります。

このような強みを活かして他と差別化をはかることができれば、人口減少下の中でも問題なく賃貸経営を行なっていけるでしょう。

人口減少下での賃貸経営の戦略

賃貸経営は、物件を購入したり、新築したりした後、数十年単位の期間で行なうケースも少なくありません。将来的にも人口減少が予測される中で賃貸経営を行なうには、現時点ではなく先のことを考えて戦略を立てることが大切です。

人口減少下で賃貸経営を行なう際、どのような戦略を取ればいいのか、いくつか紹介していきましょう。

入居者のターゲットを単身者または夫婦のみ世帯にする

国内の総人口は将来的にも減少傾向になるとされていますが、世帯別で見てみると、逆に増加傾向になると予測される世帯の類型も存在します。国立社会保障・人口問題研究所による2018年の世帯数の将来推計によると、単身者世帯の割合は、2015年から2040年までの間に4.8%増加すると予測されています。同期間の夫婦のみ世帯も0.9%増加するとの予測です。(※3)

上記推計の結果、人口減少下でも、単身者または夫婦のみ世帯の間では、賃貸需要が高いと考えられます。そのため、物件の部屋をワンルームまたは2LDKにした上で、単身者または夫婦のみ世帯をターゲットに募集すれば、入居率を高められるでしょう。

高齢者向け物件の賃貸経営も効果的

高齢者向けの物件を購入したり、新築したりして、高齢者をターゲットに入居者を募集するのも効果的です。

国内では、人口減少とともに少子高齢化が進んでいます。1995年以降、生産年齢人口数は減少をたどっていますが、65歳以上の高齢者の人口数は年々増加しています。1997年には、65歳以上の高齢者の人口数が14歳未満の人口数を上回りました。2017年時点での65歳以上の高齢者の人口数は、3500万人以上にのぼっています。(※1)

世帯数に目を向けてみても、増加の傾向は変わりません。国立社会保障・人口問題研究所による2018年の世帯数の将来推計によると、2015年から2040年までの間に、65歳以上の高齢者世帯数は、1918万世帯から2242万世帯に増加すると予測されています。(※3)

そのようなことから、高齢者向け物件による賃貸経営は高い需要が見込めるでしょう。

入居者を外国人に特化して賃貸経営を行なう

入居者を外国人に特化する戦略も人口減少下における賃貸経営では有効です。

国内では、人口減少による労働者不足を解消する目的で、外国人労働者を積極的に受け入れるようになりました。2019年10月時点での外国人労働者数は、約166万人に上り、過去最多を更新しています。(※4)人口減少が継続する限りは、将来的にもこの傾向が続く可能性が高いです。

したがって、入居者を外国人に特化して行う賃貸経営は、人口減少下の中でも効果的な戦略だと言えます。

人口減少下における賃貸経営の具体的な対策方法

人口減少下では、その環境に適した戦略を練った上で賃貸経営を行なう必要があります。そこで、人口減少下における賃貸経営の具体的な対策方法について、いくつか解説していきましょう。

資金に余裕を持たせて賃貸経営を行なう

人口減少下において、将来新築される物件数の割合によっては、供給過剰になって賃料下落が生じやすくなる可能性も否定できません。賃料下落が生じるとその分収益率も少なくなるため、賃貸経営で赤字になるリスクも高くなります。

賃貸経営で赤字が発生すると、資金の持ち出しが必要となります。そのため、賃貸経営をする際には、資金に余裕を持たせておくことが大切です。資金に余裕があれば、赤字が生じた場合でもキャッシュフローが回りやすくなるため、その分安定的に賃貸経営を行なえます。

賃貸経営を行なう際の物件の選択も重要

人口減少下で賃貸経営を行なう場合、物件の選択も重要になります。

将来的にも人口減少が予測される中、新築マンションを賃貸経営目的で購入するのは好ましくありません。不動産業者が新築マンションを販売する場合、人件費や広告費と業者の利益を上乗せして価額が決定するのが通常です。そのため、新築マンションの場合、販売価額が物件の相場価額より高くなるケースも多いです。

物件の販売価額が相場価額より高いと、その分ローン返済などの経費の負担も大きくなり、収益率も低くなります。そのような中で、賃料下落や空室が生じた場合、赤字リスクも大きくなります。

したがって、人口減少下で賃貸経営を行なうのであれば、中古物件狙いでいくほうがいいでしょう。中古物件であれば、販売価額に人件費や広告費と業者の利益を上乗せされることは基本的にありません。その結果、経費の負担も抑えられて、収益率も高くなります。

また、物件の購入資金は、頭金の割合を多くして、ローンの借入をできるだけ少なくすることが大切です。目安としては、購入代金の頭金が20%程度、購入する際の諸費用を10%程度の資金を準備しておくと赤字リスクを抑えやすくなります。

購入する物件のエリア選定も大切

人口減少下で賃貸経営を行なう場合、購入する物件の種類だけではなく、エリア選定も大切になります。

多くの人が訪れるエリアは、賃貸需要が安定しているため、賃料下落や空室リスクが発生しにくいです。多くの人が訪れるエリアとしてあげられるのが、企業や学校が複数あるところです。また、人口数が数十万人規模で減少傾向がない市区町村のエリアも安定した賃貸需要が見込めます。

したがって、このようなエリアにある物件に絞って購入するといいでしょう。

人から選ばれやすい物件にする

人口減少下でも、人から選ばれやすい物件を保有して賃貸経営を行なえば、赤字や空室リスクを抑えることが可能です。

保有物件での生活の利便性を高くしてあげることで、人から選ばれやすくなります。たとえば、部屋には洗濯機と乾燥機を備え置けば、入居者は洗濯物を乾かすためにコインランドリーを利用する必要がなくなります。そのような生活上の利便性に魅力を感じてもらうことができれば、部屋の内見者を増やすことができるのです。

また、部屋の内見者を増やすための方法として、ネット検索されやすくすることがあげられます。ネット検索によって賃貸物件を探す人も少なくありません。きれいに整えた部屋の写真を掲載した上で、物件の情報を詳しく記載しておくと、人々からネット検索されやすくなります。それにより、部屋の内見者が増えて、入居率を高められるでしょう。

人口減少下の環境に適応して賃貸経営を行なっていくことが大切

人口減少下でも、物件の入居者数に直接関係してくる世帯数の減少率は、総人口数と比較してゆるやかです。したがって、人口減少下でも、賃貸需要が大きく減ることはないでしょう。

しかし、将来新築される物件数の割合によっては、人口減少の影響で供給過剰になる可能性もあります。そのため、今後は人口減少という環境変化に適した戦略を練った上で、賃貸経営を行なっていくことが大切です。

参考:

※1 総務省 情報通信白書平成30年版 人口減少の現状
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd101100.html

※2 総務省 情報通信白書平成29年版期待される労働市場の底上げ
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc135230.html

※3 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」-2018(平成30)年推計-
http://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2018/hprj2018_PR.pdf

※4 厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ令和元年10月末現在
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09109.html

佐伯 浩之

佐伯 浩之(司法書士)

自動車関係、広告関係企業勤務を経て、資格取得後に司法書士業へ転職。 2 か所の司法書士事務所に勤務して、約 4 年間、不動産・会社法人登記業務に携わる。 司法書士として独立後は、相続登記や相続放棄などの相続手続きを中心に司法書士業務を行なっている。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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